表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の如く 風の如く   火の章  作者: 羽曳野 水響
88/168

第86話 森の朝

     挿絵(By みてみん)



 男の腕の中で、目がめた。

 彼はよく眠っている。

 幸せな気分だった。

 起きているときは、()()()()()してしまうのに。

三河みかわのお百姓に襲われたときも、そうだったけど)

 坊ちゃまに抱かれていると何故なぜこころやすらかなんだろう。

 心地ここちよいぬくもりに、身も心も、ほどけていくのは。

 雨は、もうすっかり上がったようだった。

 ほらの外からむ朝の光が、彼の頭に当たって、髪一本一本が、透明に輝いている。

なん綺麗きれいなんだろう)

 彼のたくましい腕に生えている産毛うぶけまで、金色に光っている。

 りの深い顔立ちに、じた長い睫毛まつげが、いろく影を落としている。

(あんな意地悪いじわる物言ものいいをしなけりゃ、好きになれるのに)

 好きに?

 彼は主人で、あたしは使用人。

 彼には、いいひとがいる。

 あたしには、喜平二さまが、たとえ二度と会うことは無くても。

 二人の行く道は、何処どこまでも平行線へいこうせんをたどり、決してまじわることは無い。

(もう二度と無い、こんなことは)

 でも、今は。

 今だけは。

 彼の胸にほほを寄せて、もう一度、目を閉じた。

 その時、遠くのほうで何か、大きな音がした。

 彼が、()()()と飛び起きた。

 紅もすでね起きて、身構みがまえている。

 二人、洞を飛び出した。

「海岸のほうだ。」 

 彼は言うと、急いだ。

 例のつえは無くしてしまったらしく、代わりにごろな木の枝を切ってきて、使っている。

 紅も後に続く。

 木立こだちの中から、様子ようすうかがった。

 沖を、船が通っていく。

「な、なんですっ、あれっ?」

 紅は仰天ぎょうてんした。

 今まで見たことも無いような船だったからである。

 帆柱ほばしらが三本も立ち、一番前とその次の帆は四角だが、最後の帆は三角形をしている。

「見たこと無いか。あれは南蛮船なんばんせんだ。」

 次に助左は、聞いたことの無い言葉を言った。

「何です?」

「Caravel、カラヴェルってんだ。船の種類さ。」

 ひとりごちた。

「うまくすると乗っけてくれるかも。」

 紅に言った。

「行ってみよう。ただし、気づかれずにな。何者なにものだかわからねえ。」

 船は、沖に泊まった。

 浜には人が出て、銅鑼どら派手はでに打ち鳴らしている。さっき聞こえたのは、歓迎の合図あいずだったのだ。

 何処どこから現れたのか、岸辺から小さな舟が何艘なんそうも、船を目指めざしてぎ出していく。

 最初は、木箱に入った荷物をいくつか、陸揚りくあげしていたが、そのうち、皮や羅紗らしゃの長い上着チュニックの上に腰のくびれた胴衣ホーズ船乗り用の上衣(シーマン・ジャケット)を重ね、腰のふくらんだ毛織けおり帆布製はんぷせい半ズボン(バギー・ブリーチィズ)をはいた、乗組員らしい南蛮人らを乗せた舟が、浜辺に向かってきた。

 その舟の『積荷』を見て、目を疑った。

 こうべれて舟にられているのは、様々(さまざま)な人種の人々だった。みすぼらしい格好かっこうをして、長旅ながたびと嵐に疲れきっている。

 明らかに

(乗客とはいえない)

奴隷どれい商人だ。」

 助左が言った。

 彼も同じ結論にたっしていたらしい。

「どうやらここは、人買ひとかいの浜らしい。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ