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偽装貴族ー貧乏お嬢と治安悪めな御曹司ー  作者: mimi
第一部 野良の不良
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13/28

12.家庭環境の謎

2日後の昼休み。


恵がいつものようにコンビニのビニール袋を持ってユリカの前に座った。


「見てー!これマスカットタピオカだって」


緑の液体が入ったボトルを、ユリカの眼前に翳す。


「随分と毒々しい色してんな……」


「一口いるー?」


「いや、遠慮します……」


丁重にお断りしたその時、ヴー、とユリカのスマホが音を立てる。


五十鈴からのメッセージだった。


『数学』


と、短い文の次に送られてきたのは、いつものメンツで机に向かっている写真。


机上に広げられた、新品同様のワークと教科書。あと大量のお菓子とジュース。


スマホ片手に目線だけこっちに向けている朝日、一応頑張って教えてる岳、とりあえず応援する修斗……


「えっ、これ古賀たちじゃん!」


ストローを加えた恵が画面を覗き込む。


「何コレ、勉強会?」


「相当テストがやばいんだって」


『どこ?ここ』


と送る。するとすぐさま既読がついて、


『3階の空き教室。お菓子食えるし最高』


と返ってくる。


「コイツ……やる気あるのかないのかハッキリしろよ」


思わずスマホを握る手に力が入る。


「えー、なになに。いつのまにそんなに仲良くなっちゃったの!?」


「んー仲良くっていうか、よく遭遇するっていうか……」


写真の中の彼らを見る。


「案外、優しいと思うよ。この人たち」


「えー、ほんとにぃ?」


毒々しいタピオカを吸いながら、恵はなおも疑り深い瞳を向けた。

まあ彼女は去年彼と同じクラスで、日常の様子を一年分見てきたのだから色々思うところがあっても仕方がない。


ヴー。

またメッセージ。ほんとにちゃんとやってるのか、コイツは。


『次現代文』


『数学はどこ行った??』


『飽きた』


「はっや」


思わず吹き出した。


『もうちょっと真面目にやりなさいよ、アンタ数学が1番やばいんでしょ?』


『文系だし国語で赤点取る方がやべーかなって思った』


「ナニソレ……」


恵が、ユリカの顔を眺めながら、頬杖をついてニヤニヤとした笑みを浮かべている。


それに気がついたユリカは顔を上げた。


「なに」


「いやなんか……楽しそうだなーと思って?」


「何よそのニヤケ顔は。さては邪(よこしま)なこと想像してるな?」


「まだなんも言ってないじゃーん!」


てか写真見して、と恵が身を乗り出した。

ユリカの制止を振り切って、彼女の手からスマホを奪う。


「え、なんかさ、前から思ってはいたんだけどさ」


恵が五十鈴の顔を拡大する。

さっきまで机に突っ伏していたことが容易に読み取れるほどの、ボサボサな金髪。


「古賀って結構顔かっこよくない?」


……また始まった。面食いメグの顔面談義が。


もう飽きた、と言わんばかりにわざとらしく表情を歪めるユリカを気にも留めず、彼女は続ける。


「なんか濃いっていうかー、彫り深いっていうかー。金髪似合ってるよね、めっちゃ」


「メグはアレでしょ、島津くんでしょ」


お弁当の冷凍グラタンを口に入れた。


「わかるー?やっぱり私は西洋系より韓国系の方が好き!あ、島津くんは推しだからね?

その辺把握よろ」


あー、ハイハイ、といつもの如く雑に返事を返して彼女の手からスマホを取り戻す。


「どっちも日本人だけどね」


「まあそりゃそーですけどね?

にしても、古賀は建国顔って感じだけど、島津くんは傾国顔だよねぇ。色白で儚い雰囲気で〜……」


と。


「あー、ユリカ様、それ五十鈴?」


恵の止まらなくなりかけた顔面談義を遮るように、クラスの男子数名がこちらに寄ってくる。


「うん。勉強会してるんだって」


飲んでいた水筒の蓋を閉じた。


「えぇ!?アイツらが!?」


「えっぐ、信じらんねー」


「去年とかやばかったくね?」


特に五十鈴!と、彼らは声を合わせてそう言って爆笑した。馬鹿にしているとかではなく、ただ単に、彼のあまりの変貌ぶりが可笑しいらしい。


「てかよくウチの高校入れたよな〜」

「アレじゃね、中学までは親が厳しくて勉強してたタイプじゃね?」


それぞれ好き勝手に喋っている彼らの横で、ユリカの頭に、ふとこの間の岳の言葉が頭をよぎる。



『アイツの親もさ、基本子供のことに無関心っぽいけど……』



今年の初めにあった、三者面談の時。


廊下で、母と共に教室の前で座って順番を待っていた時、D組の教室の前で1人で座って順番を待っている金髪頭を見かけたことを、昨日ユリカは思い出した。


親の都合が合わなかったのかなとも思ったが、それなら都合の良い別日に面談を行うはずだし……


「……ねぇ、あの……古賀くんの親御さんって……」


聞きづらそうに訊ねられた男子たちはそれぞれ顔を見合わせて「親?」「知ってる?」「見たことない」「そいえば去年の面談五十鈴だけ時間おかしかったよな」などとそれぞれ口々に言う。


「ま、不良だからじゃね?」


と、1人が能天気に結論づけた。


まあ確かに、学年屈指の問題児である彼だ。話さなければならない内容は他の生徒の比ではないとは思うが……


「えっ、待って待って、黒川岳って意外とかっこよくない!?」


懲りずにユリカのスマホを奪い取った。


「城崎さん、岳は意外と競争率高いよ」


「えー、まぁ、だよねぇ。なんか隠れイケメンって感じだし」


すっかり話題が移り変わった隣の会話を他所に、彼がグレている原因は親との関係だったりするのかなぁなどという勝手な憶測が、ユリカの頭の中で繰り広げられていた。



──────────



そして、そのまた翌日の昼休み。


ユリカのスマホが鳴る。


『数B』


添付された画像に、五十鈴の物らしきノートが写っている。


『なにこれバツばっかじゃん』


『俺ら全員文系だからしゃーないの』


『図書室でジュース飲むな!』


『違うここ空き教室だし』


少し遅れて、また新しい写真が送られてくる。


この前まで目線を向けていただけだった朝日が、シャーペンを持ってノートの端っこに何かを書いている。


修斗も、いつのまにか応援係を退職して、頭を抱えながらも懸命に一緒に数学の問題を解いていた。


『楽しそう』


『来んなよ』


『行きません!!なんなのマジでこの人は』




そして、そのまた次の日の放課後。


学級委員の活動で使った名簿を返却するため、職員室へ向かっていた。


その途中、体育館近くの廊下を歩いていると、スマホが鳴った。


写真が届いている。

見てみると、今日はいつもの空き教室ではないようだ。


『図書館きた』


『ここどこ?』


『青柳市の中央図書館』


『わざわざ随分遠くまで行ったのね』


『イオン行くついで』


『朝日ゲームしてない??』


『ガチャがあるらしい』


ふぅ、と呆れたため息をついた。


「オタクの鑑……」


誰もいない廊下に、ユリカの独り言が溶けた。



体育館部活の掛け声と、ラケットの音、それとシューズで床を踏み締めるあの音がする。


通りがかりに様子を覗いてみると、バスケ部とバドミントン部がいつものように体育館を半分に分けて練習していた。


なんとなくぼーっと眺めていると、1人の男子がスリーポイントシュートを決めた。小気味良いネットの音と、ダムッ、とボールが床を跳ね返る音。


観客をしていた女子たちが、甲高い声を上げた。


男子たちが俄かに沸き、数人とハイタッチをしている。


誰だろう。最近落ちてきた視力では、後ろ姿だけでは人物を認識できない。


すると、その黒髪の人物が振り返った。


「ああ、なんだ、島津くんか……」


なーんだいつものエースか、と思ってなんとなく興味を失う。


向こうもユリカを認識したのだろう、汗をも弾き飛ばすような爽やかな笑顔で手を振られる。

ユリカもいつもの令嬢スマイルで優雅に手を振り返すと、早々にその場を去った。観客の女子たちに変な目で見られるのは、避けたい。



────古賀五十鈴も、なにか部活に入ればいいのに。



結構背も高いし、それこそバスケ部なんか向いてるんじゃないだろうか。

こないだ全力ダッシュしてるところを見かけたが、結構速かったし陸上部で短距離も良さそうだなぁ。

いや、意外と体力もありそうだし長距離なんかも向いているかもしれない。


などと考えているうちに、職員室についた。

すっかり手慣れた手つきでノックする。


「失礼します。2年A組桐谷ユリカです。谷口先生に名簿を返却しにきました」


扉を開けると、いつもの場所に担任の谷口が座っていた。

ユリカの顔を見るなり、「おお」と言ってパソコンから顔を上げる。


「ありがとう、助かったよ」


「ああ、いえ。委員長なので」


名簿を受け取った谷口が、ああそうだ、と思い出したように眼鏡を上げた。


「桐谷。お前、古賀って知ってるよな?」


「古賀五十鈴、ですよね?」


「そうそう。あの、金髪頭の」


担任の口から飛び出した想定外の名前に、内心驚く。


「知ってますけど……彼が、何か?」


また何かやらかしたのか、と思い、心の中で眉根を寄せた。


しかし、谷口から返ってきた答えは妙な物で。


「ああ、いや……アイツが最近、昼休みや放課後に勉強してるっていう話を聞いてさ。


ウチのクラスのヤツらが、桐谷がどうのっていう話をしてたから……何か知ってるのかなって思って」


「え」


その瞬間、そりゃそうだとも思った。

あの古賀五十鈴がいきなり勉強をしだしたなんて、何かあったのだろうかと思うのは必然だろう。


実際、会話の行方が気になるのだろう、職員室内に疎らにいる他の教員たちもチラチラとこちらの様子を窺っているようだ。


ユリカは多少迷いながらも口を開いた。


「あー、えっと……ちょっと縁があって、最近知り合ったんです。

それで、テストがまずそうっていう話を彼から聞いて……頑張ってみたら?って言っただけ、デス」


語尾が萎んでいく。

所々ぼかしたものの、まあ間違ったことは言っていない。

正直、先生たちから『古賀くんをお世話してあげてくれない?』なんて逃げられない面倒くさい係を押し付けられたらたまったもんじゃないと思う気持ちもいくらかはある。


ユリカの言葉を聞いた谷口は、そうか、と深く何度も頷いた。


「いや、ありがとな、桐谷。 


正直、手を焼いていたんだよ。

こっちがどれだけ言ってもぜんっぜん勉強しないし……テストの点も取れてない、提出物も出さない、授業にも出席しない……成績をあげたくても、このままじゃ単位すらあげられないかもしれなくてな」


「そ、そうですよね」


それに、と付け加える。


「お家のこともあるしな……」


「え?」


「っ、ああ……いや、何でもない。

とにかく、ありがとうな。もう帰っていいよ」


「あ、ハイ」


何だか肝心なところを濁された、ような気がする。


「失礼しました」


何だか、ただのヤンキーじゃないような気がするなぁ、古賀五十鈴は……


モヤモヤを胸に抱えたユリカのスマホが、ヴーと鳴る。


『コイツ英語めっちゃできる』


見ると、そこには黒板に英文を書き連ねている朝日の後ろ姿の写真。


学ランが脱ぎ捨てられ、グレーのパーカー姿になっている。


また送られてくる。


『ウチのクラスの英語教師の1000倍は分かりやすい』


だそうだ。


最初はただゲームをして、無関心を貫いていた青嶋朝日が、この数日間でここまで成長したことがちょっとだけ嬉しかった。




────テストまで残り1週間。



五十鈴のテスト勉強との戦いも、次回で後半戦。

─────

読んでいただき、ありがとうございます!


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