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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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軽薄探索者はニーズヘッグを痺れさせる


速川雷亜


クロウ達と同じS級探索者であり、みらいと同じく探索者ギルド公式の配信者である。

雷属性を扱うのが得意であり、その手に持つ槍と共に閃光と共に魔物達を打ち倒していた。

雷属性を駆使する雷亜の特徴はその速度であり、その速さはクロウの転移よりも早く目的地に到着できるレベル。

そしてその速さは質量となり、雷という貫通力も加わったその一撃はどんな強固な鱗も甲羅も貫き相手を穿ち滅ぼす。

そんな雷亜だが顔がいいのと傑とは違ってスラっとした体躯、そしてその穏やかな笑みから女性人気が高く、女性に優しくしているが故に何度かトラブルに発展していることも有る。それゆえにクロウからは軽薄な男という印象を持たれており、みらい達にも忠告をしていた。

ちなみにそれ以外ではまともであり、まじめでもあるので女性関係以外ではきちんと頼りになる存在だ。

そんな雷亜の顔には今は苦虫を嚙み潰したような表情が浮かんでいる。


「わかっていたこととはいえ、本当にタフですね…」


そんなため息交じりにぼやく雷亜の視線の先には傷だらけの体をしながらも唸って雷亜を睨みつけているニーズヘッグの姿があった。


「おのれ…!」


強固な鱗に強靭で巨大な肉体を持つドラゴン。それゆえのタフさを持つニーズヘッグはその見た目はボロボロになっているが、それでもまだ十分戦えるほどの余力は残っていた。

憎悪がこもった目で雷亜を睨みつけるが、雷亜はそれを振りほどくかのように槍を振り払い、再度自らの体に雷を纏わせる。

その状態に即座に反応したニーズヘッグが黒い炎、獄炎をブレスとして放つが、その炎が雷亜を飲み込むよりも早く雷が迸り雷亜の姿が消失する。

そして次の瞬間には…。


ドゴォォォォォン!


すさまじい轟音と共にニーズヘッグへと特大の雷が叩き込まれ、その電気がニーズヘッグの体をはい回ると共にどんどん切り傷が増えていく。


「…これでも死なないんですから本当にタフですね…そろそろ飽きてきたのですが」


配信をしている間であれば、配信者である雷亜は取れ高などを気にすることはあるが、今回は配信外であるがゆえに手加減なども一切不要。それゆえに最初からしっかりと叩き潰そうと戦い始めたのだが、いかんせんN級魔物であるニーズヘッグの生命力は群を抜いていた。それゆえにどうしても時間がかかってしまう。だからこそ…


「?あれは…」


他とは違い、まだ戦える余力が残っているニーズヘッグへとダンジョンコアが降り立った。

突然出現したダンジョンコア、それがなにを意味するか雷亜はわからなかった。しかし、探索者として築き上げていた経験が、直感が、あれは危険だと告げていた。

その直感に従い、即座に雷亜は動く。自らの体に再度雷を纏わせ、地を蹴るが、それよりも早くニーズヘッグがダンジョンコアを食らった。


「吐き出して…くださいね!」


その言葉と共に特大の雷をニーズヘッグの頭にたたきこむが、その一撃を受けてもニーズヘッグは口を開くことはなく、そのままダンジョンコアを飲み込んだ。


「一手遅かったですか」


そう言いつつ何が起こっても大丈夫なように距離を置く。そんな中、雷亜の方へと配信用のドローンが飛んできた。


『いました!雷亜様よ!』

『ご無事ですか!』

『同時五窓視聴のワイ。ここだけ雰囲気違ってて場違い感を感じる』

『奇遇だな。俺もだ』

『でも、これがここのチャンネルのデフォなんで』

『えぇ…(困惑)』


五人同時配信であり、自分の配信チャンネルを持っている雷亜は、そこから配信が始まったのでいつも来ている雷亜のファンも当然きており、そこに今回の一件で初めて来たリスナーたちも来たのだが、その独特なコメントの雰囲気に困惑していた。


「やあ、よく来たね。いつもなら少し雑談をしているところなんだが、ごめんね。今は戦闘中だからコメント返信が遅れてしまうかもしれないんだ」

『大丈夫ですよ雷亜様!』

『ええ、状況はあらかたわかっています!なのでこちらの事は気にせずそのトカゲをいつものように華麗に倒してくださりませ!』

『ちなみに今どんな状況?』

『他のところにもダンジョンコア出てたし、こっちにも来た感じ?』

「うん、それで止めようとしたけどこの巨体だからね、一歩遅く飲まれちゃったよ」

『つまり今は変化待ちってところか』

「そんなところだね」


コメントの一部にそう答えながらニーズヘッグの様子を見る。

目に見えた変化は今のところはない。しかし、内部にある魔力の量はどんどん増大している。

そしてその姿にわずかだが変化が出始めた。ニーズヘッグにつけた傷の周囲がわずかに光始める。そしてどんどん傷がふさがっていった。


『傷が癒えてね?』

『ほんとだ。あの光は…魔力か?』

『雷亜様相手にまだあがくなんて!』

『どこまで生意気なトカゲなの!!』

『先生、シリアス君がサボりがちです(´・ω・`)』

『たぶんここだとそれが普通だから放っておきなさい』


一部コメントの流れに乗り切れないリスナーがいるが、そこらへんもご愛嬌と雷亜は気にしないでおく。

その間にも先ほどまで与えていた傷がすべて癒え、今度はその身が徐々に膨張していく。


『なんかでかくなってね?』

『ほんとだ。どんどん全体が大きく…いや、もともと巨大だったのにどれだけでかくなるんだよ』

「…なるほど。これがニーズヘッグの強化というわけだね。いやはやこれはなかなかに厄介だね」


苦笑交じりのその言葉の通り、視線の先にはダンジョンコアによっておよそ倍のサイズとなっている。阿修羅やフェニックスのように何かが変わったような様子はないが、それでも単純に質量が上がった故にそのタフさも飛躍的に上昇しているはずだ。


「さて…どこまでできるかなー?」


そう言いながら槍を構えなおすとニーズヘッグの口の端に黒い炎がちらつく。直後に大口を上げて巨大な黒の炎が壁のような大きさで雷亜へと襲い掛かった。


「っ!」


即座にその場で上へと跳んで飛び越えるように炎を回避する。しかし、その直後に炎が揺らめき形を変える。


「これは…」


形を変えた炎は蛇のようにしなりながら雷亜へと迫ってくる。


「炎の性質が変化したのか?まるで意思を持ってるかのような動きだね」


眼前に広がる黒い炎から無数の炎の蛇が飛び出し襲い掛かってくる。迫りくる蛇の首を槍で切り払って落としていくが、それでもその切断面から新たな頭が生えてそのまま噛みつこうとしてくる。

槍という大ぶりになってしまう武器だが、そこは雷亜の技術によりすさまじい速度で槍先が動き、無数の蛇を切り裂いていく。しかし、横に切り裂いて落としても蛇は消えず、縦に切り裂けば二つに分裂し、切り落としたはずの頭も浮き上がって雷亜を囲みだす。


「これは…さすがに手数が足りないかな」


クロウのように無数の魔法陣を展開できたり、流華や遥のように細かな氷の破片や速射などの弾幕を放つことができれば対処はできたであろうが、雷亜は傑と同じ一撃高火力型タイプ。細かく数の多い攻撃というのはできずにいる。電気の属性を活かして連鎖的に感電させるといった事はできるが、相手は炎であるのでそれもできずにいる。


『これ大丈夫か?どんどん炎が増えているが…』

『切り払おうにも切って消えるわけでも無いから数が全く減らねぇ』

『しかもニーズヘッグが炎を吐き続けてるから炎自体もどんどん増えてやがる』

『雷亜様負けないで!!』

『そんな炎、いつもみたいにバーン!って吹き飛ばしちゃってよ!』


冷静に分析するリスナーもいれば野次のような応援をするリスナーもおり、そんなコメントが流れている間も雷亜は空中を移動しながら迫ってくる炎の蛇を切り払い続けている。

しかし、そんな雷亜の下の地面ではニーズヘッグから吐き出されている獄炎が少しずつ広がっていた。


「…これはさすがにまずいかな?」


無数に襲い掛かってくる炎の蛇、そして空中にいる雷亜の下に広がっている獄炎。それらが同時に襲い掛かってきたらさすがに対処できない。


「仕方ないですね。あれを使いますか」


その言葉と共に雷亜は足を止める。その隙を見逃さずに無数の炎の蛇が襲い掛かる。そして地面に広がる獄炎が盛り上がり巨大な龍の頭となって雷亜へと大口を開けて飛び出してきた。

無数の炎の蛇と共に雷亜が巨大な龍の頭に飲み込まれる。


『雷亜さん!?』


その光景に一瞬で阿鼻叫喚になるコメント欄。しかしその直後。


ドゴォォォォォォォン!!


龍の頭に青白い雷光が叩き込まれ、一気にすべての炎が霧散した。そしてその雷光が収まるとそこには青白い雷を帯電させている雷亜の姿があった。


『キャー!!!雷亜様の紫電モードよ!!』

『普段の紳士な雷亜様も好きだけど、紫電モードの荒々しい雷亜様も素敵よねー!』

『待って、紫電モードってなに!?』

『なんかずいぶん帯電してる感じだけど…』

『説明しよう!紫電モードとは!』

『雷亜様が持つ雷属性の魔力、それを体内で高速回転することによって更なる高圧化を発生させ、雷自体を更なる高威力の紫電の物へと変貌させる技!』

『その紫電を放ち、身に纏うことでその速度も威力も数倍…いや、数十倍にまで跳ね上げる!通称雷亜様の本気モードなのですわ!』

『お…おう…説明ありがとう』


すさまじいコンビネーションで説明してくれる雷亜リスナーに気圧されつつも説明はしっかりと聞いて礼を言う。

そして雷亜はというと自らの体の調子を確認するように軽く槍を振るうと、口角を上げて一歩踏み出した。その直後に姿が消え、ニーズヘッグの頭上へと出現した。


「はあぁ!!」


ドゴォン!と槍と共に雷がニーズヘッグの頭に叩き込まれ、その衝撃で頭が地面へと叩きつけられ、反動でわずかに跳ねる。それによってうまれた地面と頭の隙間に即座に入り込み蹴り上げる。その蹴りによって体もわずかに浮き上がり、腹部が隙だらけとなった。背中や腕のように鱗がびっしりと張り付けられているわけではない腹部は防御力が他より低い。それをニーズヘッグもわかっているからこそ、地に腹を伏せることで攻撃を受けないようにしていたのだが、浮き上がらせることで弱点を露出させた。

そこに入り込んで腹部へと槍を突き刺し内部へと紫電を流し込む。流し込まれた紫電が血液を通って通電し、肉や内臓をくまなく焼いていく。


「ガアアアアアアアアアアア!!」


普段のニーズヘッグであれば、ここで決着がついていただろう。しかし…


『うっそだろおい』

『ダメージを受けた端から回復してねぇかあれ』

『どんな再生速度だよ!!』


感電によって発生する傷やダメージが紫電が通った後に癒えていく。そしてそこを新たな紫電が通りダメージを与えるが、その直後にさらに回復するという堂々巡りをしている。


「…なるほど、あのコアは魔力強化だけでなく、再生能力を飛躍的に上げたんだね。このままじゃジリ貧になりそうだ。それなら…」


槍を持ち上げるとそれに伴ってニーズヘッグの体も持ち上がっていく。


『あのでかいのを一人で持ち上げるとかどんな力だよ!?』

『いや、力もすごいけどあの槍よく耐えれるな!?』

『さすがS級が使っている武器というところか…』


「はああぁ!!」


ブンッ!と思いっきり槍を振るって突き刺していたニーズヘッグをぶん投げる。


『投げたあああああああ!?』

『きゃあああああああ!雷亜様あああああああああ!!』


「さあ、君の回復速度(はやさ)と僕の攻撃速度(はやさ)、どちらが上か勝負と行こうか!」


その言葉と共に雷亜の姿が消え、ニーズヘッグの周囲を紫電が走り始める。

迸る紫電が糸のように残り伸びていく、通過するたびにどんどんニーズヘッグの体を傷つけていく。そして通過する際に残る紫電がどんどん伸びていき、残像として残る紫電がまるで繭のようにニーズヘッグを包み込んでいく。そして繭によってニーズヘッグが見えなくなると雷亜が少し離れた位置へと現れた。


「『紫電轟雷撃』!!」


言葉と共に投げられた槍が紫電の繭に触れた瞬間、すべてが槍に集まり、ボロボロになったニーズヘッグにそのまま突き刺さる。そして…


ドゴォォォォォォォン!!


集まった紫電が解き放たれ、轟音と共にニーズヘッグを巨大な紫電の柱で飲み込んだ。

そして紫電が収まるとそこにはニーズヘッグが跡形もなく消滅していた。


「…ふぅ…やはりタフな相手は面倒ですね」


そう言って先ほどまでの獰猛な笑みが消え、さわやかな笑みを浮かべた雷亜に再度リスナーの一部から黄色い悲鳴が上がったのであった。


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