S級探索者は襲撃者を引き取る
お久しぶりです。一か月ぶりですが、きちんと書けるようになったので投稿を再開したいと思います。
少々詳しいことはあとがきにて記載いたします。
休憩を初めておよそ一時間後。
「え~っと…長らくご迷惑をおかけしました…」
冷静になったみらいが休憩している詩織達へと頭を下げて謝罪していた。
「長かったねー」
「およそ一時間ですね」
詩織がポケットに入れていた懐中時計を取り出し、時間を確認していた。
『それでマスターはうつぶせで倒れているけどなにしてんの』
「…足しびれた…」
『S級探索者でも正座による足の痺れには勝てないのか…』
「むしろ正座なんてまともにしたことないから体験したことないんだが…」
『あー、前に言ってた生い立ちだとそりゃ怒られて正座するとかないか…』
『唐突に重い話いれてくるやん』
「言うほど気にしてないがな」
そう言いつつ軽く腕を振るうとクロウの体が浮き上がった。
「歩けなくなるほど痺れるもんなんだなぁ…」
『それに関しては同意だけどさらっと空を飛ぶな』
『足が痺れると歩くまで時間かかるのはわかるけどな』
『その対処法が全くわからない件に関しては』
『いつもの事だから』
「それで、これからどうするんですか?」
話の区切りがついたとみて詩織が問いかけてくる。その質問の内容は言わずもがな、襲撃してきた少女に関してだ。
「どうしましょうかねぇ…」
困ったようにクロウもつぶやく。本来の手順にそうならば襲撃した人物のダンジョン探索資格をはく奪し、その後探索者協会にて拘留、しかるべき罰を受けてもらうことになるのだが、この子はおそらく探索者としての資格を持っていないどころか、まともにダンジョン外での生活すらしていないだろう。それはかつてのクロウの時と同じ状況であり、あの時と同じで通常とは別の対処法になる。それというのが…。
『クロウ、君が監督者となって保護するように』
『うお!?ギルマス!?』
『本当だ!ギルマスだ!!』
「…やっぱそうなりますよねぇ…」
唐突に現れたギルマスにコメント欄がざわつく。そしてそのコメントによって告げられた言葉に、クロウもため息を吐いた。
「どういうこと?」
「あー…ずいぶん昔…というか、たぶん俺が引き取られた際かな?通常とは異なる状況過ぎて特例として一つのルールができたんだよ」
『ルール?』
『探索者達に対してのルールなんてあるんだ』
「一応な。といっても基本的にそこまでおかしなルールがあるってわけじゃない。原則としてはその国の法律に準ずるものだし、武器の携帯や能力の使用等、そう言った際の制限を追加するくらいだ」
『あー、確かに一般人と探索者じゃ能力に差がありまくるもんね』
『そう言えばごくまれに探索者による犯罪があったりするけど、あれってどうするの?』
「あれはギルドにある対犯罪組織が対処してる。警察でも手に負えないことがほとんどだからな」
「でも、探索者が犯罪行為に及ぶって話めったに聞かないですよね」
「まあ、やるなら同業者だし、ほとんどそう言った欲求や金銭的な物に関しては表で犯罪行為行うよりダンジョン探索に行ったほうが手っ取り早いから…」
『そこまでなん?』
『低ランク帯だとそこまでじゃないと思ってたけど』
「そっちはそっちでいろいろとフォローするための施策をギルマスが作ってるからね。と、そんな話してたら話が逸れたな」
コホンと一つ咳払いしてから話を戻す。
「それで特例のルールだけど、これはダンジョンで暮らしていた…つまり、通常の人間社会に属していない人物を発見した際、S級探索者が監督者になる事でダンジョン外へと連れだすことを許可するってことなんだ」
「それってマスターの時のギルマスみたいなことをいまするってこと?」
シェルフの問いかけにクロウは頷く。
「前提はともかくとして、この子は俺を父親としてくっついてくるからな。ギルマスにも言われたし、現時点で引き取れるのは俺だけだ」
例えそれが何かしらに仕掛けられた罠であったとしても、それをどうにかできるだけの自信はクロウにはあった。
「ま、その前にやることはあるがな…」
今回の一件は何らかの思惑が絡んでいるとクロウは睨んでいる。そしてダンジョン関連でクロウに関わらせようとする思惑を絡ませるとしたらおそらく探究者が背後にいるだろう。
探究者の思惑がどんな物かはわからない。そもそも思考が読めるほど相手の事を知っているわけではないので仕方ないのだが、それゆえに何が起こるか…下手したらこの子を使ってクロウの周囲にいるみらいやシェルフ達にも被害が及ぶかもしれない。十二分な警戒をしておく必要がある。
「とりあえず…どうした物か。一応襲撃事件に関しては一段落ということで俺は帰るが…詩織さん達はどうする?」
「そうですね…さすがに先ほどの戦いで私達もいささか消耗してますし、あの戦いの後だとどうにも緊張感に欠けてしまうと思うので…」
「ああー…確かにこの子に比べたらねぇ…」
そう言ってちらりと少女を見る。
このダンジョンはB級ダンジョンの中でも中堅ほどの難易度だ。決して生易しい難易度というわけではないが、それでもこのダンジョンに出てくる魔物でこの少女以上の強さを持つ魔物はいないだろう。
そんな少女とギリギリの戦いをしていたわけで、その緊張感を感じた先でそれよりも明らかに弱い魔物相手では緊張感を維持するのは厳しいだろう。
「私達もこれからまたあのダンジョンに戻るのも大変だし、今日はここまでにしよっか」
みらい達も一区切りとして今回の配信を終わりにするつもりのようだ。
『そかー、残念だけど仕方ないね』
『そう言えばクロウさん、その子引き取るんだよね?』
「ああ、そのつもりだが」
『だったら名前ぐらいは聞いておかないといけないんじゃない?』
「あー、そういやそうだな」
クロウのローブを掴んで見上げてきている少女と屈むことで目線を合わせる。
「それで、君の名前は?」
「名前…?」
クロウの問いかけにきょとんとした表情で首を傾げる。
「そうそう、他の人になんて呼ばれていた?」
「…?」
追加の問いかけにさらに首を傾げる。
『…これは…』
『もしかして…』
「名前がない…?」
リスナーが察していた言葉をみらいが引き継ぐ。
「まじかぁ…」
「どうするの?マスター」
「どうするって言われてもなぁ…」
「私がしたみたいにクロウが名付けてあげるしかないんじゃない?」
マーサに言われ、考え込むが…。
「そう言った名付けのセンスがないんだがなぁ…」
「そうなの?」
「名付けなんてそうそうするもんじゃないだろ」
『そうか?』
『ゲームとかでよくやらん?』
「ゲームとリアルじゃ違うだろ。それに俺はあまりそう言う名前を付けるゲームってやらないからな…」
『NNつけずにデフォ派かクロウさん』
『でもわかる。なんか変な名前になると愛着湧きにくくなるんよな』
『でも、なんかその子、期待したような目で見ている気がするんですが』
そのコメントを受けてクロウが少女のほうを見るとじーっと何かを待つような目でクロウを見ていた。
「………はぁ…気に入らなかったら言えよ」
ため息交じりにそう言い、改めて名前を考え始める。そこでふと浮かんだのは先ほどの戦い。
周囲に展開された無数の魔法弾。様々な属性によって構築されたそれらはまるで空中に咲き誇る色とりどりの華だった。
「…六華」
『りっか?』
「六つの華。さっきの魔法弾がな、色とりどりの華が咲き乱れるような印象があったからな」
『花?華?』
「後者の方」
『じゃあ六華ちゃんか』
『悪くないんじゃない?』
『そして本人の評価は…!』
ざわりといった雰囲気で全員が少女のほうを見てみると…。
「…?」
コテンと少女は首を傾げていた。
『よくわからないようです』
「まあ、不満じゃないならいいや。これからは六華って呼ぶがいいか?」
コクンと頷く。
「よし、じゃあとりあえず今日はこんなところかな。この子に関しては…まあ、気になるだろうし、今後問題ない範囲でみらいちゃん達を介して報告するよ」
『そこは自分でじゃないんだ』
「表に出たくないです」
『何をいまさら…』
「全部不可抗力なんやぁ…」
「あはは…」
「すいません…こちらの力不足で…」
肩を落としているクロウに対し、みらいは苦笑を浮かべ、詩織は申し訳なさそうに頭を下げていた。
「ま、やると決めたのは俺だから別にいいけどな。必要以上に表に出る気はないのさ。それじゃあ戻るとするか。さすがにみらいちゃん達と一緒の状態だから出口までは一緒についていくよ」
「うん、ありがとう」
その後全員でダンジョンから出て配信を終了する。
「それで、マスターはこれからどこ行くの?」
「ちょっとな。これから行く場所は秘匿されている場所だから連れていくわけにはいかないから」
「そんな場所あるんですか?」
「S級探索者かギルドでも上位の権力者だけが知ってる場所だから知らなくて当然さ」
「その場所にその子連れていくの?」
「そこじゃないとできないことも多いんでね」
そう言うとシェルフがどこか納得したような表情を浮かべていた。おそらく自分がかつてクロウに拾われた際に連れていかれた場所だと察したのだろう。
「んじゃ、またな。もしなんかあったら連絡してくれ」
「わかりました」
「クロウさんまたね」
それぞれに別れを告げてからクロウは六華と共に転移魔法で姿を消した。
国内のとある場所。探索者ギルドによって秘匿されている研究施設。そこに来たクロウは六華に必要な検査を受けさせていた。
「やあ、お疲れ様」
「ん?ギルマスか」
検査の時、六華から離れると彼女が暴れ始めたので、彼女から姿が見える位置でクロウは待機していた。そこにギルマスがやってきて声をかけてきた。
「どうだい?」
「今のところ問題はなし。ただ…」
「ただ?」
「あの子にはいくつかよくわからん時限魔法が仕込まれてる」
「時限魔法?」
「ああ。時間制限か…もしくは何らかの条件が満たされた時に発動するタイプの魔法が仕込まれてる」
「その条件は?」
その問いかけにクロウは首を横に振る。
「調べてみたがわからんかった。いくつか解除できる物があって解除したが…それでもまだいくつか残ってる」
「なんで全部解除しなかったんだい?」
「できなかった奴に関しては面倒なもんでね…解除することであの子に対して厄介な影響を与えるトラップが仕掛けられてた」
「具体的には?」
「記憶消去、人格破壊、魔力爆発。解除できない奴どれか一つでも強引に解除しようとすれば、他の奴も連鎖的に発動して最悪大爆発を起こして彼女が死ぬ。仮に爆発を起こさなかったとしても、あの子は記憶も人格も破壊され、廃人となる」
「…ずいぶんな物が仕込まれているね…。でも、解除できた魔法もあったんだよね?」
「ああ。理性を失わせて一種の暴走状態にして大暴れさせる奴とかな。そこらへんはその解除できない魔法とは連鎖してなくて、難易度は低くはなかったが問題なく解除できたよ」
「………何らかのメッセージかね?」
「さてな。これくらいならできるだろ?って言う挑発のようにも思えたがな」
すでにいくつかの魔法は解除した。しかしそれは確かに並みの魔法使いならば解除は大変だったろうがクロウにとっては児戯に等しいほどの難易度だった。『この程度ならば問題なく解除できるだろう。』とでも言いたげなように。
つまり解除した魔法に関しては解除されたところで何の問題もないということ。本命は解除しきれていない魔法達。それがなにを意味するか。あの魔法を解析できればその目的に近づけるかもしれないが、ちょっと調べただけでも起動しかねないほどデリケートな物が組み込まれていた。
どうあがいても調べられたくないようで、下手に踏み込みすぎると先ほど言った三現象が発生して六華が命を落とす。さすがにそれはまずいので今は様子見をするしかない。
「…相手は探究者かね?」
「だと思う。あの子を使って何らかのメッセージ性のある魔法を仕込んでおくなんてあいつ以外にやる必要はないだろう」
「確かに。他国が絡んでいるような形跡もないし、魔物側として君の存在を知っていてああいうメッセージを仕込んできたわけだからね」
「何が目的なのやら…」
「前の言動から見ると好奇心が強いタイプみたいだけど…何か思い当たる節は?」
「ないね」
はっきりと言い切る。確かにクロウは出自として特殊ではあるが、さしてそこまで興味を惹かれるほどかと言われるとそうではないと思う。出自であれば六華も同じなわけで彼女をこちらへとよこした理由があるはずだ。
「ま、何が目的であろうと対処すればいいだけだ。後手に回ろうと、思い通りにさせるつもりはないさ」
そう言って自信ありげに笑みを浮かべるクロウを見てギルマスもフッと静かに微笑む。
「クロウなら大丈夫だろうが、それでも相手は未知の敵だ。慢心せず、いざとなったら他のS級達の力を借りるように」
「ああ。わかってるよ」
ギルマスの忠告にクロウはしっかりとうなずいた。
改めてお久しぶりでございます。そして一月ほど更新を止めてしまい申し訳ございません。
改めて事情を説明いたしますと、自分は新聞配達のほうをしており、その帰宅中、右折待ちで停止している時に後方から車に追突されるという事故に遭いました。
幸いなことに怪我のほうは利き手である右手の薬指の骨折と左足の打撲程度に収まりましたが、執筆にノーパソを使っているのでいささか難儀しておりまして、勝手ながらお休みさせていただきました。
コメントの方でも、お大事にしてくださいと温かいお言葉をいただき感謝しております。固定具の方も外れ、痛みがありますし、薬指が曲がりにくいなどの弊害もありますが、今のところ問題なく執筆活動にいそしめそうなのでまた週1投稿というのんびり更新となりますが、再開させていただきます。
長らくお待たせいたしまして申し訳ありませんでした。そして待っていてくださってありがとうございます。これからもつたないながらもクロウ達の物語を書いていきますので、よろしければ楽しんでいっていただけると幸いでございます。




