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大丈夫だよ・・・なんてありきたりな言葉

前話から大分間が空いてしまいました。

もし、待っていてくださった方がいれば申し訳ありませんでした。

これから少しずつ更新再開していきます。

その後、二人は完全に回復していないということで部屋を出て行き、俺は二人について行くと言う戒さんに家の中を見てくることを伝えて一人で廊下を歩いていた。


大きいとは思っていたけど、中も凄く広い・・・・。


初めて屋敷を見た時も驚いたが、中を歩いてみると驚くというよりその広さに圧倒されてしまう。

外観も凄かったが屋内も予想を裏切らなかった。木材が使われている天井などは木目が美しく、廊下も人が歩いているのかと思うほどに艶があり綺麗だった。その廊下も旅館かと思うほど長く、左右の壁に間隔をあけ引き戸がある。入ったことのある部屋から考えて、一部屋六~八畳ほどだろう。

昨日は気づかなかったが、なんと立派な中庭まであった。中庭には小さいながらも池があり色鮮やかな鯉が泳いでいる。いよいよ旅館にしか見えなくなってきた。

部屋の数と廊下の長さで迷いやすいように思えるが、こうやって歩いてみると構造もわかってきた。

今いる屋敷の部屋数は十六部屋。西側には渡り廊下があり、小さな離れがある。まだ行ってないが少なくとも三部屋以上はありそうで、椿さんのような世話人さんたちが住んでいるんじゃないかと思う。

他にもお風呂場が二つ、昨日俺は広い方に入った。なんでも主用だとかで、もう一方の狭い方(といっても普通の家より広そうだが)は戒さんたち用だとのこと。

俺は屋敷の方は大体見終わったので離れに行こうと渡り廊下を歩いていると、ここから見える縁側に座っている小さな人影に気がついた。


あれは、たしか“子”の・・・。


「・・・・雪葉?」


俺は確かめるように名前を言うと聞こえた様子で雪葉はビクッと肩を揺らしこちらに向いた。俺はなるべくゆっくりと近づいていくが、雪葉は下を向いてしまう。そしてとうとう震えだしてしまった。俺は困惑してあと数歩の位置で立ち止まる。


どうしようか。このまま去ることもできるけど・・・・・・。


その時、俺は雪葉が持っていた物に気がついた。それは綺麗な花柄のお手玉だった。


「・・・お手玉で遊んでいたの?」


その位置から、できるだけ怖がらせないように声を掛ける。すると雪葉は下を向いたまま小さく首を横に振った。その様子から遊んでいたのを怒られると思って否定したという訳ではなさそうだ。

では何故遊ばないお手玉を持っているのか。大事な物なのか、それとも・・・。


「・・・遊びたいけど、できない・・・とか?」


もしかしてと、そう尋ねると雪葉は頷くこともしなかったが否定もしなかった。俺は今度は普通に歩いて雪葉に近づく。雪葉はやっぱり下を向いたままだったが、俺が手を伸ばせば届く位置まで来るとひときわ大きく震える。少し申し訳なくも思ったが俺は同じように縁側に座る。


「お手玉貸してもらっても良いかな」


俺が声を掛けるとすぐに縁側に持っていたお手玉を二つ置き、俺の方へ押し出すように渡す。

手渡しも嫌なのかと少し悲しくなったが、渡されたお手玉を手に持って宙に投げる。


「泣いてるあの子にお手玉ひとつ、笑ってるあの子にもお手玉ひとつ」


小さな声で歌いながらお手玉を交互に投げ始めると、雪葉がゆっくりと顔を上げ、そして俺がお手玉を投げているのを見て目を少し見開き口を開けて驚いた表情をする。俺はお手玉を投げるのを一旦止め、雪葉に顔を向ける。


「俺ね、こういうの得意なんだ。・・・母さんがさ、小さい頃よくこういった遊びを教えてくれたんだよ」


母さんは今時珍しいくらい、色々な遊びを知っていた。お手玉、あやとり、剣玉・・・女の子がするような遊びも多かったけど、子どもだった俺はどれも楽しくて夢中になって遊んだ。今思えば、一つ覚えて見せる度に母さんが笑ってくれたのも、遊びを覚えた理由の一つだったのかもしれない。


「やってみる?」


そう言うと雪葉は戸惑ったように視線を動かした。

俺は持っていたお手玉を一つ雪葉の近くに置き、もう一つを右手に持って見せる。


「・・・俺のやり方なんだけどね。まずは一つ持ってみて、投げてみる」


胸の位置に手を持っていき自分の目線くらいまで投げ、投げた手と同じ右手で受け止める。何度か繰り返すと雪葉が一つだけ右手に持って恐る恐る投げてみる。しかし、大きく投げすぎてしまいお手玉は右手ではなく目の前の地面に落ちてしまった。俺は裸足だったが縁側から降りて玉を拾う。そして渡そうと振り向くと、雪葉は下を向いてさっきよりも大きく震えていた。


「・・・雪葉?どうしたの?」


俺は雪葉の前にしゃがみこんで声を掛ける。雪葉は目をぎゅっと瞑った状態で俺の声にビクッと体を揺らして反応する。



あぁ、そんなに恐いのか。

そんなに恐ろしい存在なのか。

主は。



更に声を掛ければ、恐怖を煽るだけかもしれないと思った。この場から立ち去る方が雪葉にとっては良いのかもしれないとも思った。

でも同時にこの子をこのままの状態で置いて行くことを後悔するかもしれないとも思った。

何もしないで後悔するなら、自分がやりたいことをして後悔したい。

だから俺はその場を立ち去ることはせず、声を掛けた。


「大丈夫だよ」


あぁ、なんて陳腐な言葉だろう。ありふれていて、簡単に口にできる言葉。

でも、そんな陳腐で、ありふれていて、簡単に口にできる言葉が与えてくれるものがあることを俺は知っている。


雪葉は一際大きく震えた後、バッと勢いよく顔を上げた。先ほど俺がお手玉を投げ始めた時と同じ、いやそれ以上に目を見開き驚いた表情で俺と目が合った。その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。そして俺が縁側から降りて目の前に立っていることも、雪葉と同じ視線になるようしゃがんでいることも気がつかなかったようで、驚いた表情のまま俺の顔と足下、そして手に持っているお手玉を順番に見ている。

そこでふと見えた雪葉の細い腕に消えかかっているが痣を発見し、はっとする。

零斗さんや兇夜さんのあの状態が前の主によるものだとしたら、他の人にも同じようなことをしているのでは・・・だとすると雪葉のこの反応も頷ける。

これはあくまで推測でしかない。違っているかもしれない。だから、俺は俺の言葉で今雪葉に伝えたいことを伝える。


「大丈夫。俺は怒ってないよ。失敗は誰だってするし、初めから上手にできる人なんていないんだよ」


俺は右手を雪葉へと向ける。ビクッと反応した為、一瞬戸惑うがゆっくりと頭を撫でると目を見開いて驚く。


驚いてばかりだなぁ・・・・。

心の中で苦笑しながらサラサラと触り心地の良い髪を撫でる。


「今は無理でもきっと上手になれるよ」


ね。と笑いかける。雪葉は呆然と俺を見ている。その色素の薄い瞳に心の奥まで見られているようだったが、嫌な感じはしなかった。


俺は君を傷つけたりしない。

言葉にするのも躊躇われ、心で呟きながら雪葉を見つめる。

暫くその状態が続くと雪葉が小さく頷いた。その表情は完全に安心しているものではなかったが、震え止まっていた。


それだけで今は十分だと思う。そんなに簡単に信頼されるほど何かしたわけでもないし、なにより彼女たちの傷は軽くないはずだ。


俺はお手玉を雪葉の手に乗せて元の位置に座り、俺は庭の方を見て持っていた一つのお手玉を投げながらもう一度歌う。

その横で雪葉の瞳から一筋の涙が流れたことに俺は気付かなかった。




大丈夫だと言われた時、うれしかった


泣いていいんだと言われた気がした




大丈夫は私もよく使います。

なんとなく自分を勇気づける感じで使っちゃうんですよね。

それが相手を不安にさせることもあったようですが・・・。

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