ラディンの場合 2
この国は、隣国との戦争をしている。
もう、かれこれ十年以上に渡る戦争である。隣国である、ラダヴィッツ連邦との戦いは、十年以上におよんでおり、両国間で、戦争条約が結ばれて、歴史的に見ても生ぬるい戦争が続けられている。
略奪禁止。捕虜の虐待禁止。半年に一度の、捕虜の交換式。ライセンスを持たない者が戦闘に出る事も禁止されている。つまり、傭兵を雇うことができない。
そのため、戦争による死者も少なく、一般の市民達には、今この国が戦争をしているという自覚は皆無と言ってもいい。
「そうかもな……。あんまり認めたない事だが……」
ラディンがそう言うと、レナードはクスリと笑った。
「言った言葉が、うちの隊長とおんなじだ」
レナードは言う。
「隊長か……そういえば、まだ会ってないけどどんな人なんだろうな……?」
ラディンが言う。そうすると、レナードは頭を掻いた。
「それなんだが……シャムロックのお父上なんだよ……」
ばつが悪そうにして言うレナード。それを聞いて、ラディンは驚いて言った。
「ちょっと待て! 結構ヤバい事を言っちゃったぞ!」
「そうだよね……」
ラディンはレナードを見て言う。
「隊長自身は、井の中のかわずの田舎者を、息子のエサとしてあてがっただけのつもりなんだろうけど……」
シャムロックと、田舎者を戦わせて、シャムロックに勝たせ、周囲からの羨望を集めるという、隊長の目論見は見事に外れた。
ラディンはシャムロックとの戦いに勝ってしまったのだ。だが、勝たないと親衛隊に入隊はできなかったので、勝つしかなかったのであるが……
「調子に乗って、エラい事を言っちまったな……」
ラディンは自分が言った言葉を思い出す。
『あなたは、動きが早いだけで、鋭さがありません。本当の戦闘を知らない者の戦い方です。戦地に行って、腕を磨くのがよろしいのではないですか?』
ラディンが、剣の師として指導を受けていたのは、左手の親指を一本なくして帰ってきた騎士家の男だった。
その男は、来る日も来る日も戦いに明け暮れ、敵兵を殺し続け、最後には、『断頭台』などという二つ名がつくほどに有名になっていったのだ。
自分と対面をした敵の兵士は、自分の顔を見ると、死を悟り、恐怖で顔を歪めた。
だが敵前逃亡は死罪であるため、逃げるという選択肢はない。
恐怖に震え、それでも、勇気を出して自分に立ち向かってくる敵の兵士を見て、その男は思ったものだ。
大抵の者は、大きく剣を振りかぶった。自分の剣はこの男には敵わない事を聞いて知っていたし、対面をして覚悟をしていた。
その、スキだらけの攻撃をかいくぐり、見事に敵を切り捨てる。そんな事を繰り返していたのだ。




