↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/31

31.誰のせいだよ(第一章最終話)

「この度のはたらきは、まことに見事であった。改めて礼を言わせてくれ。本当に、感謝する」


勇者選定の儀から、三日後の昼時。

ティレニア城内、玉座の間。

国王ハワードと王妃デボラを前にして、おれ、マリン、アーサーは横一列に並び、ハワードの言葉を頂戴(ちょうだい)した。

この場にいるのは、おれたちの他に、警備の衛兵や侍女たちを除けば、エリックとジョセフ、それにレックスだ。

エリックとジョセフは、おれたち三人のすぐ後ろに控えていて、レックスは、玉座についたハワードのすぐそばに立っていた。


「まさか勇者選定の儀に、魔族──よりにもよって魔王軍の幹部が現れるとはな。しかも、エリックですら勝てんとは……あれが魔王軍の軍将か。恐るべきやつだった」

「力(ちから)及(およ)ばず、申し訳ございません」


エリックが、深々と頭を下げる。

その表情には、言葉どおり申し訳なさがあらわれているが、それ以外の感情は読み取れない。

実年齢よりも少し長く生きた記憶があるだけの未熟なおれには、感情のコントロールにたけたエリックの心中を、正確に推し量(はか)ることはできなかった。


「室内ゆえ、加減(かげん)もしておったのだろ? それに……魔力障壁とか言っておったか。そんなものがあっては、いたしかたあるまい」


ゲームでも、エリックの戦闘力はかなり高かった。

魔力障壁がなければ、六輝星であるプロキオンとも、もう少しちゃんと戦えたはずだ。


「だが、それをよくぞ倒してくれた。聖剣があったとはいえ、アーサーよ、お前の力は見事なものだな」

「ありがとうございます」


アーサーが、照れくさそうな顔で一礼する。


「それに、マリン。お前のおかげで、アーサーが聖剣を振るうことができたそうだな。あの魔族を倒せたのも、お前がいたからこそだ。そして、エリックの命も救ってくれた。エリックはこの王国に、なくてはならない存在だ。余はもう一度、お前に礼を言う。ありがとう」


ハワードが、玉座から立ち上がって、深々と頭を下げた。

国王からの最上級の礼のようだ。


「い、いえ。もったいないおことばです」


マリンは恐縮して、あたふたしながら受け取った。


「そして、ロバート。お前の機転(きてん)には舌を巻いたぞ。あの土壇場(どたんば)で、よくぞ思いついたものだ。あのようなこと、他の誰にも真似できまい。お前がいなければ、余も、他のものらも、いまごろはやつの腹の中だったろうな。感謝する」

「もったいなきお言葉です」


おれは、優雅(ゆうが)に一礼した。

……優雅って、きっとこんな感じだろう。


「それと、レックス、ならびにジョセフよ。ふたりでロバートを補佐しておったな。お前たちも、よくやった」

「お父さま、当然のことをしたまでですよ」

「もったいなきお言葉でございます」


レックスは、柔和(にゅうわ)な笑みをうかべ、ジョセフは、無表情のまま一礼した。


「うむ。お前たちの活躍は、この王国の歴史に残るほどのものだ。また改めて、褒美(ほうび)を与えよう」


褒美! やったぜ!

なにがもらえるのかな?

国宝は……やっぱり、無理かな?


「それでな、ここからは、少し言いにくいことなんだが……」


ハワードがそう前置きして、


「この王国に、勇者候補たちを通わせる学園を開設することになった。お前たちには、そこへ通ってもらいたい」


知っている。ゲーム通りだ。


「正直に言おう。余は、アーサーがいずれ勇者として選ばれると思っておる。しかしな、あの騒動の渦中(かちゅう)におったものたちであっても、それを認めたくないものが多く……学園の開設をせねば、貴族どもはみな、納得せんのだ」


げんなりしたようすで、ハワードがため息まじりに漏らした。


「あの場にいて、おのれの目で全てを見ておったのにな。あやつらは、いまだに自分たちが擁するものこそが、勇者となることを信じておるようだ。なんとも夢見がちなことよの。だが、余は立場上中立でなくてはならんのでな。アーサーを擁してやることはできん。すまんが、他のものらと一緒に、学園に通ってもらえまいか?」


ハワードが、アーサーに乞(こ)う。

それは、命令ではなく、要望だった。

『クワンティック・エグゾダス』の世界では、勇者の立場は王よりも上だったが、この現実世界でもやはり同じらしい。

ハワードの態度は、すでにアーサーを勇者と認めているということに、他ならない。


「はい。その、ぼくはかまいません。でも……」


アーサーが、おれとマリンに視線を移す。


「私たちも一緒に、でしょうか?」


おれは、ハワードにたずねた。

ゲームでは、マリンもアーサーと一緒に学園に通っていた。

今回は、おれもそうなるのか。


「そうだな。そうしてもらえまいか?」

「かしこまりました」

「わたしも、かしこまりました」


おれとマリンは、迷わず承諾(しょうだく)し、アーサーはほっとした表情をうかべた。

そうか。おれも、ふたりと学園へ通えるのか。

けっこう……いや、かなり楽しみだな。


「そうか。施設自体は、王国内に現存する学舎を利用するつもりなので、さほど待たせることはないだろう。学園の開始は、およそ一月(ひとつき)後を予定しておる。寄宿舎も用意するから、学園が始まってからは、そちらで生活するとよいだろう。それまでは、城の部屋を使うがよい。必要なものがあれば、なんなりと申せ」

「ありがとうございます」


おれたちは、順番に礼を述べた。


「うむ。それまでの間、ゆっくりとからだを休めるがよい。アーサーよ、腕はもう平気か?」

「はい。マリンのおかげで、完全に治りました」

「それはなによりであるな。では、これで終わりにしようか」

「失礼いたします」


エリックが率先(そっせん)して一礼し、おれたちも、おのおの頭を下げてから、玉座の間を後にした。


◇ ◇ ◇


ティレニア城内。

おれに現在あてがわれている、来賓用(らいひんよう)の部屋のひとつ。

マリンとアーサー、それにおれを含めた三人は、国王たちを救った恩賞(おんしょう)のひとつとして、城内に部屋を用意してもらえた。

それぞれひとり用の個室で、簡素だが広めの部屋だ。

ハワードとの謁見を終えたあと、おれ、ジョセフ、レックスの転生者三人組が、そこで丸テーブルを囲み、顔をつき合わせていた。


「いやー、大変だったねー」


イケメン王子こと、レックスが、爽(さわ)やかに白い歯を見せて言う。

あの騒動から三日経っていたが、こいつに疲れは残っていないらしい。

毎朝、姉のルーシーと槍の訓練をしているんだったよな。

そのおかげで、太らずにすんだようだし、体力や持久力も、おれたちより格段に上がったのだろう。

おれはまだ少し、疲労感がある。

ジョセフは……相も変わらず、無表情だからよくわからん。


「さすが本当の勇者だね。聖剣もまだ持てないうちに、もうボスキャラをひとり倒しちゃうし。けど、僕はさ、今回みんなが助かったのは、リョウのおかげだと思ってるよ。転生しても、リョウは頼りになるね」

「ふふん、なんせ、おれはこのゲームをやりこんでいるからな」


そう言って、椅子に座ったまま胸を張った。


「まったく、始末に負えませんね」


これ見よがしに、ジョセフが深くため息をつく。


「プロキオンの出現は、あなたもまったくの予想外だったのではありませんか?」

「う……それは……まあ、そうだけど、こんなの、予想できるわけないだろ」


おれがぼやくと、ジョセフは眼鏡のつるを持ってくいっと上げ、レンズ越しに冷たい目を向けてきた。


「このあいだ言いましたよね。私たちが関わって、話の流れを変えてしまえば、予測のできない事態になりうると」


確かに、そんなようなことを前に言ってたっけ。


「そんなこと言われても……おれは、大したことはしてねえぞ」


きっぱりと否定する。

できる範囲でアーサーとマリンを鍛えたが、これは必要なことだったはずだし、成長できたのも、本人たちの努力の結果であって、おれがしたことは、決して大したことではない。

推しの恋の応援に関しても、残念ながら、まだなにもできていない。


「していましたよね。王都に来る途中、マリンにいいところを見せようとして、目立っていましたよね?」


あー、あれね……。


「だってさ、魔獣に襲われてたんだから、仕方ねぇだろ」

「仕方なく? アーサーに最初から任せればよかったのに、無駄に目立ってましたよね? マリンの前で、かっこつけてましたよね?」

「いいだろ、ちょっとくらい」

「ちょっとでも、どういった影響があるのか、わかりませんからね」

「あんなんじゃ、なにも変わらねぇよ。もっと、大きなことじゃなきゃ……」

「……」


おれとジョセフは、お互いの顔を見合ったまま、ぴたりと静止した。

そういえば、大きなことをやらかしたやつがいる。

とんでもないことをな。


「まあまあ。リョウもハカセも、けんかはやめようよ。カロリーが無駄になっちゃうよ」


のんきな声で、レックスが仲裁(ちゅうさい)に入る。

おれとジョセフが、ゆっくりと首を動かし、その顔を睨みつけた。


「お前のせいか!」

「あなたのせいですね!」

「えー!」


イケメン王子の絶叫は、王城の中庭にまで届いたそうだ。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

今回で第一章は終了です。

お気に入り登録、ならびに評価をしていただき、ありがとうございました。

大変励みになります。

第二章・白の聖女と氷の魔導士は、現在準備中で、近いうちに投稿を開始する予定ですので、今しばらくお待ちください。


菱下泰典

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。