S級探索者は対策アイテムを作成する
「ん…んぅ~~~~……はぁ……」
いくつか対シャドウ用のブレスレットを作り終えたところで体を伸ばして一息つく。
まだすべてを作り終えたわけではないがそれでも半分ほどは作り終えている。
「この様子なら一つか二つくらい純粋なオリハルコン製でできるかなぁ…」
そう言いつつ出来上がった物と材料の在庫を見比べる。
完成したブレスレットはおよそ半分。そしてオリハルコンの減りはおよそ三分の一。ミスリルに関しては、オリハルコンを集めていた時に大量に手に入ったのでこちらも問題ない。
現時点での材料の減り具合を見るからに、おそらく一つか二つくらいは作れるだろう。
「あー…でも、集中切れたなぁ…」
作業を開始して数時間が経過し、そろそろ日も変わりそうな時間帯。ずっと座って細かい作業をしていたので肩が少し硬くなっていたので軽く回しているとノックの音が聞こえた。
「ん?どうぞー」
「入るよ。調子はどうだい?」
そう言って魔力で器用に扉を開けたマーサが入ってきた。その背にはルディが乗っており、丸くなって眠っている。
「んー…とりあえず折り返しってところかな?さすがにオリハルコンの加工は疲れた…」
「だろうね。それなら今日はそこまでにしておいたら?根を詰めて荒い作りになっても困るだろ?」
「あー…そうだな…。そう言えばシェルフの奴帰ってきてたのかな?」
「さあ?こっちにいると表の方がどうなっているかわからないからね。というか、時間の方は大丈夫なのかい?ここって異空間だろ?」
「ああ、そこらへんは問題ないようにしてある。と言っても基本的には入ってきた世界と同じ時間の流れになるってだけなんだが」
「そうなのかい?変更はできるのかい?」
「頻繁にはできないがねー。今のところそこまで広くないからやろうと思えばできなくもない。ただ、下手にやると戻った時の影響がどうなるかわからんからなぁ…」
時間の流れというのは感じないがそれでも大きなものであり、違う時間帯の方へと移動すると体に対して大きな負荷になったりする。
わかりやすい例となると『浦島太郎』だろう。
亀を助けてその礼として竜宮城へと連れていかれた浦島太郎。そこで宴を開いてもらい、もてなされ、満喫した浦島太郎は帰ろうとした。
その浦島太郎へと乙姫は玉手箱を渡し、決して開けてはいけないと注意を促した。
しかし、その注意を無視して開けると、中から煙が出てきて老人になってしまったというお話だ。
あれはおとぎ話ということでフィクションだったり、大げさに書かれているだけだと思われている。
しかし、ダンジョンなどが出現し、魔法などができてからもしかしたらおとぎ話になっているものはかつて発生したダンジョンのお話なのではないかという説もあったりする。まあ、大半があくまで推測からの与太話ではあるのだが。
そしてあの玉手箱は魔道具であり、時間の流れが違う竜宮城は今でいうダンジョンだったのではないか?そして時間の流れが違う場所へと訪れた浦島太郎をその違う時間の流れの負荷から守るために渡されたのが『玉手箱』という魔道具だったのではないか。というのが一つの説としてあがっている。
ま、これに関しても俗説の一つであり、その竜宮城があった痕跡も、玉手箱という魔道具も見つかっていないうえに、少し前に現れた以外ダンジョンらしきものが発見されていないので、一度現れたダンジョンがなぜ消えたのか。などの疑問があるので与太話であるとも言えている。
それでも、時間の流れが違う場所に行くと負荷がかかるのは事実なのだが。
「それもそうだね。それで、時間の流れが同じならそろそろ日付が変わるころだろ?あんま無理せずにそろそろ寝たほうがいいんじゃないかい?」
「そうだなぁ。戻って寝るかぁ」
椅子から立ち上がって体を伸ばしてからマーサと共に異空間に作り上げた拠点から出た。
「あれ?マスターどこ行ってたの」
異空間に接続できる円盤を空間収納へと納めると、ちょうど二階から降りてきたシェルフがクロウたちに気が付いた。
「ちょっとな。それよりまだ起きてたのか?」
「これから寝るところーその前に麦茶飲みたくてね。ところでルディ知らない?見かけないんだけど」
「ああ。ルディならほらそこ」
そう言ってマーサの背を示す。
「あ、マーサさんと一緒にいたんだ。……そう言えばマーサさんも見かけなかったけどどこ行ってたの?」
ついでにクロウも飲みたかったから複数コップを取り出し、冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップへと注ぐ。
「クロウと一緒にちょっとね」
「ふぅん…。まあ何か隠してるっぽいけど特に私が知らなくてもいいことなんだよね?」
「どっちでもいいけど、まだ作成中だからって感じかな」
「ふぅん…。まあ、教えてくれる時にまた教えてくれればいいや」
そう言って麦茶を飲み終えたシェルフはコップを軽く洗ってから水切り籠に置く。
「それじゃあ私は寝るねー。明日は雑談配信の予定だから、私はゆっくりしてるよー」
「あいよー」
ひらひらと手を振ってシェルフは二階へあがっていった。
「さて、俺も寝るかぁ」
「明日もあっちにいって作業かい?」
「だと思う。一応一つ余分に作ってテストもしたいからそれもやらなきゃ…」
「そのテスト用の闇はあるのかい?」
「ああ。きちんと時間停止の付与をしてる箱に封じてあるから当分は問題ない。打ち消す方法も探ってはいるが、まずは対策の方を優先しなきゃだもんでな」
「そうだね。まあ、あまり根を詰めすぎないようにね。それじゃあ私も寝るよ」
「ああ、おやすみ」
ルディを乗せたマーサと別れ、クロウも部屋へと戻る。
(今のところ精霊たちの動きはないが、シャドウと接触した以上、向こうもそのままってことにはならないだろう。できる限り急いで対策アイテム作らないとな…)
そんなことを考えつつ、クロウはベッドへと入って眠りについた。
翌日。
シェルフはみらいのところへと行っており、マーサとルディと共に異空間にある作業部屋へと来ていた。
「そういえば…」
ふと思い出したかのようにマーサがつぶやく。
「シェルフがみらいさんのところにいく転移魔法陣みたいなの欲しいって言ってたわよ」
「なんでまた」
「クロウが忙しい時にわざわざ移動の手間を取らせるのも悪いからってさ。今日だって転移で送ってあげたでしょ?」
「ああ。まあ、それくらいなら時間もかからんし」
「その手間を省くためってのもあるし、転移魔法陣があれば行き来が楽になるからほしいって言ってたわよ」
「そうはいってもなぁ…」
マーサの言葉に難色を示すクロウ。
「難しいのかい?」
「いや、設置自体は簡単だし、扱うのだって簡単なんだが…ん~……」
簡単だという割に乗り気でない様子のクロウ。
「…使用できる人を限定すればセキュリティ問題はいいとして…んー…でも、推しの家と気軽に行き来できるのはなぁ…」
「アンタにとっては推しでも、シェルフにとっては一緒に探索する仲間でしょ。気軽に行き来できる方がいろいろと相談しやすいんじゃないの?」
「そうなんよなぁ………はぁ…仕方ないか。わかった。用意しておくよ」
「簡単にできるのかい?」
「ああ。使ってないラグがあるし、そこに魔法陣刻んで動かないように固定すればできるからそこまで時間かからない」
「そう。じゃああとでシェルフに連絡を…しようと思ったけど私は無理ね。いいわ、リルなら念話で繋がれるからそっちで話しておくよ」
「あいよー。んじゃあこっちのやること終わったらやるから、今日明日で準備しておくよ」
「わかったわ、そう伝えておくわね」
「よろしくー」
軽く尻尾を振ってからマーサは作業部屋を出ていった。
「さて、んじゃあ作業すすめますか」
腕まくりをし、ブレスレット作成を再開した。
数時間後
「とりあえずこんなもんかなぁ…」
内部のミスリルに防御用の魔法陣を刻み込み、それを侵食防止のオリハルコンで塗装した。
それなりの厚さにしたのでオリハルコンが侵食されたとしても内部のミスリルに到達するのにだいぶ時間もかかるだろう。
「どれくらいかかるかは一度テストしてからだな」
そう言って空間収納から四角い箱を一つ取り出した。
それを見える位置に置いて、机の上に少し特殊な魔法陣を展開する。
周囲に影響させないように魔法陣が発動すると隔離できる効果、そして時間を加速させる効果。二つの効果を持つ魔法陣を展開する。そこに先ほど制作した対シャドウ用のブレスレットを置き、鑑定魔法を展開してブレスレットの状態を確認できるようにしておく。そして先ほど出した四角い箱を手に取る。
蓋を開け、中から取り出したのは一つの小さな魔水晶。その中には黒い渦のような魔力…闇の魔力が漂っている。
その魔水晶を魔法陣の上…ブレスレットの隣に置くと魔法陣へと魔力を流し込んで発動させる。
魔法陣によって魔法陣内部の一定範囲が完全隔離され、その内部の時間が加速される。
すると魔水晶の中に入っている闇の魔力が徐々に魔水晶自体を侵食していき、バキンッ!という音と共に魔水晶にヒビが入った。
するとそこから一気に闇が噴き出し、隔離した空間の内部に広がった。
「とりあえずこれでどれくらいで腕輪が変質するかだなぁ…」
そう言いつつ先ほど出しておいた鑑定魔法をじっと見据える。
内部は通常より十倍の速度で時間が流れるように設定してある。魔法陣は先ほど発動と同時に消失し、クロウが魔力を流し込む間は常時発動している状態となっている。
この状態は一度発動すれば魔力が切れない限り常に発動している状態であり、他から干渉されることはない。それは発動したクロウでさえ例外ではなく、一度発動した後に追加の魔法陣を加えたり、調整したりといった事ができない少し特殊な魔法陣となる。故に闇の魔力に浸食されることもない。
「さて…様子を見ながら頼まれてた転移魔法陣でも作るかぁ…」
視界の端でブレスレットの変化を確認しながら空間収納から二つラグを取り出す。
「サイズは…とりあえずエレベーターくらいあればいいか」
個人宅間をつなぐだけなのでそこまでの広さは必要ない。転移するとしてもこちらからはシェルフやマーサくらいだろうし、向こうからはみらいとみらいの母親、リル、エメル、そして向こうで家政婦として働いているライラくらいだろう。
「向こうに置くための空き部屋あるかなぁ…。まあ、そこらへんは向こうに考えてもらうとして、こっちは……そういや物置にしてる部屋があったな。あそこ掃除してあそこに置くか」
そう考えながら魔法陣を展開し、ラグに刻んでいく。
表面には転移魔法の魔法陣を、裏面には座標固定の魔法陣を刻み込む。それをもう一つ作り上げ、転移魔法陣同士をリンクさせる。これによってお互いの魔法陣に魔力を流すことで転移することができる。
裏側の座標固定はON/OFF系の魔法陣であり、一度ONにすればそのまま常に発動し続ける。そしてOFFにするにはONにした人物かもしくは許可した人物にのみできる物で発動している間は魔法陣が刻まれたラグが動かなくなる。
「…うし、こんなもんかな。とりあえず試し運転しておきたいが…。まだ無理だなぁ…」
そう言ってブレスレットの方を見るが、いまだに変化らしい変化はない。
実験開始からおよそ三十分、内部時間で言えばおおよそ三百分だから五時間ほど。それでも一切侵食されていない。
「とりあえずある程度はもちそうかな…」
どれくらいで侵食されるかわからないから、ここを離れるわけにはいかない。
「………オリハルコンで作るか」
材料的に二つほどオリハルコンでブレスレットの方を作れる。そっちの方はさすがにそれなりに集中しないといけないので、鑑定魔法にアラームをつけて、何か変化があれば音が鳴るように設定する。
「こんなもんか。さてやるか」
そう言ってクロウはオリハルコンで対シャドウ用のブレスレット作成に取り掛かった。




