エピローグ
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「お! リコちゃん久しぶり!」
「ソルダムさん、お久しぶりですね!」
——ゼノと同じ気持ちだとわかってから、二度満月が過ぎた頃。
私は相変わらず宿屋でお弁当を作ってはたくさんの冒険者を送り出していた。
「オベントウ一個と、おにぎり二個の予約してもいいか?」
「もちろんです! そうだ、今度新商品を考えてるんですよ。ゼノとベクター、ゴードンさんにも試食してもらうんですけど、良かったらソルダムさんもどうですか?」
「え!? そんなの絶対参加するに決まってるだろ!」
嬉しそうに両手をあげて喜んでいるソルダムさんの名前を予約表に書いていると、横から顔が伸びてきて自然と肩を抱かれる。
「なんだ、今日は予約埋まるの早いな?」
「ゼノ。おかえり。ベクターもおかえりなさい」
「ただいまリコちゃん。ゼノ、リコちゃんの邪魔しない」
「いいだろ別に。……リコ、今日も弁当うまかった」
「よかった」
ゼノとはあれ以来お付き合いを始めているのだけれど、宿屋のみんなにはすぐにバレた。
というのも、ゼノが予想以上に私にべったりになったからだ。
「リコ、洗い物あとで俺がやるから置いとけ。少し休めよ」
「うん。ありがと」
任務に行く前も戻ってきた後も、基本私にべったりで視界に入る距離からあまり動こうとしない。
なんなら厨房に居座ることもよくあり、よくアンナちゃんに邪魔だと怒られているくらいだ。
最初はみんなにどんな風に思われるか不安だったけど、蓋を開けてみればジェーンさんもトーデンさんもすごく喜んでくれてホッとした。
「ゼノ兄、ジャマだよ! リコ姉から離れて!」
「うっせぇ、子どもはもう寝る時間だろ、早く寝ろ」
「まだ夕方だしお手伝い中だもん! ゼノ兄のイジワル! 怒りんぼう! 晩ごはんあげないから!」
「んだと!? アンナ待てコラ!」
今日も私を間に挟んで喧嘩を始めた二人は、私の周りをぐるぐると追いかけっこした後にトーデンさんに厨房を追い出された。しばらくして半泣きでぷりぷり怒って戻ってきたアンナちゃんは、私にぎゅっと抱きついて
「ねぇ、本当にあんな怒りんぼうでいいの? 絶対ベク兄の方がリコ姉とお似合いだよ? なんでゼノ兄を選んだの?」
ゼノに対する不満を私にぶつけてくるから可愛くて仕方ない。
「うん。確かに怒りんぼうだけど、私には特別優しいの。だからだいすきなんだよ」
「……アンナにも優しくしてくれればいいのに」
「そうだね。ゼノによく言っておくから安心して」
「うん。リコ姉だいすき!」
「私も。アンナちゃんだーいすき」
アンナちゃんをぎゅっと抱きしめ返すと、厨房の向こうからジトッとした視線を感じて二人で振り向く。
「……アンナ、リコから離れろ」
「やだよー! ゼノ兄、あんまりヤキモチばっかりやいてリコ姉にきらわれてもしらないんだから!」
「なっ……!」
……これじゃあどっちが年上なのかわからないくらいだ。
二人のやりとりに笑いながら仕事をしていると、いつのまにか隣に来ていたジェーンさんが私に話しかけてくる。
「本当、ゼノを選んでくれてリコちゃんには感謝しかないわあ」
「ジェーンさんまで、何言ってるんですか」
「ふふふ、孫が幸せそうで嬉しいのよ」
ジェーンさんはそれだけ言うと、
「ゼノ、アンナ。お客様もいらっしゃるのよ。いい加減にしなさいな」
と二人の仲裁に入り厨房を出ていく。その姿を横目に、
「リコちゃんが来てからゼノが明るくなってみんな嬉しいんだよ。ありがとうな、リコちゃん」
トーデンさんまで嬉しいことを言ってくれるから困ってしまう。
「そうだリコちゃん!」
「どうしたの? ベクター」
みんなで晩ご飯を食べていると、ベクターが
「あのたまごのやつ、おいしかったからまた明日も入れてほしいんだよね。お願いできる?」
おかずのリクエストをしてくれて迷わず頷く。
「もちろん! ベクターは玉子焼き甘いのが好きだもんね。明日は多めに入れるね」
「やった」
「リコ、俺のも」
「ふふ、わかったよ。ゼノにも多めに入れとくね」
「ん」
ベクターだけ贔屓しようとするとすぐにゼノも自分の分を要求してくるから笑ってしまう。
そんなゼノが珍しいのか見慣れないのか、みんな笑いながらも幸せそうに微笑んでくれて。
「……私、ここにこれて本当に良かったなあ」
小さく呟くと、隣からゼノの手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でてくれた。
「なんだ急に」
「ふふ、幸せだなあって思ったの」
みんなの顔を見渡すと、全員優しい笑顔で私を見つめてくれる。
この幸せを当たり前だとは思わないけれど、こんな日常がずっと続けばいいのになと。そう願わずにはいられない。
「さ、明日の仕込みしなきゃ!」
「遅くなるなよ。お前はすぐ無理するんだから」
「大丈夫ですー!」
明日からも大好きなこの宿屋で、だいすきな家族と一緒に、また冒険者のみんなのために一つ一つ丁寧にお弁当を作りたい。
たくさんの"おいしい"と"ありがとう"が、私を支えてくれるから。
End.




