フルータの場合10
「あのー……ひとつ聞きたいのですが……」
フルータは言う。もうすでに生地を作り終えていた。
「なんだ? 言ってみろ」
「いつまで見ているんですか……? やりづらいのですが……」
「なんだ? パティシエの俺が、ここに居るのが悪いのかよ……?」
「そうではなくてですね……」
何か、フルータを値踏みしているかのような視線が、自分の背中に刺さっているのに、居心地の悪さを感じながらも、フルータはクロワッサンの生地を丸め始めた。
「お前、将来はどんな料理人になろうとしているんだ?」
唐突に聞いてくるパティシエの言葉に、フルータはどう言えばいいか? と、考えた。
「そりゃ、未来の料理長を目指していますよ」
「目指しているねぇ……あいつは、お前のような奴が嫌いだぞ」
パティシエの言葉に、フルータは作業の手をピタリと止めた。
「どこがいけないと言うんですか……」
思わず聞き返すフルータ。それを聞くと、パティシエはニヤリと笑った。
「お前みたいに、態度良くしようとか、上の人間のゴマをすろうなんて考えている奴は、大嫌いなんだよ……あいつは……あいつ自身が、いつもニコニコして腹を見せようとしねぇ嫌な奴なんだがな……」
「もしかして、二人は、長い付き合いなんですか?」
パティシエはフルータがそう言うのを聞き、少し饒舌になって、話し始めた。
「俺とアイツは古い付き合いでな……」
昔から、パティシエと料理長は、新米料理人の頃から仲が悪かったらしい。
パティシエは、昔から頑固者で、自分が先輩から受け継いだお菓子の味を守り続ける事を信条にしていた。
かたや、料理長はよく街にまで出て、街の料理店などで料理の勉強をしながら街の料理店をめぐり歩いたのだという。
その二人の若い頃からの行動の差は、今になってはっきりとした二人の差になってしまったのだという。
「俺は古い菓子しか作れなくなっていた。その事に気づいたのは、去年の話なんだっていうから笑えるもんよ……」
数年前から、王宮の人たちは、自分のお菓子ではなく、街からお菓子を取り寄せるようになっていった。その現状を見ても、パティシエは自分の菓子に対する自信は揺るがなかったのだという。




