1-25 聖女教会へ行く その3 同室のカミーラ嬢
そんなこんなで半年以上が過ぎ、教会の生活もすっかり慣れた。
特別奉仕活動は滅多にない。月に1回あるかないか。
いつも詳細は知らされないし、自分の活動が人様から
どのように思われているのかさえも知るよしはなかった。
そんなことより今現在気になることが二つある。
まず一つは『勇者の呪文』。
図書室の司書さんに聞いてみたが原本は持ち出しも閲覧も許可がないと出来ないし、
その許可自体が滅多におりないそうだ。
保存のための写本をする時しか許可は出ないと思った方がいいと言われた。
興味本位での閲覧は不可能だそうだ。
勇者の物語だけでなく、勇者の研究本の類もかなりの数がある。
数が多すぎて勉強と奉仕活動の合間を縫ってすべてを
閲覧する作業は遅々として進まなかった。
まあこれは地道に調べていくしかなさそうだ。
時間ができたら公立の図書館にも行ってみよう。
もう一つの気になること。
同室のカミーラさんの事だ。
半年も同じ部屋で生活しているのにまだうち解けないでいる。
いや、私がそう思いこんでいるだけなのかな?
座学の成績は優秀。
部屋に居るときは勉強してるか寝てるかのどっちかなので
あまりしゃべる機会がない。
見ていると親しい友人とかもいないっぽい。
このミステリアスな雰囲気が私の興味を引いた。
すこし陰のある美人さん。いいわー、そそるわー。
数日帰ってこないこともある。サーラさんに尋ねてみると
奉仕活動の一環で出張に行ってる、とだけ教えて貰った。
あるんだ、出張。いいなあ。
私はほとんどウーファから出た事がないから
仕事という理由でもいいので外の世界を見てみたい。
鈴木さんが言っていた勇者のサポートをするときが来たらきっと
この街から離れることになるだろう。
お膳立ては鈴木さんがするような事を言っていたが
いつなのかは聞いてなかったな。
まあとにかく謎の美少女カミーラさん。
コッチもばれない程度に詮索してみよう。
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司祭室には司祭と特別奉仕担当の助祭がいる。
二人は書類を見ながら話をしていた。
「ふむ。君のレポートは逐一読ませて貰っているがその度に私は
本当かどうかを尋ねてきた。そうだな?」
「はい。おっしゃるとおりです。
なにせ目の前で見てきた自分が信じられない位ですから当然です」
司祭はパラパラと助祭のレポートをめくりながら質問した。
「この、貴族の視力が回復した話、にわかには信じられないが本当なのだろう。
ほぼ全盲だったそうじゃないか」
「はい。光を感知する程度はできたそうですがほぼ全盲でしたね」
「いったどうやったんだ」
「見ていてもよく解りません。患部に手をかざしてるだけのように見えます。
これは毎回同じですね」
司祭は別の書類にサインをして助祭に手渡した。
「私が確認したという書類だ。君のレポートと共に中央教会に持って行きなさい。
この間来たミュラー司教様に直接手渡すんだぞ」
「はい。心得ております」
助祭は書類を抱えて退室した。
「ふふ、ここでチャンスが巡ってくるとは。
聖女を排出すればこの教会の評価も上がるし、俺もいよいよ中央に昇れるかもしれん」
司祭は一人部屋の中でつぶやいた。
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書類を持って退出してきた助祭はカミーラを呼び出した。
「カミーラ君、護衛の任務だ。今回は少し長くなるぞ」
「了解しました。どこに行くんですか?」
「王都だ」
カミーラの肩書きはシスター見習いである。
だがそれは表向きの顔。
裏の顔は教会の抱える部隊の工作員だ。
カミーラは教会で活動する事になってから1年以上がたっている。
シェリーもエドも一緒に行動しようと言っていたが、
カミーラは教会で活動することにした。
ここなら裏の情報も集まりやすい。
行方不明の老師を探すきっかけがあるかもしれない。
それに、魔人の侵攻はすでに始まっている。
今お世話になっているこの国が倒れては
スフィーアの立て直しもままならなくなるだろう。
生き残りだけでは到底国など再興できないのだ。
シェリーとエドは冒険者として、カミーラは工作員としてこの国、
ルド王国で活動することとなったのだ。
「カミーラ君、明日は早くに出立する。もう寝なさい」
「わかりました」
王都に行けば久しぶりにシェリーとエドに会えるかもしれない。
顔にはださなかったが、内心嬉しかったカミーラである。
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カミーラさんはまた長期の出張奉仕活動に出掛けていくそうだ。
普段無口であまり表情を変えない彼女だが、
それとなく観察していた私にはわかっちゃうんだなあ。
ウキウキしてますわ、この娘。
普段より多めにおしゃべりにつきあってくれたし。
ほんのちょっとだけ笑顔も見せてくれた。
いったいどんな良いことがあるのか?
男?まさか。いやいやいや、だってこんなに美少女だし。
あーんもう。こっそりついて行きたい!
男以外だったらなにがあるだろ?
同人誌の即売会とか。
ないな。漫画とかないし。
甘い物?いやそれは私の方が詳しいな。
帰ってきたら聞いてみよう。
旅の話を聞いてみたい。