1-23 聖女教会へ行く その1 勇者の呪文
1-12 聖女はユカリ その2 からの続きになります。
港での事件の後、教会に行くことを両親に告げる。
そんなに慌てる必要はないので今の学年が終了してから行くことになった。
私は14才になっていた。
あと1年で学校も卒業なのだが、退学することになる。
その代わり教会では座学があり、
一般の学校を卒業するのと同等の資格が得られるので問題はない。
それに奉仕活動と言う名の仕事をすることになるのでオカネはかからない。
それどころか少ないけどお給料も出るらしい。
母は喜んでいた。
「教会でシスター見習いになればお見合いの申し込みも殺到するわよ。
セシリアは可愛いからなおさらね。私の若い頃にそっくりだし」
さりげなく自慢を織り交ぜてるし。
教会に住み込む事になるけど、近所だし休日に帰ってくる分には問題ないので
母もそんなに心配してない。
私は着替え等必要な物を抱えて教会にやってきた。
受付で名前を告げると、先日港で再会したシスターがやってきた。
「セシリアさん、改めましてこんにちは。私はサーラといいます。
それではついてきて頂戴」
「はい、よろしくお願いします!」
宿舎に案内された。
部屋は二人で一つらしい。
相部屋になる人は出掛けていていなかった。
開いてる方のベッドと机に荷物を置く。
手渡された修道着に着替えてシスターの後をついて教会内部を案内して貰った。
「今日は特になにも予定はありません。夕飯時には大食堂に来てくださいね」
「わかりました。あの、それまで先ほどの図書室で
本を読んでいてもいいですか?」
「勉強熱心ですね。もちろんいいですわよ」
「ありがとうございます!」
この教会の歴史は古く1000年前の建国と
ほぼ同時期に建てられたと言われている。
建物自体は何度か大規模な改修や立替があったらしく
当時の部分はほとんどないそうだ。
図書室にある蔵書もかなり古い物がある。
何十年かごとに重要な書籍類は手書きで複写され
貸し出し可能な本はすべて写本であるが。
私はゆっくりと膨大な量の本を眺めて歩いた。
あ、勇者の物語があった。
これは子供向けに簡単に略されてる物も含めるといろんなバージョンがある。
物語の大筋はどれも一緒なのだが細部が違っていたりする。
写本した人が書き加えたりあるいは削除したり簡単な表現にしたり
現代でも通じる文体にしたりと、細部は改変されている本が多いのだ。
私が手に取った勇者の物語の本は比較的新しい材質の紙だった。
これも現代語訳された本の一つなんだろうとパラパラとページをめくる。
出だしの部分は昔読んだ子供向けの物よりだいぶ堅苦しい文体だった。
もしかすると古い本の写本なのかな?
夕飯まで時間があるしちょっと読んでみるか。
今や使われてない古語が時々出てくるが何となく流して読んでみた。
うん、だいたい同じだわ。
勇者が魔王と戦うシーンは飛ばして最後のページをめくった。
「なるほど、ここでメダシメデタシになるのね。ん、あれ?」
写本した人の後書きがある。
この本はほぼオリジナルに近い非常に古い文章であることに付け加え
「以下の文章は解読不能。勇者が書き記した呪文の類と想像される。
損傷が激しく判読できない部分も多いがそのまま書き写しておく、か。
ふーん、そんなものがあったんだ」
私はページをめくり書き写された勇者の呪文?を見て目を見張った。
「この文字が読める者、我と同郷である君よ。・・・・へ・・・うと
・・・・・本に帰・・・」
前世で見慣れた漢字とひらがな。
それは日本語だった。
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大食堂に全員が集まった。食事の前に皆の前で簡単に挨拶をした。
シスター・サーラが締めくくる。
「それでは皆さん、セシリアさんと仲良くして頂戴ね。
では食事の前のお祈りを」
食事の前のお祈りは声を出さない。
胸に手を当てるポーズで黙祷したあと皆で一斉に食べ始める。
食事はおいしかった。、
調理は専門の調理師さん達が作ってくれるけど後片付けは当番制。
私の順番はまだ先だそうだ。
食堂を後にして部屋に帰る。
同室の人はまだ帰ってなかった。
さっきの文章を思い出してみる。
1000年前にこの世界を救った勇者は日本人である可能性が高い。
私のように転生してきたのか、転移?してきたのかは解らない。
判読不能な文字がなんだったのかが気になる。
推測すると日本に帰る事ができる?みたいな話なんだろうか。
過去の勇者の容姿はどんなだったのだろう。
日本人的な容姿だったら転移者の可能性が高い。
いろいろ予測できるが現時点では情報が足りなすぎる。
仕事と勉強の合間を縫って図書館で資料をあさってみよう。
オリジナルの本は読めるのかしら?
おそらく書庫の奥にしまってあり、関係者以外立ち入り禁止になってるかもしれない。
机に向かい想像を巡らしていると同室の人が帰ってきた。
「あ、お帰りなさい。今日から一緒に生活するセシリア・フィロワです」
ペコリと頭を下げる。
「そう、よろしくね」
私と同い年くらいの女の子はそっけなく返事をし、
自分の机に向かってなにか書き物を始めてしまった。
私なんか機嫌損ねるような事したかしら?
「あの、せめて名前を・・・・」
栗色の綺麗な髪をツインテールにした女の子はこちらを向いた。
「これは失礼、急いでいたもので。名前はカミーラ、姓はない。14才よ」
「カミーラさん。同い年だね!よろしくお願いね!」
「明るい方ね。こちらこそよろしく。まだ書き物があるからお話はまた後で」
カミーラは自分の机に向き直り書き物に集中し始めた。
うーん、ちょっとカラミづらいけど悪い人ではなさそう。




