小悪魔探索者はタマモと撃ち合う
弓親遥
クロウ達S級探索者の最後の一人で弓を主に扱う遠距離が主体の戦法であり、その射程の広さと連射速度の速さによって敵を圧倒していく。その射程と精密性は千キロ先のコインを撃ち抜くほどだ。そして連射速度は毎秒五百発前後放つことができ、これはミニガンのおよそ五倍の連射速度だ。
超遠距離からの精密射撃、中距離のすさまじい量の矢の弾幕。それらによって相手を圧倒的に制圧する。それが遥という探索者の戦い方だ。
ちなみにクロウとしては同じS級の中では流華と同等くらいに信用できる存在であり、からかうことが好きな事を除けば大抵の事は真面目にやってくれるので重宝している。
しかし、推しであるみらいと同じく遥も配信者であるがゆえに、そっちの方を優先させて調査などの雑務などはクロウが担当している。今回に関しては例外だが。
そんな遥がクロウのところから戻ってきて改めて弓を構えなおす。その視線の先には先ほどまでボロボロの満身創痍の状態だったというのに、今ではその傷が癒え、九本だった尻尾が新たに三本増えて十二本となっていた。
「やれやれ…離れていたとはいえこうもあっさり取り込まれるとはね」
「油断しはりましたなぁ?うちも馴染むのに時間がかかりそうやけど、それでもあんさんのお相手には十分やろう」
その言葉と共に十二の狐の尾の先から狐火が灯される。その狐火は徐々に大きくなると尾の先から離れ、大きな十二の火球となって宙に浮かび上がる。
「さあ、舞い踊れ!」
タマモの言葉と共に火球から無数の狐火が飛び出し、不規則な軌道で周囲に広がっていく。
その狐火を視界に納め、遥は弓をひく。形成された魔力の矢が放たれ、狐火の一つに当たり消し飛ばす。その様子を見て遥は口元に笑みを浮かべた。
「私と撃ち合い?いいよ、相手になってあげる」
余裕のある笑みを浮かべながら弓をひく。しかし今度はそこに矢は出現しなかった。そんな状態で弦から指を話すと狐火の一つが消し飛ぶ。
『不可視の矢』
遥が扱う魔術の一つであり、弦を引くだけで無色透明の矢を放つことができる。
その矢はしっかりと弦を弾ききらなくても音速を超える速度で放たれるので、遥はハープを奏でるように弦をはじくと無数の不可視の矢が放たれ、次々に狐火を撃ち消していく。
『いまきた』
『お、すでに始まってる』
『相手尻尾の数増えてね?』
『モフモフ度が上がってるー!』
『それよりすごい弾幕合戦じゃねぇか』
『遥さんはいつも通りとして、相手も結構な量の火の玉出してきてるね』
みらいが展開したドローンがこちらにも来て配信を開始する。
「おっと、皆来たね。でも、ごめんねーもう戦い始まっちゃってるからあまり反応できないんだ」
『ええんやで』
『他のところもそうだからね』
『ダンジョンコアを取り込んで強くなったみたいだからね。他も結構激戦よ』
「やっぱ強くなっているんだねー。傑君と流華ちゃん、暴走しないといいけど」
『愉しそうに戦ってはいるよ』
『それはいいこと…なのか?』
『ま、まあ悪いことではないと思うから…』
「まあ負けることはないと思うから大丈夫だとは思うけどねー」
そうリスナーに答えながら矢を放っていく。撃ち漏らしはない。しかし、こちらの矢も届いていない。お互いにその攻撃によって相殺し合っていて今は拮抗状態となっている。
今のままだと決定打に欠ける。かといえ、相殺できない威力の矢を放とうとすると連射速度が少し落ちる。それによって相殺しきれなくなる可能性もあるのでそれもできない。はてさてどうしたのもか…。と悩んでいると。
「ずいぶん余裕そうですなぁ~」
その言葉と共に遥の背後に炎が立ち上り、そこからタマモが姿を現した。
「ウチは接近戦も得意なんや…で!」
その言葉と共にタマモが着物をはためかせて回し蹴りを放ってくる。それを後方へと跳んで回避すると今度は背後の狐の尻尾が伸びて遥へと襲い掛かってきた。
尻尾を後方へと跳んで回避していくが十二本の尻尾が順番に襲い掛かってくる。
それらを余裕をもって回避していく。しかし、その先では…
「…囲まれちゃったかな」
周囲に無数の狐火がある場所。攻撃を避けていくうちにここに誘い込まれたようだった。
「さあ、これでは撃ち消しきれへんやろ?」
不敵な笑みを浮かべ、指で遥を示し、スッと指を下ろすと一斉に囲んだ狐火が遥へと襲い掛かった。
無数の狐火が集まり巨大な火柱となって立ちのぼる。
『遥さん!?』
『やばい!直撃した!?』
その光景に一部のリスナーが慌てだす。しかし…
『大丈夫』
『この程度、遥さんなら問題ないよ』
おそらくもともと遥のリスナーであった人たちは一切慌てることもなく、おそらく初見か新参のリスナーたちをなだめる。
そして次の瞬間には。
「よいしょっと」
タマモの背後で弓を弾いている遥の姿がドローンに映し出された。
狐火に囲まれた直後に頭上の狐火をいくつか消して退路を作り出し、そこを高速で移動してタマモの背後に回り込んだのだ。
「なっ!?」
驚くタマモが距離を取りつつ振り返り、同時に尻尾の2本を伸ばして左右から襲い掛かる。しかし、遥が弦から指を離した瞬間、伸びてきた尻尾が両方根元に穴が開き、形状を維持できなくなって双方ともに消えた。
「遅いよ」
そして次のアクションをタマモが起こす前に懐へと入り込んでタマモを蹴り飛ばす。そしてその勢いで体を回転させつつ弓を弾いて大勢を立て直す前に矢を放つ。
即座に追撃の衝撃がタマモの腹部に叩き込まれる。その回数は三。三発の不可視の矢が叩き込まれ、更に後方へと吹き飛ばす。
「む。貫けなかった」
『何発入れたの?』
「三発―」
『やっぱN級な上に強化されたから頑丈なんだな』
『三発で貫けなかったのって何がいたっけ?』
『あれよあれ。S級のミスリルシェルタートルの特異種』
『あー、なんか甲羅が変質してさらに強固になってたやつか。あれ結局顔の方から叩き込んで倒してたから結局あの甲羅貫けなかったんよね』
「だねー。でもいい防具の素材にはなったみたいよ。私は使ってないけど」
どこまでも余裕のある様子で遥がリスナーと会話を進めていく。
油断しているというわけでも無く、遥の戦い方の特徴から雷亜のようにその場からよく動くという戦い方でないのと、視野が広いことから応戦の合間にならばコメントを返すことができるのだ。
しかし、その間も遥の頭の中では戦略が組み上げられている。
先ほどの三発の矢はお試しではあるが、あの一撃でどれだけのダメージが入るかの確認だった。強化前であればあれで貫けたであろうが、今回は貫けなかった。それだけの強化がされているということだろう。
「んー…さすがに五本以上はあの威力では撃てないからなー。仕方ない。解除しよっか」
『お、解除するの?』
『いつ以来だ』
『もう覚えてないや…』
再度迫ってきた狐火を撃ち消しつつ呟いた遥の言葉にコメント欄がにわかにざわつく。
『解除するって何を?』
『遥さんが撃つ矢って今見えないじゃん?あれ『不可視の矢』っていう魔術が発動してるんだよ』
『そうそう。で、遥さんの矢って魔力を編み上げて作り上げてるんだよね。だから基本的に形は自由自在なんだけど、不可視の矢を発動させている間はその形が制限されちゃうんだ』
「そうそうー。あまり大きかったり長かったりすると魔術が上手くかからないんだよね」
『へー』
『でも、なんでわざわざそんなことを?』
「上位の魔物になると音速超えた速度で放っても見えてる矢は普通に避けるからねぇ…見えない奴でも避ける魔物はいるけど、回避されにくくなるからねぇ」
獣型などは風の動きで矢の位置を把握して回避するが、それでも視認できない状態だとその回避の成功率は下がる。だから基本的に探索するときは不可視の矢で回避されない攻撃を展開しているのだが、今回はどちらかというと威力のほうが欲しいのでその状態を解除する。
「じゃ、まずはあの邪魔な狐火、消そうか」
そう言って狙いを定めたのは無数の狐火を生み出している十二の巨大な狐火。放置していても問題はそこまでないが、それでも邪魔な事には変わりはない。
左手で弓を構え、右手を掲げるとそこに魔力が収束していく。そして遥の腕と同等くらいの巨大な矢が即座に生成された。
『こいつを見てくれ、どう思う?』
『すごく…大きいです…』
「変なこと言ってる子は撃ち抜くよー」
『やめてください消滅します(´・ω・`)』
『文字通り消滅するんだろうなぁ…』
そんなバカな会話をコメントとしている間に矢をつがえ、弓をひく。
ギリギリと弓から音が鳴るが気にせずそのまま引っ張り…。
「フッ」
短く息を吐くと共に矢を放つ。
放たれた矢は空気を切り裂き、周囲の狐火を撃ち消しながら巨大な狐火へと迫り、そのまま貫いて消し飛ばす。そして矢はそのまま通過して洞窟の天井に風穴を開けた。
『相変わらずすっごい威力…』
「少し力籠めすぎちゃったかな?まあ、いいかサクサク行くよー」
そう言って新たに同じサイズの矢を作り出し、再度巨大な狐火へと狙いを定める。
「させへんで!」
そう言ってダメージが回復したタマモが遥へと尻尾を伸ばして攻撃してくるが、それを弓をひきながら回避していく。横に跳び、後ろに跳び、ジャンプして空中へと逃げ、ほんのわずかな攻撃の間隔を縫うように矢を放つ。そして即座に次の矢を作り出して構える。その間にもタマモの二本減った十本の尻尾で遥へと攻撃を繰り広げていく。
しかし、それもすさまじい身のこなしで掠ることなくすべての攻撃を回避し、その合間で巨大な狐火を撃ち消していく。
そして最後の一つの狐火を撃ち消すと共に、大きくタマモから距離を取って仕切り直しをする。
「よし!これで邪魔はされなくなったね」
『お疲れー』
『あとはあのタマモを倒すだけやね』
『行けそう?』
「問題なーし」
そう言って普通サイズの矢を生み出し、弓につがえた。
「じゃ、仕上げに向かうとしようか」
「くっ…!?この…!」
尻尾を伸ばし、そこに狐火を灯して新たに生み出そうとするが…。
「さすがにそれはさせないよ」
その言葉と共に矢を同時に放ち尻尾の先がはじけ飛ばした。
「くぅ…!」
顔をゆがめたタマモがわずかに短くなった尻尾の先を遥へと向けて攻撃を仕掛けた。
遥は少し太めの矢を生み出し、回避しながら弓につがえ、尻尾へと狙いをつける。先ほどは根元を刈り取ることで尻尾を消すことができたが、今回は真っ向から迎え撃つ。しっかり狙いをつけて放たれた矢は尻尾を切り裂き、そのままタマモへと迫る。
尻尾を貫いてきた矢に驚きつつも、ぎりぎりのところで回避した矢はタマモの頬をかすめる。
そのまま追撃し続けてどんどんタマモの尻尾を消し飛ばしていく。そして残りの尻尾の数が三本となった。
「そろそろ大丈夫かな?」
『モフモフがぁ…消えていく…』
『仕方ないことなんや…』
「あはは…さて、それじゃあそろそろ決着つけちゃおうか」
そう言って矢をタマモへと放つ。
まっすぐ飛んでくる矢を叩き落し、タマモは遥を迎え撃とうとするが、その隙に遥はタマモの背後へと回り込んでいた。
「よいしょっと」
軽い掛け声と共に足払いをして、タマモの姿勢を崩して腹部に拳を叩き込んで地面へと叩きつける。
「カハァ…!」
腹部を殴られ、背中から叩きつけられた衝撃で動きが止まる。その瞬間跳躍し、タマモの上を取ると四本の矢を生成する。その矢はドリルのような螺旋の溝が彫られた特殊な形であり、その矢を指の間に挟んで四本同時につがえて即座に放つ。
放たれた矢はそれぞれ独自の軌道を描いてタマモの四肢を貫き、そのまま地面へと突き刺さる。
「う…!動けへん…!?」
矢が突き刺さることで固定されたタマモに向けさらに新たなる矢を生み出す。それは遥の体と同じくらいの長さの矢でその矢をつがえて遥は体全体を使って弓をひく。
「あんまこの引き方は好きじゃないんだけど、こうでもしないとできないんで、許してね」
弓の部分を足の下に置き、矢を両手で持ってそのまま体を伸ばすように弓をひく。
「それじゃあ止めの…一発!!」
その言葉と共に放たれた矢がタマモの胴体へと突き刺さり、凝縮された矢の魔力が爆発してタマモを飲み込んだ。
「勝利!」
爆発によってできたクレーターを背に遥は満面の笑みでVサインをドローンへと向けるのであった。




