17 あの列車にて、いい奴、悪い奴、そして美人な奴
「今度は何の用だ」
『リリネットの部屋に入るのはこれが初めてだな、同じ建物で数日暮らしているというのに。壁には巨大な暗紫色の旗が掛けられていて、真ん中にフクシャ色の花が描かれている……正直、意味がわからない。それ以外にも、ありとあらゆる種類の武器が部屋中に散らばっている……恐ろしいな、ポルスカもこの子が暴れた後の片付けにはさぞ苦労しているだろう』
「必要なものを全部持ってきてくれ。これからタウヌス山地へ、戦闘訓練のために出発する」
「今行くのかよ!? バカ野郎、やっとベッドでくつろげたところなのに、チッ……」
『あの事件——審判隊本部で捕まりかけたあの日——以来、以前ほど攻撃的ではなくなった気がする……多少は俺を信頼し始めているのだろう。とはいえ、あのカルト信者たちについては、まだ判断がつかない……あの連中は本当にシュスターと繋がっていたのか? それとも、あの建物で儀式を行っていたのは単なる偶然だったのか……』
「……準備できた、行くぞ」
『レフレクスヴェレ』
殆ど反射的な発動によって、カノンはリリネットが自分の腹部を狙った非常に速い一撃をかろうじて回避した。
『速くなったな……本当に武術を学んでいるのか、それとも単なる才能を目の当たりにしているだけなのか、まだ判断がつかない……』
「ああ、そういえば、そろそろ彼女が来るはずだ……」
「ハロー、ハロー! 先生~......あたしのこと、寂しかった?」
『右腕にどっしりとした柔らかい重み、そしてリリネットのいつもの怒りとは違う、冷めた視線……ああ、これは絶対に――』
「おはようございます、イリーナ様。太陽の優しい光に照らされたその明るい笑顔を見られて、励まされる思いです」
「きゃー! 朝からナンパしないでよ、この色男~!」
その言葉の犠牲となったカノンは、頬をあまりに強く引っ張られたせいで、一日中まるで赤面しているかのような赤さが残ってしまった。
「カノン様、恐れ入りますが、その大変魅力的な語彙で、再びイリーナ様に誤解を与えるのはお控えいただけますでしょうか」
「……そのような意図は一切ございませんが、失礼を承知でお伺いしますが、ポルスカさんは俺たちを送り届けにいらしたのでしょうか」
「いえ、そうではございません。どうぞご遠慮なく、いくつでもご質問なさってくださいませ……それに、活力に満ちた若い男性を、十代の少女二人と共に単独で行かせるわけには参りませんので」
『つまり俺を監視するために来たわけか……俺がリリネットに興味を持っているという発想だけで、彼女がこれほど激怒するとは……とはいえ、いつかイリーナが結んだあの約束を実行しようとした場合、彼女がここにいてくれるのはありがたい』
「なるほど、それでは、応用戦闘授業へのご参加を歓迎いたします」
「拒否する! これはあたしとカノンの初デートになるはずだったのに!」
『やっぱりか、思った通りだ……ちなみに、リリネットも一緒に来ることを完全に忘れているようだが……』
「わしもそれには反対だ。きさまは支配欲の強いビッチだろ、おまえがいたらこいつをぶん殴れないじゃないか」
「ヴィルヘルミナ様、一つ申し上げてもよろしいでしょうか。この旅の目的は、あなたを強くすることであって、俺が二度と食事を味わえなくなることではありません」
「却下。きさまがわしをベッドから引っ張り出した以上、それなりの代償を払え、しみったれ野郎」
『先程の発言は取り消す。この女は、俺がいる限り絶対に大人しくならない』
「それでは、私はそれで構いません」
「え!? いや……なぜそうなるのですか、ポルスカさん」
「わたくしはお嬢様のご意向に逆らうわけには参りませんが……カノン様に一つ、お願いがございます」
「お願い? それはいったい――」
「おい、ポルスカ、この野郎とやり合うつもりなら覚悟しとけよ。こいつ、そこそこやるからな」
「わたくしの実力を疑っているのですか、お嬢様」
なぜか、公爵家の令嬢は、その問いに向き合うとき、心から悩んでいるような表情を見せた。ポルスカかカノン、どちらが強いのか。
「いや、たぶんおまえで平気だ。まあ、いい」
『リリネットに褒められたことで少し照れてもいいはずなのに――勝手に俺の分まで話を進めるのは本当にやめてくれないか!』
「へえ! せんせーも強いんだ、じゃあ楽しみにしとくよ、あの退屈なメイドをぶっ倒すとこ!」
「ポルスカはヴァッフェで訓練されてたんだぞ、甘く見るなよ、バカイリーナ」
『待て、元ヴァッフェだと? あのリムジンに乗った瞬間からやたらと視線を感じていたのも道理だ……本気で戦うのは絶対に避けたいところだが……とはいえ、勝たなければならないわけでもないだろう』
「……それでは本題ですが、わたくしのお願いは以下の通りです。この親善対決に勝った方が、ヴィルヘルミナ様の唯一の教師として残ります。負けた方は、退任していただきます」
『なるほど、最初からそういう狙いだったのか。俺が何かしたことが彼女の目に留まって、俺を排除したいということらしい……リリネットの頭を撃ったのは、少しやり過ぎだったのかもな……まあ、あの瞬間は初めて飴を味わう子供のように楽しんでいたので、文句を言う筋合いはないが』
「それで公平だな。こんなバカがメイド一人にも勝てないなら、わしに何を教えられるってんだ、はっ!」
『これは普通のメイドどころではない! パージ・ギルド——ヴァッフェの一員として生き延びてきた人物だぞ!』
「心配しなくていいよ、せんせー。リリィがいらないって言うなら、あたしのところで専属になればいいんだから!」
『……これは絶対に勝たなければならない。負ければ、イリーナの奴隷という、もっと大きな危機が待っている』
「それでは、決まりですね。カノン様、あまり本気を出しすぎないようお願いいたします」
「ハハ、なんとご謙虚な。それはこちらの台詞ですよ、ポルスカさん」
そうして、南ドイツ——この世界ではオーストリアも含まれる地域——への旅が始まった……そして三十分足らずで終わった。戦後、音速鉄道がごく一般的になっていたためだ。
「あれはなかなか……ヴィルヘルミナ様!?」
「邪魔だ、吐きそうなんだよ、役立たずの教師!」
カノンは、リリネットに突き飛ばされて階段を駆け下りていく中、あの極めて居心地の悪い客室からどうにか抜け出そうとしていた。頭を階段に打ちつける直撃だけは、とっさに手を下に伸ばし、逆立ちするように体を支えることでかろうじて回避できた。
『危なかった……レフレクスヴェレを二十四時間発動させておかないと、リリネットの寝ぼけ状態にすら殺されかねないな……』
「わー、カノン先生、そのアクロバット凄いね! 後であたしにも教えて!」
「カノン様……もし可能でしたら、そういった見世物は後回しにしていただけますか。私たちは真剣な旅の途中であり、行楽ではございません」
「失礼しました。ちょっと腕を伸ばして、片手垂直腕立て伏せをしたい気分になっただけです、ハハハ」
『「凶犬姫に階段から突き落とされた」なんて絶対に言えないだろ』
どうも、架純です! 今回も『カーディナル・セオリー』を読んでくださってありがとうございます!
お久しぶりです! 実はいろいろとストーリーの続きのアイデアが浮かんでいたんですが、そこまで急いで話を進めていいものか迷ってしまって……一旦立ち止まって、いつ何をするか整理する時間を取ることにしました! これからは少なくとも週に1回、長めの章をお届けできると思います。いつも通り、楽しくて面白い物語になるよう頑張りますので! ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、これからも応援していただけると嬉しいです!




