フルータの場合12
6部 フルータの苦悩
フルータは、お菓子を作って、庭園にまで持っていこうとした。厨房では、オーブンがまだ熱を放っていた。
調理器具がまだ洗われずに残っているが、それを洗って仕舞うのは後だ。
「ふるーたー」
クロワッサンが出来上がったところ、フルータは後ろから声をかけられた。
聞き覚えのある声を聞いて振り返ると、そこには、レイティがいた。
「自分一人だけでこんな所にくるなんて、ズルいんじゃない?」
「騎士と会うっていっても、お菓子を渡すだけだよ。そんなにいいものでもない」
「いいじゃないかぁ……王宮騎士さんなんて、誰もが一度は会ってみたい人達だよ」
レイティは、特に他意はなく珍しいもの見たさで言っているのである。フルータは、でばがめ根性を見せるレイティにいくらか呆れながらも、持っている皿をレイティに渡した。
「一緒に運んでくれ。君はなにも言うなよ。親衛隊の騎士を見てみたいだけなんだろう?」
「はいさー……」
そう言い、レイティは、フルータからクロワッサンの皿を受け取り、フルータの先に歩こうとした。
「ちょっと待て、ボクの前を歩くな。まるで、このクロワッサンをキミが作ったみたいじゃないか」
そう言い、肩を掴んでレイティを後ろに下げると、フルータは前に向けて歩き始めた。
「まさか……親衛隊の騎士ってのが、ラディンの事だったとは……」
フルータはがっかりした感じで言う。
フルータがクロワッサンを持っていったら、そこにいたのは見知った顔であった。
いつもの調子で、お互いに嫌味をかわし合い、話が終わると戻ってくる。フルータにとっては、何の収穫もない仕事だった。
「あの騎士さんって、キミの友人だったの?」
レイティが聞いてくる。
「ああ……昔からの腐れ縁で、この王宮にも、二人で一緒に街道を歩いてやってきたんだ」
「ふーん……」
レイティが納得をしたような、していないような声で言う。
「じゃあさ……」
その言葉を初めに、レイティが言い出す。思わず心臓を鷲掴みにされたような感覚を感じ、フルータは驚いて足を止めてしまった。
「あの、メイドは何?」
クロワッサンを見てヨダレを垂らしていた、あのメイドの事である。
「彼女とは、完全に初対面だよ……」
レイティの顔色を伺いながら言う、フルータ。
「あの子がどうかしたのかい?」
なぜ、こんな態度を取られるのか、全くわかっていないフルータは、おずおずとしながら聞く。
「べつにー? 何でもないけどー。だけど、食べものを目の前にしてヨダレを垂らすような意地汚い使用人ごときに、あんなに優しくする事ないんじゃないかな……って感じよ」
『使用人ごとき』と、言う言葉を使ったレイティ。
『なるほど、高貴な人の考えそうな事だな……』
そう心の中で考えるフルータ。レイティの家は子爵の家系なのだと考えると、意外にも高飛車なところが、レイティにはあるような気がしてくる。
「何よ! みんな『メイド服もえー』だとかさ、セルダさって、いっつも使用人なんかを見ているし、あの制服、今年でコスチュームチェンジをするのが、私の知る限り三回目で、どんどんスカートの丈が小さくなっているのよ!」
フルータは呆気にとられた。




