フルータの場合 29
「辞令だ……」
次の日、フルータは厨房に張り出されている紙を見て愕然とした。
「そんな……もしかしたらとは思っていたけど……」
それを見て、レイティも、フルータの隣で驚いた。
『サリルとフルータは前線に向かい、炊事兵として従事せよ』
そう書かれている辞令を見て、二人が唖然としているところ、サリルがフルータの前に現れた。
「大変なことになってしまいましたね……」
少し不安げな顔をしたサリルが言う。
「なによ、あんた……」
そのサリルを見て、レイティが言った。
「どうせあんたが裏で手を回したんでしょう? 普通考える? フルータを戦場送りにするなんて……」
レイティがサリルに詰め寄る。サリルはそれで怯えて縮こまった。
「私は何も知りません……本当です……」
そうサリルが言うと、レイティはその胸ぐらをつかんだ。
「あんたが猫を被っているのはお見通しなのよ! そんなやり方で、男達を騙して、恥ずかしくないの?」
レイティがそう言うと、フルータに向けて助けを求めるように視線を送った。
「フルータ様……」
その様子を見たレイティは、さらに怒り、サリルに詰め寄った。
「今だって! 本当は私の手なんか簡単に払いのけられるくせに! 被害者ぶってフルータに色目を使って!」
「本当に私は何も知らないんです! 信じてください!」
サリルがそう言い、頭を抱えて縮こまった。そのサリルの前に立ったフルータは、ため息を吐く。
「サリル。僕は気づいているぞ……レイティが怒るから、かわい子ぶるのはやめろ……」
冷たく言い放つフルータ。周囲の料理人達は、フルータを非難する視線をおくる。だが、サリルはそれを聞くと、「ふふ……」と笑って顔を上げた。
「もう少しくらいは保つと思っていたのですが……お気づきでしたか、やはり私の選んだ殿方ですね」
「今時そんな女の子は絶滅危惧種……いや、もう絶滅しているかもしれない」
レイティが本性を出したサリルに飛び掛っていこうとしていたが、フルータはそれを押さえつけて止める。床に倒し、レイティの背中を踏みつけ、レイティが動けないようにする。
「こんなボクのどこがいいんだい? 女の子の扱いも、ロクに知らないんだよ……」
「私、そういうのも嫌いじゃありませんよ。私は冷たくされると、燃えるタイプです」
フルータは身を引いた。「君は、いわゆるマゾってやつかい?」と聞き、レイティの体を抱えながら後ろに下がっていく。
「私は、ただ、バカが嫌いなだけです。この調理場の男たちとか……ちょっと、かわい子ぶると、すぐデレデレになるようなのは、騙し甲斐がありませんもの」
サリルは、「その点……」と言いながらゆっくりとフルータの方に近づいていった。
「少しくらいは頭が回る男がいないか? と、思っていたところでした。あなたは及第点をつけることができるくらいには、頭の回転がよろしくてよ」
まるで、キスでもするかのように顔を近づけてくるサリル。フルータはサリルがキスをするつもりがないのをわかっていて、微動だにしなかった。
「私の事を無視して話を続けないでくれる?」
レイティが言う。
「私の方だって、戦場に異動をするくらいの力はあるんだからね」
ここに来て、レイティもサリルの行動に乗ってきた。
「ちょっと待ちな! どうせならここに残れるように話をしてくれたら!」
フルータが言うが、レイティとサリルは同時にフルータに向けて言う。
「あんたは黙ってなさい!」
二人が同時にそう言ったのに、フルータは涙目になった。これは、どうしても前線に行くしかなさそうだ。




