1-35 聖女、王都へ行く その3 初めて見た王妃様と王子様
定例祭が始まった。
壇上では司教様が聖典の一節を読み上げている。
世界の平和と五穀豊穣のお祈りの文章だ。
最後に皆で手を合わせ黙祷する。
司教が説教を続ける。
「神は姿形を変え、常に我々の廻りにいます。私達の生活を見守っているのです。
時に我々は困難に巻き込まれます。多くの者が神に救いを求めるでしょう。
しかし神が直接我々を救うことなどありません。神は見ておられます。
あなたが困難を克服する課程を、勇気を持つ姿勢を、すべてを見ておられます。いつか私達も天に召されれます。天の門前に跪き神の裁可を待つあなたは自分の人生を振り返ります。神に祝福される人生を過ごしたでしょうか?
天の門をくぐる資格はあるのでしょうか?
神は常に我々を見守っているのです」
教典の当たり障りのない部分は正直アクビが出そうになる。
が、聖女候補は壇上の隅で並んで立っているのでアクビなんか
してたら笑いの種になっちゃう。
気を紛らわすために信徒席を眺める。
中央が王族、その周りが貴族に教会関係者か。
席にも序列があるのね。
王族で来ているのは王妃様とアレックス王子様と聞いている。
王妃様は教会の定例祭なのでそんなに派手な衣装は身につけていないのにも関わらず、めっちゃ美人オーラ出してます。
その横に座ってるアレックス殿下も王妃様に似たのだろうか優しそうなイケメン。
初めて王族を見るのだが、壇上から見下ろす形になろうとは夢にも思わなかったわ。
定例祭は無事終了。
信徒の皆さんは退場する際に出口付近の両側に設置されてるカゴの中に寄付金を入れていく。
皆ぞれぞれが出せる金額を出す。
中には入れない人もいるけど、とがめる人はいない。
王族や貴族も自分のポケットから出したお金を入れているが、これはポーズのような物。
貴族は元より特に王家からの寄付は莫大な額が毎月教会に送られているのだ。
その代わり、と言っていいのかどうかわからないけど私達聖女候補を始め教会が抱える治癒魔法隊は王家や貴族のためにかり出される。
全員の退場を見守り私達のお仕事も終了。
お昼を食べたら午後は待望の自由時間!
ビアンカとイヴォンヌはお昼を食べる前に着替えていそいそと出掛けてしまった。
ビアンカが今日は負けないわよ!と息巻いていたが何と戦うんだろう?
クロエが教えてくれた。
「日曜限定の食べ放題バイキングに食べ比べに行くんです」
毎回イヴォンヌの圧勝らしい。
「そ、そうなんだ。すごいね」
「私も一度ついて行った事がありますが・・・もういいです」
いるんだなぁ、この世界にも。
フードファイター。
クロエは午後は実家に帰ると言っていた。
私は図書館にも行きたいけど、生活用品とかちょっとした物を買いに行かなきゃならない。
「誰か一緒に行ってくれないかな。お店がどこにあるかわからないし」
そうだ、カミーラさんを誘おう。
「すいません、午後は友人を訪ねる予定です」
「そうなんだ。気をつけてね。いってらっしゃい!」
よし、一人で王都を探検に行こう。
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マチルダ王妃とアレックス王子は協会関係者と昼食を共にしてから王城に帰るため一緒の馬車に乗った。
「アレックス、今日は聖女候補が一人増えてたわね」
「そうなんですか?ミサに出席するのは久しぶりなので気がつきませんでした」
「はぁ、我が息子ながらニブチンねぇ。かわいかったわよ」
「そうでしたか、よく見ていませんでした」
「あなたもそろそろ成人だし、お見合いの話も多数舞い込むでしょ。
免疫つけておかないとコロっと騙されるわよ」
「うーん、確かに免疫はないですね、ははは」
アレックスは壇上の一番隅に立っていた新しい聖女候補を思い出していた。
確かに綺麗な女性だったな。
「なにニヤニヤしてんのよ」
「してませんよ」
「あらそーう?」
今度はマチルダがニヤニヤしだした。
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「わ、凄い豪華な馬車!」
傍らを通り過ぎていった馬車に見入っていたら近くのおじさんに怒られてしまった。
「コラ、お嬢ちゃん。アレは王妃様の馬車だよ。通り過ぎるまで頭を垂れておくのが礼儀だよ」
「そうなんですね。教えてくれてありがとう、おじさん!」
さっき壇上から見かけた王妃様が乗ってらっしゃるのね。
「私、本当に王都に来たんだなあ」
到着してからはかなり慌ただしい日々だったし、教会から外に出るのは今日が初めてだ。
王妃様の馬車をみかけて改めて自分が王都に居ることを実感した。
「東京で有名人見かけた感覚、みたいなもんかな」
だとすると私はオノボリさんの最たる物ね。
さて買い物だ。とりあえず王城の門前広場まで行けば商店街はすぐにわかるらしい。
門前広場について辺りを見渡す。
まず目に付くのが背の高い城壁と掘りに守られたお城だ。
その真ん前に大理石が設置してあり衛兵が立っている。
「衛兵さんこんにちは!これはなんですか?」
「お嬢ちゃん、これは勇者の剣だよ。勇者しか掴めないと言われる伝説の剣さ。
なんなら試しに掴んでごらん」
「え、いいの?じゃあちょっと・・・・
あれ?掴めない。そこにあるのになんで?」
衛兵さんはニコニコ笑っている。
「勇者の資質を持った人しか掴めないんだそうだ。
残念ながらお嬢ちゃんは勇者じゃないみたいだね」
「あはは、残念でもないですけど。ありがとう!」
ついでに商店街の入り口を尋ねる。
あそこだよ、と指さして教えて貰った。
再び礼を言い、商店街を目指した。
いざ私の戦場へ!なんちゃって。
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