フルータの場合 27
「フルータ君……」
ブイヨンを作っている最中、料理長から声がかかった。フルータは、ブイヨンを作る手を止めて料理長の話を聞く。
「君って強いんだってね? どこかで武道でもしていたのかい?」
「はい、昔からの友人の剣の練習相手くらいならしていましたが……」
フルータは昔、ラディンの剣の稽古に付き合っていた。だが、ラディンは強く彼の練習相手として戦っても一度も勝ったことはない。
「君の友人っていうのは、あのラディンとかいう騎士なのだろう? 彼は親衛隊最強って言われているシャムロック殿に勝ったっていう話だよ」
「あいつ……そんなに強かったのか……」
親衛隊最強でも、ラディンには敵わなかったのだ。それを聞くと、『自分も結構鍛えられているんだ……』と、感じてくる。
「それがどうしたんですか……?」
フルータはそう聞き返す。そうすると料理長の態度がよそよそしくなった。
「なあに……ちょっと聞いてみたかっただけさ」
そう言い残した料理長は、フルータに背中を向けて、自分の仕事に戻っていった。
昼休み、王宮の中庭にやってきたフルータ達。
サリルとレイティの二人は、それぞれフルータの隣に座った。
お互いにケンカを始めるような様子はない。ケンカをしても、フルータに押さえつけられるだろうし、フルータの印象も悪くなるだろうと思っての行動である。
その事に、なんとなく気づいているフルータは、両隣からプレッシャーをかけられるのに、冷や汗をかいて背中に悪寒が走る感覚を感じていた。
二人は、やたらとフルータにくっついてくるし、お互いに目を合わせようとしない。フルータの様子を見るために横目でフルータの事を見たとき、視線が合ったりなんかもするが、二人はすぐに視線を逸らし『ふん……』といった感じに顔を逸した。
「そういえば、朝料理長に、こんな事を言われたんだが……」
その様子を見ているセルダに話しかけたフルータ。
朝に料理長から言われた言葉を思い出して言う。
「それって……『腕に覚えがあるようだし、戦場に行ってもフルータならやっていけるだろう……』って、事なんじゃないの?」
フルータはそれを聞いて、『うーん……』と唸った。
「戦場って言っても裏方で料理をつくるだけでしょう? 危険なんてないよ」
サリルがそう言う。サリルの父は、前線で出世をしたと聞く。サリルの口添えがあれば、そういう危険の少ない場所に配属される事もできるだろう。
「態度が暴力的かと思ったら、頭の中身まで暴力的なのね? 戦争に行くなんて、嫌に決まってんじゃん。危険が少ない、多い、は関係なく」
「いろいろと、無礼な事を言いますね、人を暴力的とか……」
そこからフルータは息を飲んだ。これは二人んぼ言い争いが始める前兆であると感じたのだ。レイティとサリルの二人は、これを機に言い争いを始めた。
「朝、セルダを蹴り飛ばした、猫かぶりの女を見たものでね」
「あれは、セルダさんが悪いんです。いきなり私のお尻を触ってきて……」
「だけど、あんなふうに蹴り飛ばす事はないよね……お下品な女は、すぐに暴力に走るんだから」
「あなただって、いつもセルダさんの事を叩き伏せたりしていると聞きますよ。お下品なのは、本当はどっちでしょうね?」
この、女の戦いに挟まれたフルータは黙っていた。自分が作った弁当を自分でつつき、黙々と食べる。
「まあなに、さっきの話に戻るんだが……」
フルータは話を戻した。
「別に、戦場に行くことになってもいいんじゃないですか? って思いますけど?」
レイティから顔を逸らしてそう言うサリル。やはり、サリルは戦場に行く事を、『よし』としているようだ。
自分の父が、牛耳っている場所であるため、いわばサリルにとてはホームグラウンドである。当然の考えだろう。
「戦争なんか行きたくないよね……フルータだってそう思うでしょう?」
レイティも言い出す。
「そりゃ、行きたくないよ」
フルータがそう言うと、レイティはニヤリと笑ってサリルの事を見る。
「相手を挑発するような事はやめて欲しいんだが……」
フルータが言うと、レイティは顔をむくれさせた。サリルがニヤリと笑って言い出す。
「怒られましたね、本当に迷惑ばかりかけてしょうのない人ですね」
「サリルも……」
フルータが言うと、レイティは、サリルの方を見はしなかった。この挑発合戦は、ひとまず終わりになったようである。




