ラディンの場合 10
「お初にお目にかかります。私はしがない親衛隊騎士のレナードと申します」
アディセをレナードの前にまで連れて行くと、レナードは、貴婦人にでもするようにしてお辞儀をした。
アディセはそれをぼう……とした顔を見た。
丁寧に扱われた事の無いアディセは、レナードがとった行動に、反応をできないといった感じだ。
『おい、レナード……』
ラディンはレナードの隣に立つ。そのレナードに向け、ラディンが耳打ちをする。
『アディセは男が怖いらしい。あんまりベタベタしようとすると嫌われるぞ』
『了解……』
レナードにラディンの言葉は伝わったようだ。レナードはアディセから少し距離を置き、話しだした。
「君が、ラディンの世話係のアディセさんですね」
『そうそう……こういう奴は、一度心を開くとデレデレになるんだよな……』
そう、レナードに向けて言うラディン。
『焦ったら負けなのは、分かっているさ』
小さな声で言うレナード。彼はそれから、アディセとは、つかず離れずの微妙な距離感をとり続けることになる。
三人で談笑をしているところ、料理人がお菓子を皿に乗せてやってきた。
「騎士様方。ご注文の品を用意いたしました」
聞き覚えのある声で、言われた言葉を聞き、ラディンは、その料理人の事を見た。
「フルータ……お前……」
ラディンがそう言うと、フルータはそれに合わせて言い出す。
「入って二日で。もう女の子を侍らせているのかい?」
「お前こそ、後ろの子はなんだ? お前は、昔からそうだったな。随分におモテになるようで……」
そう言うと、フルータとラディンはお互いに小さく笑いあった。
その様子を見ていたレナードが言う。
「二人共知り合いなのかい?」
「昔からの腐れ縁でな」
ラディンは忌々しげに言う。フルータは、持ってきた菓子の皿をテーブルに置く。
「こんな事はメイドにでもやらせてればいいだろう? なんで料理人自らがこんなところにまでやってくるんだよ?」
最後に『ケッ……』と言うラディン。
「まあ、ボクだってこんな事は料理人の仕事ではないとは思うが……若いうちなんて、こんなものだろう?」
「優等生な事で……」
自分が、騎士達にお菓子を出すという雑事に文句も言わずに従事をしているフルータに、ラディンはそう忌々しげに言う。




