12.星の彼方へ。(※最終話)
最終話です。取り急ぎ、ブラッドベリ氏と萩尾望都先生に土下座したいと思います。m(_ _;)m(大変に申し訳なく
円盤を探しに行ったあの時のような強引さに、由美は思わず下を向く。年甲斐も無く頬が赤らむのを感じ、薄暗がりで良かったとつくづく思った。
二人はすっかり高さの入れ替わった肩を並べて山道を下った。里山からランドセル二つ抱え、ひとり心細い思いで下山した時のやり直しみたいに思えた。
けれど、それもいまだけのこと。
何日もしないで、健太は再びこの土地を飛び出して行ってしまうのだろう。
だが銀色の円盤で飛び立つ健太を、どうしてこの地に縛り付けておくことなど出来るだろうか。少なくとも自分には出来ないし、足手まといになるのもゴメンだ。
「――ねぇ、アンタの手、湿っぽい」
「しっ、しょうがねぇだろ。こう見えても、実は緊張してんだっ!」
「ふ~ん、緊張ねぇ?」
怒ったように顔を背けた健太に、由美はニヨニヨしながら心持ち身を寄せる。
「おぅ、なんだ。足腰が弱って歩けないなら、麓まで背負っていってやるぞ」
「……バカ。農作業やってるアラサー舐めんな」
でもいまは。
手を繋いでいる間だけは。
「……あの時、手ぇ離してすまなかったな。ずっと謝りたいって、思ってたんだ」
「いまさら⁉」
「す、すまん。言い出しづらくて」
俺も思春期だったから――と口ごもる健太がおかしくて、由美は笑った。
「まぁ、しょうがないよ。あたしもびっくりして腰が抜けちゃってたんだから」
里山の山頂で墜落した円盤を発見し、セレプトト星人達を助けに行った時のことだろう。夜の里山に一晩置き去りにされた件やランドセル二つ背負って泣きながら下山した件、そして学校で殺人犯扱いされた件など、もっと謝罪の優先順位の高い出来事がいくらでもあるのに、健太の中ではその件が一番気詰まりだったようだ。
「それに、離さなければ前に進めない時もあるよ」
「……そうか」
健太は一度、言葉を切って生唾を飲み込んでから、
「お前よう」
「何よ、あらたまって」
「お、俺と一緒に、こねぇか?」
一瞬、間違いなく由美の呼吸が止まった。
だが、どうにか自力で息を吹き返し、
「あっ、あたし二十七になるまでこの土地からほとんど出たことなくって。信金で働いてたけど、そのっ、ずっと世間知らずのお嬢さんって言われてて!」
「俺なんか十歳で円盤に乗って地球圏外だぜ? 年齢なんか関係ねーだろ?」
「でもっ! だけどっ!!」
「デモもストもねぇ。来るか来ないか、ふたつにひとつだ」
それに、今度はいつ帰ってこられるかわからねぇし――。
そう続ける健太の余裕の無い喋りに、何故だか由美の胸の中がムズムズと蠢いた。内側から、何かが食い破って出てきそう。
手を繋いだまま、健太は胸の内を訥々と語り始める。ふと下を見ると、健太の足元は革靴だった。革靴で山登りはキツいだろう。由美は内心苦笑した。
「俺、あっちが長いせいか、たまに帰ってくるとみんないなくなってるんだよ」
「まぁしょうがないよ。寿命とか、ライフステージの変化とかあるし」
「なんつーか、俺だけ妙に若ぇんだよな。浦島効果ってヤツ?」
健太と同じように宇宙で仕事をしている人が、たまに戻ってくると年の取り方が遅くて変に若いままだというのをテレビ番組でみたことがある。なるほど、だから高校生みたいにお肌ツヤツヤなのか。ちょっとだけ、羨ましいと思う由美である。
「こんな仕事してるから、親の死に目に会えないのはしょうが無い。でも」
「でも?」
「いつの間にか、お前がいなくなってんのは、なんかイヤだなって。それで――」
「それで?」
「か、確保、しておきたいっていうか」
「確保って、特売日にトイレットペーパー買い置きするんじゃないんだから」
「いやその、そんな軽々しい意味じゃなくて、だな」
言葉の選びのセンスはともかく、一瞬、由美は銀色の円盤に誘う、あどけなさの残る小さな健太の姿を思い出した。
きっと、まったくのノープランで、考え無しに違いない。
けれど、ふと思ってしまったのだ。
自分でも、この期に及んで飛び立つことができるのだろうかと。
「アンタ、いろいろと酷いよ」
由美は笑いたいような泣きたいような不思議な気分のまま、健太の手をそっと握り返した。すると、健太はただ握っているだけだった手を、逃がさんとばかりにガッツリ恋人繋ぎに切り替えてくるではないか。アラサーとはいえ、彼氏いない歴二十七年の由美にはなかなかどうして刺激が強かった。
もはやアラサー。されどアラサー。
この先、今が一番若いことは間違いない。
由美はまるで何でも無いことのように、胸の奥のドキドキを押し隠す。
それこそ、下校の途中で里山にちょっと登る小学生みたいな何気なさを装って、
「しょうが無いから、ついていってあげる。若見え効果、絶大なんでしょ?」
「お、おぅ…………ってか、そっちかよ」
由美は目蓋の裏に、里山のてっぺんに突き刺さった薄汚れたオブジェの向こうに丸い夕日が沈んでゆく姿を思い浮かべた。そして、次の朝に昇ってきた太陽が錆色の円盤に光を投げ掛け、新たなる活力を注ぎ込んでくれるのだ。
―― 了 ――
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