↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の如く 風の如く   火の章  作者: 羽曳野 水響
87/168

第85話 雨夜

「お水もあります。ちょっと青臭《あおくさ》いけど、飲めないこともありません。召《め》し上《あ》がれ。」

 浜辺に転がっていた、モジャモジャした茶色の皮に包まれた黄緑色の大きな丸い実の上部を、鉈《なた》で叩《たた》くと、透明な果汁《かじゅう》がな(・)み(・)な(・)み(・)と満《み》たされている。

 助左に実を渡すと、紅は一人で浜辺を歩いて行く。

 日も傾きかけている。

 夕日に向かって暫《しばら》く歩くと、懐《ふところ》から何かを取り出し、頭《こうべ》を垂《た》れて祈った。

 戻ってきた女に尋《たず》ねた。

「喜平二に操《みさお》、立《た》ててんのか。」

 ちょっととまどった、が、笑って言った。

「そうよ。」



     挿絵(By みてみん)



 森の中に生《は》えている巨大な木の根元に広がる、大きな洞《ほら》に宿《やど》った。

 じ(・)っ(・)と(・)り(・)と湿《しめ》り気《け》を帯《お》びた洞の中は、夜だというのにぼんやりと光っている。

 助左が光を触ってみた。

 紅の目の前に拳《こぶし》を持ってきて、開いた。

 彼の掌《てのひら》も金緑色に光っている。

 彼女が驚いていると言った。

「苔《こけ》だよ。苔が光ってるんだ。」

 気がつくと、洞の中一面(いちめん)に絨毯《じゅうたん》を敷《し》いたように、光る苔が広がっているのだった。

 離《はな》れ離《ばな》れに、横になった。

 雨が降っている。

 南国《なんごく》特有の激しい雨。

 季節は初冬《しょとう》だ。昼間は暑くても、夜になると急に気温が下がって、肌を、寒さが突《つ》き刺《さ》した。

「眠ってんのか。」

 助左が声を掛《か》けた。

 黙っていると、重《かさ》ねて言った。

「寝てねえんだろ。」

 彼が身を起こした気配《けはい》がした。

「こっちへ来い。」

「……。」

 苛《いら》立《だ》って言った。

「何もしやしねえ。風邪《かぜ》引いて欲しくねえだけだ。」

 紅は渋々(しぶしぶ)、起き上がった。

 ためらう心を抑《おさ》えて、彼の元へ行った。

 彼は、彼女を胸の中にそっと抱きとると、横になった。

 彼の大きな身体に、す(・)っ(・)ぽ(・)り(・)とくるまれて、彼女は、小さなため息をついた。

「震《ふる》えてるじゃねえか。」

 彼女の髪に、顔を埋《うず》めた。

「寝ろ。明日は、もっと遠くまで、皆を探しに行く。」

 彼の腕の中で、目を閉《と》じた。

 人肌《ひとはだ》の温《ぬく》もりは、心に染《し》みた。

 思いのほか、ほっとした。

 すぐ眠りに落ちた。

 女が規則正しい寝息《ねいき》を立て始めると、彼は目を開《あ》けた。

 心臓の高鳴《たかな》りが、女にわからなくて良かったと思った。

 子供の頃、鳥の鄙《ひな》を拾ったことがあるけれど。

 女の身体は、掌《てのひら》の中の鄙のように小さくか細《ぼそ》く、でも中心からふんわりとあったかだった。

 愛《いと》おしく髪を掻《か》き撫《な》でた。

(Come(可) sei(愛) carina(い)!)

 何もしない、とは言ったけど。

 暗闇《くらやみ》に目を凝《こ》らした。

 光る苔が、紅の寝顔《ねがお》をぼんやり照らしている。

 口を少し開いて眠っている。

 思わず、唇《くちびる》を寄せた。

「ん……喜平二さま……。」

 彼は動きを止めて、女の顔を眺《なが》めた。

 夢の中で笑っている。

 額《ひたい》に口づけした。

(Buona(おや) notte《すみ》.)

 自分も目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。