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存在

ここまで紅と戒位しか話してない。

今回の最後に少しだけ、あの人が話します。

ねこさん ねこさん どうしてそんなに苦しそうななの?

ねずみにだまされてしまった。ねずみも憎いがだまされたじぶんはもっと憎いから――――


おおかみさん おおかみさん どうしてそんなに悲しそうなの?

だれからもおしえてもらえなかった。かみさまにも嫌われ、ほかのどうぶつにも嫌われている。そんなじぶんが嫌いだから――――


夢を見た。それは悲しくて切なくて、自分のことではないのに


涙が出そうだった。




夕飯になり戒さんが部屋に呼びに来てくれた。


「あいつらはどうする?」

「あいつら?」

「他の十二支だよ。一緒に飯食うか?」


なんだか意地悪そうな表情で聞いてくる。もちろん俺の答えは。


「・・・暫くはいいです。と、いうかみなさんがご飯食べられないでしょ」


俺の言葉に戒さんは「だろうな」と言って笑った。


「一応お前は主候補だから、もし一緒がいいというなら呼ぶし、嫌だと言えば呼ばない。まぁ、今呼んだところで良い思いをしないのはお前も一緒だろうしな」

「…そうですね。」


そう言いながらも戒さんは機嫌が良いのか口元が上がっている。変なことでも言ったかなと不思議に思ったが、考えてもわからない。

…そう、今はこれで良い。

と、いうより一緒の部屋にいるだけ(むしろ顔を見ただけ)で、あの様子だったら、食事なんて無理だろうと安易に想像できる。

戒さんの案内で食事を摂る部屋に着いた。そこは今まで見た部屋に比べ少し広い作りになっており、奥には茶の間があり部屋の真ん中には長テーブルが置かれている。

テーブルの上にはすでに美味しそうな料理がならべてある。まだ運んで時間が経っていないのだろうご飯などからホカホカと湯気がたっていた。

ぐぅ~~

静かな空間で腹の虫がなる。戒さんはくくっと口元に手をやって笑っている。俺は顔が熱くなるのを感じながら、ジロッと戒さんを見る。


「あぁ、悪い悪い。食っていいぞ?」

「・・・・戒さんは」

「ん?」

「戒さんは食べないんですか?」


そこまで言ってから俺は、はっと慌てる。


「あ、嫌なら無理にとは言わないですけど、もし戒さんが良かったら…」


さっき一緒じゃなくてもいいと自分で言いながら、この短い間になんだか兄のように感じていた戒さんと一緒に食事が摂れたらと思ってしまったのだ。

自分の矛盾した言葉に後悔していると、自分でも気づかない内に俯いていた頭を軽く叩かれる。


「?」


俺が不思議に思って顔を上げると、戒さんは部屋の左側の戸へ近づき、その中に入っていったが、すぐに出てくる。後ろから椿さんと椿さんより少し若い女性が料理を持ってきて、置かれていた料理(当然のように に置かれている)の近くに料理を置いて出ていった。戒さんは置かれた料理の前に座り、いまだに立っている俺の方を向いた。


「さ、食おうぜ?」

「あ・・・はい!」


俺は嬉しくて笑顔でこたえて席に着く。

こんな風に人と食事をとるのは久しぶりだった。母さんが倒れてしまってからは1人で食べていたし、他の人はどこからか俺のことや母さんのことを聞いたらしく一定の距離をおいて接してきていた為、一緒に居るということ自体が少なかった。だから少し緊張したけど、それ以上に喜んでいる自分がいた。

俺と戒さんは食事をしながら話した中で、年の話があった。


「えっ!戒さんって150歳なんですか!?」

「まぁそれ位か?詳しくはもう覚えてないんだけどな」


呪いを受けるとある程度まで成長した後はほとんど成長しないというけど。その成長も普通の人に比べとてもゆっくりになると聞いたことがある。

それにしても150歳・・・歴史の授業で出てくるような時代を生きてきたってことだよな。


「じゃあ、他の人も?」

「うーん、みんながみんな3桁生きてるわけじゃなくて、俺と零斗、兇夜は大体同じくらいだったかな。次は90代の一夜か?港、夕日、卯月、茜、犬って感じで続いて、今ここで一番若いのは雪葉で13歳でここに来たのも一番遅かったな」

「そうなんですか・・・・・あの二人はどうですか?」


ここで零斗さんと兇夜さんの名前が上がった為、俺は聞きたかったがすぐには聞けなかったことを尋ねてみた。


「あの二人ならまだ目を覚ましていない。まぁ明日には覚ますんじゃないか?」

「そうですか」


戒さんは箸を止めずに話しをしている。俺は少しほっとして自分も料理を口に運んだ。


「気になるか?」

「あんなに傷ついていたし、それに一応これでも自分が勝手に動いた自覚はあるので」


誰かに許可が必要だったかといえば、戒さんの言い方からして主の許可ということになると思うので、それは大丈夫だと思う。ただ気づいた。自分が良いと思って行動したことが、他のこの屋敷に居る人にとってはどうだったのか。いくら主が行ったことだとしても、俺が来るまでの間に主が居なかった時があるはずだ。それをあの状態で放置するってことは、関わりたくないからか、助けたくても助けられない状況があったのか。これも確認しておいた方が良いよな。戒さんはあの時「ありがとう」って言ってたからたぶん2人に対して悪い感情を持っているわけではないと思うけど、他の人は分からない。


「あいつらなら、あれ位の傷数日あれば消えるさ。俺たちの治癒力は人より強いからな」

「あ、あの!」

「ん?なんだ?」

「他の方は、その、零斗さんたちのことを、あの、どう思ってるのかぁって」


初め勢いよく言ったは良いが、どうしても質問の内容が内容の為、スムーズに言えない。

戒さんは箸を止めて少し考えるような素振りを見せると先ほどの笑顔ではなく真剣な表情で俺を見返した。


「・・・どうして俺たちはあの2人を助けなかったのか、2人があの部屋から出てきたことで不都合があるのかってことだよな」


質問に質問で返され頷く。


「結論をいえば、不都合はない。言ったろ、ありがとうって。」


そこで先ほどの笑顔より柔和な顔で笑いかけられる。


「2人を助けられなかったのは、あの部屋が原因だな。あそこは主の血筋の者しか入れない。まぁ、それ以外でも主が一緒であれば入れんだけど。ここまで言えばわかるよな?」


戒さんの問いかけに再度頷く。

主が2人をあの状態にしたのであれば、あの2人をそこから連れ出すわけはなく、また仮に主と一緒にあの空間に入れたとしても連れ出すことは無理だろう。俺はやっと納得した。「あいつらもあの部屋にずっといたわけじゃないから、他のやつらとも普通に面識はあるし、だから心配することはないよ」と念押しのように戒さんに言われてしまえば、それ以上そのことを聞く必要もない。


「そういえば、さっき何かあったのか?」

「さっき?」

「起こしに行った時、少し様子が可笑しかったからな」


気付いてたんだ・・・・・戒さんなら夢の話しだとしてもちゃんと聞いてくれる。

会ったばかりの人に対してこんな風に思うのも可笑しかったが、なぜかそう思った。


「・・・夢を、見たんです・・・・俺は暗闇にいて、そしたら目の前に黒い猫が見えたんです。猫は凄く苦しそうで理由を聞くと自分が憎いと言うんです。その後また俺は暗闇にいて、今度は目の前に焦げ茶の狼がいたんです。狼は凄く悲しそうで理由を聞くと自分が嫌いだと言うんです。・・・・・そこで目が覚めました。俺は自分の事じゃないのに、とても悲しかったんです」


言葉にしてみて自分は可笑しなことを言ってしまったと思った。

夢というのは大体が流れがめちゃくちゃで、意味の分からないものが多い。改めて人に話してみるとやっぱりよく分からないというのが、俺の感想。


「すみません。変なこと言って」

「いや」


俺の話を笑いもせず、不快な顔も見せず黙って聞いていた戒さんだったが、少し考えるようにして口を開いた。その眼差しは真剣で、どこか優しかった。


「お前は優しいからこそ人一倍悲しみを感じるんだろ・・・・ここにはそういった想いを持った奴が多いからな」


最後の方は悲しげに言った戒さんの言葉に俺は何も言えなくなって食事に集中した。

俺は食事を終えた後、戒さんに案内されて風呂に入った。


さっきは深く考えないで眠っちゃったけど・・・・・俺って本当にここにいていいのかな?戒さんは候補としていてもらうって言ってたけど、それもずっとというわけにはいかないだろうし。

そしたら、どうしようかな・・・・・・どこか別の街に行って働くのも良いかもしれない。でも主の血筋ってことだし、勝手なことはできないのかなぁ。

・・・とりあえず考えないでおこう。うん。それよりも今のことだよな。それに戒さんは大丈夫だって言ってたけど零斗さんと兇夜さんは大丈夫かな。この後様子を見に行こう。


俺が脱衣所から出るとちょうど椿さんが通りかかった。俺はまださっきのお礼を伝えていないことに気が付き、椿さんを呼び止め頭を下げた。


「あ、さっきはありがとうございます。ちゃんとお礼を言ってないですよね」


俺がそう言うと、椿さんはその少し厳しそうな顔を歪めた。

それが辛そうで、俺は知らぬ間に何かしてしまったのかと慌ててしまう。


「えっ!どうしたんですか!?俺何か変なことでも「違うんです。ただ・・・嬉しくて」


慌てる俺に椿さんは表情を少し柔らかくして首を横に振り涙声になりながらそう言った。椿さんの言葉に更に混乱する俺に、椿さんはうっすらと涙を浮かべながら微笑んだ。そして今度は涙を浮かべている人とは思えないほど、はっきりとした口調で静かに言った。


「私は20の時から、ここにいて皆さんを見てきました。・・・・闇ばかりで明るいことなどほとんど見たことがありません。特にあの二人は・・・・。戒さんから紅様が主になる気が無いことはお聞きしました。ですが私はあなたに主となってほしい・・・・あの二人を助けてくださったあなたに。あの二人を助けてくださったこと本当に感謝しております」


今度は椿さんが深く頭を下げる。

それよりも椿さんの言葉に俺の知らない闇を見たような気がした。

椿さんは俺を必要としてくれる。主にならないと言った俺を。椿さんにしたら少しでもましな人に主になってほしいという気持ちだったかもしれない。

それでも、俺は嬉しかった。


「・・・俺の方こそ、ここに住まわせてもらってとても助かっています。ありがとうございます」


俺の言葉に椿さんは顔を上げ俺を驚いた表情で見てから、もう一度綺麗に微笑んだ。

椿さんと別れた後、俺は二人が寝ている部屋へ向かった。戒さんは部屋に居らず二人だけが静かに眠っていた。俺は音をたてずに、ゆっくりとした足取りで近づく、布団の間に座って二人の端正な寝顔を見た。


同じ男なのに不公平だよな、戒さんたちも整ってるしなぁ・・・・・。


すると二人の顔が苦しそうに歪んだ。そして手が何かに縋るように動く、俺はそれを見てとっさに二人の手を握った。寝ている人とは思えない力で握られ、一瞬手を取ったのは間違いだったかもと思ったが、二人を見ると表情が徐々に落ち着いていき、また深い眠りについた。その様子を見てほっとしたけれど、俺は今この手を離してはいけない気がして暫く握っていた。男の俺で申し訳ないけど・・・これが可愛い女の子だったら2人も文句はない、と思う。人の気配が安心するときもあるのだと知っているから、俺はその場から動かずにいた。


自分の存在を必要としてくれる人がいる

                    今はただそれだけでいいと思う


次からこれまで出てきた人物と関わっていきます。


ゆっくりマイペースで頑張っていきます。

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