フルータの場合 21
10部 ただの素直な部下
「フルータ君。君は大勢の料理を同時に作ったことはあるかい?」
フルータが料理長に向けて、朝の挨拶をした後、料理長から唐突に言われた言葉である。
「何度かあります。お祭りの時など、参加者達にスープなどを作ったりして……」
「そうか……ありがとう……」
そう言い、料理長はフルータの前から去っていってしまった。
何が聞きたかったんだろう? と、思ったフルータだが、その事を考えるヒマはフルータには与えられなかった。
「フルータ……昨日は、最後まで選ばなかったけど……」
レイティがジトリとした目でフルータを見つめながら言う。フルータはその視線をまっすぐ受け止める事ができず、自分が作っているブイヨンの事を、じー……っと、見つめた。
あの後、フルータは二人の前から逃げ出した。
自分の部屋に戻り、今の状況を頭の中で整理したフルータ。まさか、あんな事になるなんて予想もしていなかったフルータは、少し考えてから結論に至った。
「やっぱサリルの事を諦めよう……」
そう、フルータが小さな声で言うと、レイティは最後にきっ……と睨んでフルータの前から去っていった。
その時、フルータは自分に背を向けていくレイティの事を見て、ほっ……とした。
フルータにとって、レイティは自分では手に余る子である。
セルダから聞いた、嫉妬深く、執念深く、恋には一途……というか、恋には病的なほどの執着心がある。
だが、自分なら、上手くあの子をいなす事ができると思っていた。
だが、サリルが間に入ってきた事により、それが、とてつもなく困難なことになった。
フルータ自身から見て、レイティは可愛いし、子爵の家の出である事も、権力欲の権化である部分のフルータにとっては魅力的だ。
だが、サリルの出現により、執着心に歯止めのかからなくなったレイティは、暴走をしかけている。
今、レイティの事を見ると、料理に集中しているように見えて、ところどころで機嫌の悪さが出ている。
包丁を食材に入れる時に、やたらにブツ切りにしたり、一度串を通して硬さを確かめるだけで十分な芋に、やたらと針を刺している。
「名前で呼んじゃっていいかな……フルータ……」
後ろで芋の皮むきをしているサリルが、声をかけてくる。
「やめてくれないか? さっきのを見ていただろう?」
こんな事がバレたら、またレイティの機嫌が悪くなる。そんな事はサリルだって分かっているだろう。
「だけど、君にしか頼れないの。私はそんなに世渡りが上手くないし……」
「いくら食いついても、ボクは君の所にはいかないぞ」
「そんなの困る。私には君だけだから……」
なんか、途中から聞いたら、何か勘違いが起きそうな事を言ってくるサリル。芋の皮むきを丁寧にやっている姿を見るが、その様子を、ほかの料理人たちが、気にしているように見ている。




