ラディンの場合 11
「クロワッサンです。中にクリームが入っていますよ」
フルータはラディンとの憎まれ口の叩き合いをやめ、テーブルに持ってきた菓子を置いた。焼きたてで、まだ暖かく焼きたてのパンの匂いが鼻腔をくすぐっていく。
「……お嬢様……こちらをどうぞ……」
フルータがそう言って、アディセにハンカチを渡した。アディセは、何でそんなものを渡されたのか? わかっていない感じである。
ラディンは、アディセから目をそらした。レナードはアディセを見て小さく笑った。
フルータは、自分の口元を指差す。
「……口元が汚れています……」
そう言われ、アディセは自分の口元を手で触った。
口の端から、よだれを流していたのだ。
見るに見かねたフルータは、無言でそのよだれを拭き取り、アディセに背中を向けていった。
アディセは顔を真っ赤にしてうつむいてしまったのだ。
「あいつは昔からの友人でな……いつも、落ち着きはらっていて、真顔で嫌味を言ってくる、嫌な野郎なんだ」
気を取り直し、テーブルを囲んだ三人。
「彼はパティシエかな? このクロワッサンは、美味いもんだね」
「パティシエなら、お菓子を出すとき、紅茶を一緒に出すのを忘れないと思うが……」
そう、レナードの言葉に返すラディン。ラディンの言いようは、忌々しげな感じであった。まるで、フルータの料理が褒められるのを、よく思っていないかのようである。
「彼とは仲が悪いのかい?」
レナードがラディンに向けて聞く。ラディンは、その答えに考える。
「そう聞かれると……『ある意味仲がいい』ってのは答えとしては適切かと……」
ラディンは考えてから、そう答える。レナードはそのラディンの言葉に感服をした感じで言う。
「なるほど、納得だね」
「その言い方が合っていると思います……」
アディセも言う。
「まあ、忌々しい話だがな……」
そう言ったラディンは、二人にも分かるくらいに忌々しげな顔をしていた。
レナードとアディセはその様子を見てクスリと笑った。




