第72話 Showtime
最終日。
紅は午前中、店の者に辻々で、本日の午後、港で催しがある旨、大音声で呼ばわせた。
港には、暇を持て余している人々が集った。
舞台の周りに、老若男女が詰めかけている。
最初は朱夏の舞いで始まった。
朱夏は室津からやってきて、まだ日も浅い。当然、彼女のことを知らない者が殆どだ。
異国風な彼女の姿に、見物人は涌いた。
賑やかな音曲は、更に人を呼び込んでいく。
最後、彼女は、手にした白粉を入れた瀟洒な入れ物を皆に見せて、にっこりと笑ってから、舞台を降りた。
舞いが終わると、舞台から降りた彼女にくっついて、湯屋にしけこもうとする客がいる。
「ちょっと待って、まだ終わっていないよ!今の姐さん、見た?綺麗だったでしょ?あの綺麗な姐さんが、使っておいでの白粉がこれだ!」
代わって舞台に立つのは、あの猫、である。
先ほど朱夏が皆に見せた白粉を、高く掲げた。
「この白粉を使えば、誰でもあの姐さんのように美しくなれる!のは無理にしても、あの半分、か、三分の一くらいは綺麗になれること、間違い無し!ただ、この白粉、あんまり数が無い!明から入ったばかりだけど、もう随分売れてしまって、残り僅かなんだ。早く買わないと無くなっちゃうよ!それから今日は、特別にお化粧方法も伝授しちゃう!」
調子よくお客を呼び込んでいく。
舞台に、朱夏が使っている禿が上がった。
鞠が彼女にお化粧を施していく。
お囃子が楽しく奏でられる。
舞台の下では白粉を売っている。
人だかりが、通りすがりの人を更に呼び込んでいく。
白粉は売れに売れた。
化粧モデルの実演も好評だった。
中でも盛り上がったのは、小太郎がモデルで舞台に上がったときだった。
当時、男、特に上流階級に属する貴族や武将たちが化粧するのは当たり前のことであった。
でも小太郎は、人前に晒されるのを嫌がった。それを、
「お姉さまが店を追い出されてもいいんですかっ!」
と、鞠が涙ながらに説得してくれたのである。
武衛陣一の美少年として鳴らした小太郎は、成人しても尚、正統派の美男子ではあったが、鞠が上手に化粧を施すと、糸千代丸と呼ばれていた頃の、妖しく凄艶な美貌が蘇った。
司会を務める猫がつい見とれて、
「俺……惚れちまいそう……。」
と呟いたのは、その場に居た全員の気持ちを代弁していた。