フルータの場合 26
12部 都合のいい部下
「レイティとサリルの二人を、一瞬で叩き伏せたんだよ……」
フルータが厨房に行くと、セルダが上機嫌でほかの料理人達にそう言っているのに出くわした。
「よう、フルータ。お前ってすげえ強いらしいな……」
料理人の一人が、肩を組みながら言ってきた。
「一体どんな話に?」
フルータが意味がわからない感じで言うと、セルダが言ってきた。
「昨日の話だよ。レイティとサリルの事を、一発で倒していただろう?」
セルダが言うフルータはそれで思い出した。
「女の子二人を倒したからって……」
「あの二人、ただの女の子じゃないよ……」
レイティは、確かに護身術を学んでいたが、それくらいだったら、普通の域を超えるものではないだろう。
「護身術くらいで……」
「だから、普通はすごいの! レイティはなぁ! 護身術で、講師をするのを頼まれるくらいすごいんだから!」
セルダが言うには、レイティは、人に教えることができるほど腕がよく、この街でも少しは有名らしい。
「そのレイティを一発で転ばせたんだぞ!」
そう言われればすごい事なのだろう。なんとなく納得してきたフルータ。
「それにサリルの方はどうなんだ?」
フルータが聞くと、セルダは「うん……うん……」と、いった感じで首を立てに振った。
「あの子も強いよ……なんなら、ちょっと見せてみよう」
そう言い、芋の皮むきをしているサリルのところに、セルダが向かっていった。
後ろからそっ……と近づき、サリルのお尻に手を伸ばした。
そうすると、サリルはその手を取りセルダの事を引き倒した。
「もうっ! 何度も何度も!」
その後、サリルは膝で、セルダの顔を叩き上げた。
「なんで、こんな事をするんですか!」
セルダの髪を掴み、顔を上げさせたサリルが言う。
「ほら……フルータが見てる……」
セルダはそう言い、フルータの事を指さした。
自分の事を見ているフルータに気づくと、サリルは顔を赤くした。
「こんなところ! 見ないでください!」
そう言い、サリルはセルダの事を蹴り飛ばし、フルータに背中を向けて芋の皮むきに戻った。
セルダが、にこやかな顔でフルータのところまで戻ってくる。
「なあ、彼女もすごいだろう?」
「近づくな、女の敵……」
いくらなんでも、セルダのやった事は褒められたものではない。フルータも呆れた顔でそう言った。
「まあまあ、君にサリルの強さを分からせるためにやったんだ。むしろ、名誉の負傷だろう? 君からそんな言葉を言われると、体を張った意味がなくなるじゃないか」
「思いっきり張らないでいい事で体を張っただろう」
そう言い、セルダはフルータと肩を組んだ。
「まあまあ……そう言わないで……」
人の噂も七十五日だ。腕っ節が強いことなんて、料理には全く関係がない。こんな話、この場限りの話題でしかないだろう。
そう思い、フルータはブイヨンを作り始めた。




