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11.王女のお願い

ラリーサからアリスタルフへのお願いいろいろ。

「ありがとうございます」

 アリスタルフにエスコートされソファーに腰掛けたラリーサが、ニコリと微笑みかける。それにニコリと笑みを返して、アリスタルフはラリーサの向かいに腰を下ろした。

「すぐに、お茶とお菓子をご用意いたしますので」

 軽く一礼してお茶の準備を始めたミハイルへ、ラリーサが〝あら。ミハイル様が入れて下さるのですか?〟と尋ねる。

「私の筆頭侍女を呼びましょうか?マルファは、アスランのことも存していますし……というか、今更ですけれど、私の護衛騎士たちにハティとアセナのことを知られてしまいましたけど」

 〝よろしいのですか?〟と僅かに眉尻を下げたラリーサに、アリスタルフは〝まぁ、仕方がない〟と苦笑する。

「本当は、まずは貴女が聖石持ちであるかどうか、それを護衛騎士たちが知っているかどうかを確認してから二匹を呼び出すつもりだった」

 〝はぁ〟と決まり悪げに溜息を付いてラリーサから視線を逸らしたアリスタルフが、その背後に佇むキリルとリンマを見やる。

「貴女が躊躇いなく聖霊獣を呼び出したのだから、その二人は信頼のおける者たちなのだろう」

 そう続けたアリスタルフに、ラリーサは〝自慢の護衛騎士たちです〟と笑みを深める。

「貴方が連れてきた侍女や騎士たちは、皆、貴女が〝聖石持ち〟だと知っているのか?」

 アリスタルフの尋ねに、ラリーサは〝もちろんです〟と首を縦に振る。

「出来ましたら……少なくとも、私の筆頭護衛騎士であるこのキリルと、私の乳母でもある筆頭侍女のマルファのことは、陛下に信頼していただけましたら幸いです」

 〝この二人が、一番私の扱いに長けておりますよ〟と笑うラリーサにつられるように、アリスタルフは口元に笑みを浮かべる。

「覚えておこう。ならば、貴女も俺の筆頭侍従であるミハイルのことを信頼してもらえると嬉しい。俺がしがない部屋住み皇子でしかなかった頃から仕えてくれている貴重な者だ」

「何か陛下に文句がある際は、どうぞ私におっしゃってください」

 紅茶のカップをアリスタルフとラリーサの前へと置きながら、ミハイルがにっこりとラリーサへ笑みを向ける。それに対し、〝こちらこそ、いろいろとお世話をかけると思いますが、よろしくお願い致しますね〟と言葉を返して、ラリーサはアリスタルフへと視線を戻した。

「陛下が〝聖石持ち〟だという事は、皆がご存じなのですか?」

 ラリーサからの尋ねに、アリスタルフは僅かに表情を硬くすると〝皇位を継承する際に、公表した〟と答える。

「俺は……ずっと〝聖石持ち〟であることを隠して生きてきた。先々帝である父にも、だ。父には三人の皇妃と、その他にも側妃が何人かいた。俺の母は、第三皇妃ではあったが男爵家の出身でな。そして、俺は王位継承の序列も皇子の中では一番下だった。そんな俺が〝聖石持ち〟だと知れたら厄介事しか起こらないだろう?」

 苦笑を浮かべて、アリスタルフは〝公爵家の出である第一皇妃は、嫉妬深い方だからな〟と続けた。

「ゆえに、長く、俺が〝聖石持ち〟であることを知る者は、母上と同母妹であるアリーサ、そしてミハイルと俺の乳母であったミハイルの母親くらいだったのだ」

「そうですか……。では、陛下が〝聖石持ち〟であることを、私がイリダールから連れてきた者たちにはお伝えして良いということですね?」

 確認するように尋ねたラリーサに、アリスタルフは〝構わない〟と首を縦に振る。

「その代わり、貴女が〝聖石持ち〟であることはこの国の者には隠してほしい。正直、俺の皇帝としての立場はまだ不安定だ。そんな中、貴女が〝聖石持ち〟だと知れたら……」

「そうですねぇ。確かに、陛下から〝皇位を奪いたい〟と思っている者にとっては、私も邪魔な存在になりますねぇ」

 〝あらあら、困ったわ〟と頬に手を添えて小首を傾げたラリーサが、と背後のキリルとリンマを振り返って〝アスランのことは口外法度とすると皆に伝えておいてくれる?〟と告げる。

「畏まりました。元より、殿下の許しなく口にする者はいないかと」

 僅かに頭を垂れたキリルに、ラリーサが〝皆、頼りになるわねぇ〟と笑みを深める。

「俺からは、以上だが……。そう言えば、貴女から何か話があるのだったか?」

 少なからず緊張していたのだろうか。アリスタルフが僅かに体の力を抜き、ソファーの背もたれに身を預ける。そんなアリスタルフへと視線を戻し、ラリーサは〝そうでした〟と頷きを返してから〝その前に〟と微苦笑を浮かべて床に寝そべるアスランにじゃれつくハティとアセナを見やる。

「やっぱり、嵩張りますねぇ。視界にチラチラと入ってくるのが、気になってしまって……」

 〝お話に集中できませんわ〟と困ったように頬に手を添えたラリーサが、アスランの名を呼び〝小さく小さく〟とでもいう様に胸の前で手を動かす。それを面倒臭そうにチラリと見やったアスランが、溜息交じりに起き上がりぐるりとその場で一周した。すると、その身はみるみる小さくなり、鬣が雄々しい雄獅子から丸みを帯びた耳が可愛らしい仔獅子へと変化した。アスランの変身に、驚いたようにアリスタルフが目を丸くする。

「すごいな。これは、ハティとアセナも出来るのだろうか」

 アリスタルフが、ラリーサを見やって尋ねる。

「出来ると思いますよ。窮屈みたいで、アスランは嫌がりますけれど。陛下もハティとアセナにお願いしてみてはいかがですか?」

「……お願い、か。……ハティ、アセナ。アスランと遊びたいのであれば、お前たちも同程度に小さくなってくれ」

 〝頼む〟と続けたアリスタルフに、二匹は互いに顔を見合わせ後、〝確かにそっちの方が楽しそうだ〟とでも思ったのだろうか。アスランと同じようにその場でぐるりと一周し、その身を仔狼へと変える。

「あらあら、まぁ。可愛らしいっ。陛下、後で抱っこさせていただいてもよろしいですか?」

 ぱぁっと表情を明るくしたラリーサに、アリスタルフは〝二匹がいいのであれば、俺は構わない〟と頷く。それに〝ありがとうございます〟と嬉しそうに微笑んだ後、ラリーサは居住まいを正すと〝では、改めまして……〟と口元にほんのり笑みを浮かべた。


「まず、陛下にお伝えしておきます」

 ラリーサの凛とした声が、室内に響く。

「私に〝寵愛〟は必要ありません。ただし、〝尊重〟はして頂きたく存じます」

 にっこりと笑みを深めて言明したラリーサに、アリスタルフは軽く面食らう。その背後で、ミハイルも驚いたように目を見張った。

「陛下の〝正妃〟として、その役目は責任をもって果たさせて頂きます。ですので、それ以外の処ではある程度私の自由にさせていただきたいのです。もちろん、私の言動が〝正妃として相応しくない〟とお思いになりましたら、その都度おっしゃってくださいませ」

 〝直します〟と、ラリーサが告げる。

「お許しいただけますでしょうか?」

 伺うように軽く小首を傾げたラリーサに、アリスタルフは困惑したように僅かに眉根を寄せると〝もちろん、尊重はする〟と答える。

「貴女は、イリダールで政務を取り仕切っていた方だ。正妃としても、うまく立ち回ってくれると思っている」

「まぁ、ありがとうございます。ご期待に応えられるように、努力いたします」

 そう言って目礼したラリーサに、アリスタルフが〝その……寵愛はいらぬというのは、閨を拒否するということだろうか?〟と躊躇いながら問うてくる。それに、ラリーサは〝いえ、そういうことではありません〟と言って、にこやかに笑った。

「私も〝妃〟として陛下の元へ上がるのですから、陛下が求めて下さるのであればもちろん応じます。そうではなく、無理に情を寄せて下さらなくてもよいという意味ですわ」

 〝好きに側妃をお迎えてしてくださいませね〟と続けたラリーサに、アリスタルフの表情が苦いものになる。執拗に〝情〟を求められるのも面倒だが、面と向かって〝いらぬ〟と言われるのも複雑だ。

「……貴女の気持ちはわかった。俺からも言っておく。俺は……貴女との関係を〝白い婚姻〟にするつもりはない」

 なんとなくすっきりしない心持ちのまま告げたアリスタルフに、ラリーサが〝承知いたしました〟と頷く。その穏やかな微笑みになんとも言えない気持ちになり、アリスタルフは話題を変えるべく〝他には?〟とはラリーサを促した。

「ダンスを含めて、皇宮作法のレッスンをしたいのです。成婚の儀までで構わないので、出来れば指南役を付けて頂きたいです」

 ラリーサの要望に、アリスタルフは〝もちろんだ〟とすぐに頷きを返してくれた。

「すぐに、指南役を用意しよう」

「ありがとうございます。それと、トリーフォン帝国史を学びたいのです」

 〝正妃が己の国の歴史を知らぬのでは、お話になりませんから〟と、にこやかにラリーサが笑う。

「出来れば、教師をつけて頂きたいのですけれど、すぐには無理かと思いますので、まずは図書室への出入りをお許しいただけますか?」

「そのくらいは構わない。図書館の管理者には、ミハイルを通して伝えておく。早めに教師もつけよう。学ぶのは〝帝国史〟だけでいいのか?」

 ミハイルが入れた紅茶を飲みながら、アリスタルフが尋ねる。

「帝国の〝地理〟も学びたいです。トリーフォン帝国は広いですし、その領地領地でいろいろと特色がありそうですし。まずは、この二つから始めたく存じます」

 〝あまり手を広げ過ぎると、どれも中途半端になってしまいそうですし〟と微苦笑を浮かべ、ラリーサが〝それに、お恥ずかしながら、私、淑女教育をやり直すことになりましたの〟と困ったように溜息をつく。

「淑女教育のやり直し?貴女が?」

 ぱちくりと瞳を瞬かせたアリスタルフに、ラリーサが〝そうなんです〟と僅かに肩を落とす。

「イリダールに居た頃は、毎日毎日、政務に追われておりまして……。そのせいで、淑女教育が些か疎かに……」

 〝作法は問題ないのですが、その……刺繍の技術が些か……〟と視線を逸らしたラリーサに、一瞬の間を置いた後、アリスタルフが〝ふふっ〟と笑声を零す。

「まぁ。笑わないで下さいませ」

 ツンと小さく唇を尖らせたラリーサに、アリスタルフが〝いや、失礼〟と喉を震わせながら謝る。

「貴女にも、苦手なものがあるのだなと」

 〝少し、ホッとした〟と表情を和らげたアリスタルフに、ラリーサが〝そうですか?〟と尖らせていた唇を笑みの形へ戻した。

「あと、他に、やりたいことは?なんでも言ってくれ」

 アリスタルフに尋ねられ、ラリーサは〝ありません〟と首を横に振ろうとして、しばし思案するように天井へと視線を向けた。その仕草に、その背後でキリルとリンマが僅かに眉根を寄せた。

「では……あと、一つだけ」

 視線をアリスタルフへ戻したラリーサが、少し躊躇いがちに口を開く。

「あの……もし可能であればなのですけれど。どなたか私に剣の指南役をつけていただけないでしょうか?」

 ラリーサの口から紡がれた想定外の求めに、アリスタルフとミハイルが〝剣?〟〝剣、ですか?〟と戸惑いの表情を浮かべる。

「ご存じかわかりませんが、私、イリダールでは近衛師団の団長を務めておりましたの。まぁ、政務に時間を取られておりましたので、実務は副団長に丸投げ状態だったのですけれど。でも、〝団長〟という立場にある以上、有事の際に自分の身も護れないようじゃダメだと思いまして。体力作りも兼ねて、剣術を学んでおりました」

 〝出来れば、トリーフォンの剣技も覚えたいと思いまして〟と双眸をキラキラと煌めかせ、〝駄目でしょうか?〟と僅かに身を乗り出したラリーサに、アリスタルフはミハイルと顔を見合わせた後〝それは、まぁ、構わないが〟と苦笑する。

「まぁ!ありがとうございます!」

 〝嬉しいです〟と胸の前で両手をパチリと合わせて声を弾ませるラリーサが、なんだか己のより5歳年上とは思えなくなってきて、アリスタルフはクスリと小さく笑う。

「剣術の指南役は、成婚の儀を終えてからでもいいだろうか。軍から適した者を派遣することになると思うが……婚姻を結ぶ前に軍の者と接点を持つことに、何かとうるさく言う者が出てきそうだからな」

「もちろんです」

「俺の〝正妃〟となった後も、いろいろと言われるかもしれない」

「気にしませんよ。私、皆によく〝鈍感なところがある〟と褒められるのです」

 そう言って笑うラリーサに、アリスタルフは心の中で〝それは、褒められているのか?〟と苦笑する。だが、時には鈍感になることも必要なのかもしれない。地位が上になればなるほどには、いろいろと面倒くさい柵が増えるものだ。

「もし、何か心無いことを言われた時は、遠慮なく言ってくれていい。俺で盾になれるところはなるつもりだ。……あまり、役には立たないかもしれないが」

 苦く笑ったアリスタルフに、ラリーサはゆるりと首を左右に振ると〝そのお気持ちが嬉しいですわ〟とにっこりと微笑みを深めた。

成婚の儀までの約半年で、頭の中に詰め込めるものは詰め込みますよ!

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