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12.二人で目指すものは……

性分だから、仕方ない。

 伝えるべきこと、確認すべきことを終えた二人の間に、ふっと沈黙が落ちる。会ってまだ二日。顔を合わせるのは、まだ2回目なのだ。相手がどのようなものを好むのかもわからず、会話のきっかけを掴むのが難しい。ラリーサは、ミハイルが入れてくれた紅茶に口にをつけ、〝もう少し情報があるとよかったのだけれど〟と内心息をついた。

 元々、トリーフォン帝国はここ数代にわたり諸外国との国交はないに等しい。商人の往来はあるにしても、国主同士の交流がないため、外交に力を入れているイリダールでも〝皇帝アリスタルフ〟の情報を大して得ることが出来なかった。お互いに共通の話題といえば、〝聖石〟や〝聖霊獣〟についてくらいか――いや、もう一つあった。ラリーサは、国境門の応接室で顔を合わせたアリーサ皇女の顔を思い出す。

 伏せていた瞳を上げ、ラリーサは所在無さげに向かいに座るアリスタルフを見やる。アリスタルフも話題を探して困っているのだろう。ラリーサは〝ふふふ〟と小さく笑うと、〝そういえば〟と口を開いた。

「国境門でアリーサ殿下とお茶会をさせていただきました」

 ラリーサがふった話題に、アリスタルフがホッとしたような表情を浮かべ〝俺も聞いている〟と一つ頷く。

「アリーとの時間を取ってもらって助かった」

 微苦笑を浮かべたアリスタルフが、〝貴女に不自由をさせてしまうところだった〟と続ける。自国の――自分の未熟さをあえて口にしているのか、ただ単にアリスタルフが素直なだけなのか。まだ、ラリーサには判断がつかないけれど。でも、半年後にはラリーサは正式にトリーフォン帝国の皇妃――アリスタルフの正妃になるのだ。変に内情を隠されても、それはそれで面倒くさいので良しとする。

「アリー様は、私の末の弟が王太子だと聞いて、驚いていらっしゃいましたよ」

 少し意地の悪いラリーサの言葉に、アリスタルフが〝それも、俺の不徳だな〟と苦笑を深めた。

「各管理部署から、俺のところになかなか正確な情報が上がってこない」

 〝いろいろ試しているのだが……なかなか〟と、アリスタルフが深い溜息をついた。

「俺は、〝皇帝〟になるために育てられていない。〝皇帝〟を補佐する皇族となるように育てられた。先帝である兄ならばもっとうまくやれただろうと思うことばかりで……」

 〝臣や民にとっては、頼りない皇帝だろうな〟と自虐的に笑ったアリスタルフに、ラリーサはにこりと笑みを深めると言った。


「でも、陛下はご自身で皇帝になることをお決めになられたのでしょう?」


 ラリーサの発した言葉に、アリスタルフがハッとしたように息を飲む。

「何事も、最初からうまくいくことなどほとんどありません」

 そう言って、ラリーサは手にしていたティーカップをテーブルの上に置いた。

「陛下は、トリーフォン帝国をどのような国にしたいと思われますか?」

 ゆっくりと静かな口調でラリーサが問う。

「どのような……」

 それは、日々の忙しさの中で考えることを後回しにし、アリスタルフの中で漠然としたままになっているものだ。

「まずは、ご自身の中の〝目指すもの〟を明確にしてみては?望む先が決まっていると、頑張れるものですよ」

 〝もちろん、それで全てが上手くいくわけではないですけれど〟と、ラリーサが微苦笑を浮かべる。

「それは、貴女の経験則か?」

 アリスタルフの問いに、ラリーサが〝そう、ですね〟と控えめに頷く。

「私が……流行病で亡くなった先王の代わりに〝中継ぎ〟として復位した祖父の補佐を始めたのは15歳の時でした。イリダールでは、王女に王位継承権はありません。それまで、私にとって国政など自分に関係ないものでした」

 〝ふふふ〟とラリーサは笑い、一つ大きく息を吸った。

「今思い出しても、いい思い出とは言えません。毎日毎日、祖父に叱られ、臣に叱られ、自分の不出来が悔しくて、泣いてばかりでしたわ」

 〝でも、やらねばなりませんでした〟とラリーサは笑う。

「私が目指したのは、〝弟たちが成人するまでに、国を立て直す〟ことでした。王女である私は、どうあっても〝王代理〟。〝王〟にはなり得ません。ならば、いずれ王になる弟たちのために、流行病によって混乱した国を立て直す。そして、弟たちの誰かが王になった暁には、のんびり過ごす……そうでした。私の最終目標は、〝好きなことだけしてのんびり過ごす!〟だったことを今思い出しました」

 コロコロと笑いながら、ラリーサが〝陛下は、皇帝というお立場がお嫌ですか?〟と尋ねる。それに、しばし躊躇うように間を置いた後、アリスタルフが〝嫌だな〟と苦笑とともに答える。

「俺は、上に立つ性質の人間ではない。俺には向かない。だが、兄上には……ヴェネジクト兄上には、任せられない」

 〝兄上が皇帝になれば、今以上に国が乱れる〟とアリスタルフが苦々しく顔を歪める。

「先帝が……スピリドン兄上が必死にここまで立て直したのだ。それを……また先々帝以前のように混乱させるわけにはいかない」

 そう意を強くしたアリスタルフに、ラリーサは〝あら、しっかりとしたものがお有りではないですか〟と笑みを深めた。

「承知いたしました。では、私も陛下の目指す先のために、正妃としてお手伝いさせていただきます」

「よいのか?〝好きなことだけして、のんびり過ごす〟ことは出来ないぞ?」

 笑うアリスタルフに、〝では〟と言ってラリーサが茶目っ気を交えてパチリと片目を閉じて見せた。


「国を任せられる〝次代〟を見つけるか、育てるかして、さっさと譲位してくださいませ」


「は?」

「え?!」

 ラリーサの言葉に、アリスタルフがポカンと口を開き、ミハイルが思わずといった様子で驚きの声をあげる。驚いていないのは、ラリーサの背後に立つ護衛騎士の二人だけだ。

「だって、陛下は〝皇帝〟というお立場が嫌なのでしょう?そして、私も〝のんびり〟過ごしたい」

 〝一番、よい方法だと思うですけれど〟とニコニコ笑うラリーサに、唖然とその顔を見つめていたアリスタルフの顔に徐々に笑みが浮かんでいく。

「ふっ、はは、譲位……あははははははっ」

 大きな口を開けて声を上げて笑うアリスタルフに、ミハイルが〝陛下?〟と戸惑いの表情を浮かべる。

「即位して2年ほどで、譲位を進められるとは思っていなかった」

 腹に手を添え、クククと喉を震わせるアリスタルフが〝久しぶりに声を出して笑った気がする〟と笑みを深めてラリーサを見やった。

「確かに、俺の望みと貴女の望みの両方を叶えるには、それしかなさそうだ。手を貸してもらえるだろうか」

「私が出来ることでしたら、なんなりと」

 ニッコリと微笑んで頷いたラリーサへ、アリスタルフは〝よろしく頼む〟と頭を下げた。それに、〝恐れ多いことでございます〟と頭を下げ返して――二人は、ほぼ同時に頭を上げると、〝ふふふ〟と微笑み合った。


 トリーフォン帝国に来て2日目で、早くも〝のんびり生活〟が遠のいた。けれど、これも己の性分なのだろう。年下の者が困っていると、つい手を貸してしまいたくなる。〝頼りにさせてもらう〟と言われてしまえば、いろいろ手を貸してやりたくなる。アリスタルフとは、週に1度、情報交換も兼ねてお茶会をすることになった。ラリーサは、ミハイルが入れ直してくれた紅茶で喉を潤しながら、〝明日から、忙しくなるわねぇ〟と心の中で呟いた。

【補足】

《トリーフォン帝国》

・先々代皇帝(死) ⇒ アリスタルフの父

・先代 スピリドン皇帝(死) ⇒ アリスタルフの兄(第2皇妃の子で、第1皇子。ちなみに、欠片持ちだった)

・ヴェネジクト ⇒ アリスタルフの兄(第1皇妃の子で、第4皇子)


※ トリーフォン皇族は、お家騒動が起こりがち。

※ 第2皇子については、そのうち……。

※ 第3皇子は死亡してる(理由は、そのうち……)

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