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43.お茶会➂~二人の側妃~

 どんよりとした灰色の雲が空を覆う。ラリーサは、中庭でのお茶会を好む。普段、執務室に籠ることが多い分、お茶会は開放感のある屋外で風を感じながら楽しみたいのだ。

「せっかくのお茶会ですのに……残念ですわ」

 後宮内に設けられているお茶会のための部屋で、ラリーサはほぅと一つ溜息をつく。そんなラリーサに、本日の招待客である側妃の二人――エリザヴェータとファイーナが柔らかな笑みを浮かべる。

「リーサ様は、毎日執務室にお通いですものね」

 エリザヴェータが〝外の空気を吸いたくなる気持ちはわかります〟と頷きを返す。

「相変わらず、忙しいのですか?」

 心配そうに問うてきたファイーナへ、ラリーサはニコリと笑みを返すと〝一時よりは、マシになりました〟と答える。

「ネストル様も補佐に加わってくださいましたし、子どもたちも意欲的に手伝ってくれるのですよ」

 〝講義を受けるよりも楽しいみたいで〟と笑声を溢したラリーサに、二人が微笑ましそうに瞳を和らげる。

「私の元にも、時折手紙を届けに来てくださいますよ」

「アル様や私のお使いだけでなく、総務部門のお手伝いもお願いしているのですよ。手紙の配達程度のことならば、あの子たちでも十分できますし」

「駄賃として、御菓子を差し上げましたら、それはもうお喜びになって」

 〝とっても可愛らしかったです〟と、エリザヴェータが相好を崩す。

「子どもの楽し気な笑い声を耳にすると、なんだか和みますわ」

 ファイーナの言葉に、ラリーサとエリザヴェータが〝それは、本当に〟と頷く。

「ルフィナ様の無邪気な笑顔を見た時は、不覚にも涙ぐんでしまいましたわ」

 胸の手を添えたファイーナが、僅かに瞳を伏せる。

「ブリュンヒルト様も、最近笑顔が増えたとおっしゃっていました。イサーク様たちと共に講義を受けるのも良いみたいだと」

 〝皆で、わいわいと意見を交わし合うのが楽しいのだとか〟と笑みを深めたラリーサに、エリザヴェータとファイーナが〝あとは、早くお声が戻るとよいですね〟と痛まし気に眉尻を下げる。

「こればかりは、時間が薬となってくれることを願うしかありませんわね」

 ラリーサの言葉にコクリと首を縦に振ったファイーナが、しんみりとしかけた雰囲気を変えるように、〝そういえば〟と話題の転換を図ってくれる。

「リーサ様主催のお茶会のご準備は、進んでいるのですか?」

 ファイ―ナの尋ねに、ラリーサは紅茶で喉を潤した後〝皆様のご協力を得てなんとか〟と微苦笑を浮かべる。

「執務で忙しい私の代わりに、招待状の代筆をお手伝いくださったお二人にも感謝しております」

 〝今度、何か贈らせてくださいませ〟と続けたラリーサに、二人は〝お気になさらず〟と笑みを浮かべる。

「リーサ様のお役に立てたのならば、よかったですわ」

「本当に助かりました」

「それで、お返事の集まり具合はいかがですか?」

 エリザヴェータの尋ねに、ラリーサは苦笑を浮かべると〝皇太后派と第4皇子派の貴族の皆様は欠席が多いですわね、やはり〟と溜息をつく。

「派閥の中でも下位の家柄の方からは出席のお返事が来ているので……」

「出席はしたくないが、リーサ様の情報は欲しいのでしょうね」

「だと思います。こちらとしては、〝受けて立つから直接かかってこいっ〟くらいの意気込みでいるのですけれど」

「まぁ、リーサ様ったら」

 ラリーサの言い様に、二人がクスクスと笑声を零し、少し離れた位置に控えるマルファとカルロッタが呆れの表情を浮かべる。

「出した招待状の数の、三分の二程の方がいらしてくだされば……といったところでしょうか。とはいえ、当日蓋を開けてみなければわかりませんわね」

「……突然の欠席もないとは言えませんものね」

「あちらの方々は、リーサ様に恥をかかせたいと思っているでしょうし。それに……」

 憚るように口を噤んだファイーナに、ラリーサが〝えぇ。わかっています〟というように頷きを返す。

「相手は、皇太后派や第4皇子派の方々だけではありませんから」

「その……ジャンナ様とミラナ様からは、どのようなお返事が?」

 躊躇いがちに尋ねてきたエリザヴェータに、ラリーサが〝一応、お二人とも出席のお返事はいただいていますよ〟と告げる。

「……出席されるのですね」

 思わずといった風に渋い表情を浮かべた二人に、ラリーサが〝あらあら、まぁ〟とコロコロ笑う。

「実際、〝皇后主催〟のお茶会など、心から楽しいと思う方は、それほどいらっしゃらないでしょうね。主催者である私だって、出来るものなら避けて通りたいのですから」

 そう言って、肩を竦めたラリーサに、二人が〝お気持ち、わかりますわ〟と息をつく。

「〝政〟の場が男の戦場ならば、〝茶会〟の場は女の戦場でしょうか」

 エリザヴェータの例えに、ラリーサが〝まぁ、上手いことおっしゃいましたね〟と楽し気に瞳を細める。

「皇后として、〝女の戦場〟で下手はうてませんわね。初回ですし、目に見えた成果は望んでおりませんけれど……」

 〝ある程度の線引きはさせていただきたいと思っておりますの〟とラリーサが半分ほど開いた扇で口元を隠し、〝ふふふ〟と不敵に笑う。

「私、トリーフォンの貴族の皆様の〝内情〟には明るくないので、助けていただけたら嬉しいです」

 にっこりと笑みを深めたラリーサに、エリザヴェータとファイーナもまた笑顔を返す。

「もちろんですわ」

「私でお役にたてることがありましたら、何なりとおっしゃって下さいませ」

「まぁ、ありがとうございます」

 パチリと広げていた扇を閉じて、ラリーサは〝早速ですけれど、茶会のテーマを決めかねておりますの。いくつか候補はあるのですが……ご意見聞かせていただいてもよろしいですか?〟と、エリザヴェータとファイーナへ微笑みかけた。

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