フルータの場合11
「王宮の人たちは、珍しいものに目が惹かれているだけだ。いずれ飽きて自分の作った菓子を頼むようになる……とか思っていた……」
その間も、いつ注文が来てもいいように、釜のチェックや、新鮮で高級な材料の仕入れなどと欠かさずやっていた。それが、とんんだ道化の所業であったというのに、数年間かけても気づく事ができなかった。
「数ヶ月ぶりに菓子の注文が入ったって時だった。そりゃ喜んで作ったさ。数年ぶりに、いいデキの菓子ができたなんて思って、一人で満足をしたもんだった……」
だが、注文が来たのは、自分のお菓子が求められたからではなかったのだ。
呼び出されると、見知らぬ男と対面をさせられた。
その男が何者なのか? と、思い、不思議さで目を丸くしていると、今から、自分のお菓子と、その男とで、お菓子の料理対決をするのだと言われた。
自分がついさっき、最高傑作だと思って作った菓子と、その男の作った菓子を比べる事になった。当然、自分が十年以上かけて覚えた、王宮に伝わる味が勝つと思っていた。
「だが、俺の菓子なんか見向きもされなかった。それどころか、俺自身、こいつらの菓子には勝てないと思ったよ」
職人気質の頑固ジジイかと思えば、少しくらいは殊勝なところもあるものだ。そう思ったフルータ。パティシエは続ける。
「俺が死んだら、街からパティシエを呼んでそいつを宮廷パテシエに選ぶんだと……俺が学んだ、昔から王宮に伝わる菓子作りの極意なんて、誰も求めちゃいないのさ……」
哀愁を漂わせながら、そう言うパティシエの老人。
「料理の世界も、日進月歩ですから……」
フルータは言う。他にかける言葉も見つからなかった。
「なぁ、若いの……お前俺に代わってパティシエになる気は無いか?」
それを言われると、フルータはピタリと手を止めた。
「俺にだって意地がある。王宮に伝わる菓子の作り方は誰かに継承をさせたい。だが、俺には時間がなければ腕も足りない……」
老人が言う。
フルータの頭に浮かんだのは、パティシエの地位の高さだ。
王宮でただ一人のパティシエの地位。宮廷料理の料理長の地位ほどには及ばないが、名誉のある地位であるのは変わりない。
「お前、まんざらでもない感じだな……分かるぞ、自分の味を周りに認めてもらいたいなんて、考えてねぇ。お前は地位と権力が欲しいんだ。料理はそのための道具だ」
ピタリピタリと、フルータの事を言い当てる老人。意外と侮れないなと思い、フルータは表情を読まれないように顔を固くした。
「いきなり言われても、すぐに答えられる事じゃないな……考えておいてくれ……」
最初には、王宮騎士にお菓子を作って、顔を繋ぐことができればいいと考えて請け負った仕事である。
そのつもりの仕事で、こんないい話にありつけるものであるとは考えもしなかった。




