初めてのクエスト
ギルドカードを入手した俺達は、二度目の装置の点検に入る職員達を無視し、早々にクエストボードから適当に依頼書をひっぺ返して受付を済ませ、ギルドから出た。
幸い、ギルドカードを作成する魔道装置の場所は、冒険者達がたまり場としている広場や酒場からは離れているため、職員以外に知られることがなくて済んだ。
だが、その場にずっといると騒ぎが露見するため、足早に立ち去った方が良い。
早々と注目を集めてしまうと、変な奴らにからまれたり、目をつけられたりするからな。
「さすがに二人連続はやりすぎましたね」
冒険者ギルドから離れた路地まで移動し、サレンがようやく口を開いた。
「かけだし冒険者の一般的なステータスが分からないからピンとこないけど、そんなに高ステータスなのか?」
ギルドカードを取り出して自分のステータス欄を見てみる。幸運以外が三桁の数値で表示されている。
なんで幸運だけこんなに低いんだ?
・・・ああ、転生する際に記憶をふっ飛ばされたからか。
そういえば、サレンは器用度以外が高いとギルドのお姉さんが言っていたな。
器用度って攻撃や魔法の命中率や魔力の調整、それにスキル習得に関係すると言っていたけど、もしかして俺が転生する際に起こしたミスに繋がっているんじゃ・・・。
そう考えると、妙に納得できるステータスの構成だ。
「一般の人だと大体二桁前半くらい、村一番の実力を持っている若者クラスで6つのステータスのうち、2つくらいが二桁後半の数値ですね。私たちの場合は、異世界から来た特典としてスキルの項目に強力な神の『加護』が付いているので、初めからステータスが高いんですよ」
そう言って、サレンは自分のカードのスキル欄に指をさして見せる。
彼女のカードには『戦神の加護 LV5』と書かれている。
なるほど、これが高ステータスの原因なのか。
続いて自分のカードを確認すると、『女神の加護 LV5』と書かれていた。
ついでに他のスキルを見てみると、『無形 LV3』、『縮地 LV4』、『第六感 LV5』、『明鏡止水 LV4』と記載されていた。効果は後で確認しよう。
それにしても女神の加護ねぇ・・・この女神って、たぶんサレンのことだよな?
いちおう拝んでおくか。
「大体察しはつきますが・・・拝まなくて結構です。今の私は女神ではないので」
「あ、そうですか」
サレンがジト目を向けてくるので、両手を合わせるのをやめる。
「そういえば、依頼書の内容をよく見ないで仕事を引き受けてしまいましたけど、詳細はなんて書かれています?」
「どれどれ・・・内容は『スコット村の近辺の森に住み着いたゴブリンとオーガの討伐』だと。要は魔物の討伐ってことか?」
「はい。スコット村はこの街から南西にある農村地帯ですね。ゴブリンは低級の魔物で個体としては弱いのですが、群れを成すと脅威です。そうとも知らずに新米冒険者が下手に手を出すと命を落とすので、『初心者殺し』とも呼ばれています。オーガは2m以上ある太った魔物です。知能は低く、大柄なので動きもトロイのですが、森の木を一撃でなぎ倒すほどのパワーがあるので注意が必要です」
依頼の場所から魔物の特徴まで、サレンがすらすらと解説してくれた。
「す、すごい・・・。そこまで情報を知っているなんて、さすが元女神様」
「元女神は余計です! この世界の一般常識と生物や魔物のことは知っているので、ナビゲートは任せてください」
胸をドンっと叩いて、得意げに彼女は豪語した。
「いやぁ頼もしいな。不器用じゃなくて、俺の記憶ふっ飛ばさなきゃ、もっと頼もしかったんだけどなぁ・・・」
「さっ、さあ! 早く村まで行って日が暮れるまでに片づけましょう! 馬車乗り場に行けば、村まで行く行商人さんの馬車に乗せてもらえるかもしれませんし!
サレンは俺の言葉を無視し、そそくさと前を歩き始めた。
・・・やっぱり、器用度が原因だったんだな。
♦♦
運よく村に立ち寄る馬車があったので金を払って乗せてもらい、俺達はスコット村にたどり着いた。
ティンレアの街から歩いて行くと一時間程かかるようだ。
馬車のおかげで移動時間の短縮が出来たし、疲れずに済んでよかった。
スコット村はのどかな雰囲気の村で石造りの民家が立ち並び、この村シンボルだろうか、村の入り口から大きな風車が見える。
「さて、まずは依頼者の村長さんの所に行きましょうか」
「あれ? 早速森に行って魔物達を倒すんじゃないのか?」
「昨日、物騒なのは嫌だと言ってた人とは思えない発言ですね・・・。血気盛んなのはいいですが、まずは森に住み着いた魔物達の情報を聞きましょう。当てもなく森を彷徨うのは、いくら高ステータスの私たちでもあまり得策ではありませんから」
俺の言葉に、サレンはすました顔で答えた。
なんだよぉ、昨日は宿屋で「魔王なんてよゆーですよぉ」とか「女神の加護があるんで大丈夫です!」とか言ってたくせに、やけに冷静じゃないか。
だが、俺達が冒険者になっての初クエストだ。油断しないに越したことはない。
彼女の言葉に従い、まずは村長を探すことにした。
サレンは通りがかった村人に自分たちがギルドから依頼を受けてきた者だ、と伝えるとその村人は快く村長の家まで案内してくれた。
「こちらです。村長――! 冒険者ギルドの方々が来てくださいましたよー!」
案内してくれた村人さんが大声を出してドンドンッと村長の家をノックすると、ドアが開いて初老の男性が勢いよく出てくる。
「おお、うちの村の依頼書を見てきてくれたのか! ささ、どうぞ。中に入ってお茶でも飲んでいってください」
案内してくれた村人さんにお礼を言い、村長の家の中に入る。
そのまま勧められるがままソファに座ると、奥からお年寄りの女性がティーセットを持ってきて、お茶を村長と我々の前に置いてくれた。
恐らく、村長の奥さんだろう。俺とサレンがお礼を言うと、穏やかな表情をして奥へと去っていった。
「ようこそいらっしゃいました。私はこのスコット村の村長のモンドと申します」
「初めまして村長様。私はサレンと申します」
「俺は遊星です」
「おお・・・若い冒険者の方々なのになんと礼儀正しい・・・」
俺達が自己紹介をすると、村長さんが感心を示す。
他の冒険者達は態度が悪いのだろうか?
やはり冒険者ギルドの連中は、荒くれもの共ばかりなイメージ通りなのかもしれない。
「早速本題に入らせていただきますが、森に住み着いたゴブリンとオーガの場所、または遭遇した所、それから規模を分かる範囲で構いませんので教えてください」
サレンがそう言うと、村長は頷いて一旦席を立ち、棚の引き出しから丸まった用紙を持ってきて机の上に広げる。
どうやらこの近辺の地図のようだ。
「この村から西側に向かって行き、川を渡ると『ルルの森』と呼ばれる森があります。この森には、私たちの村の者が薬草採取や狩りで行くのですが、先日薬草採取に出かけた村の若い男女四人組がゴブリン達に襲われ、三人が犠牲になり、なんとか男の一人は命からがら村まで逃げてこれました。その襲われた場所が森に入って北西のこの辺り。襲われた者が言うには、薬草採取から帰る途中にゴブリンを三体見つけ、小遣い稼ぎにやっつけたら、知らぬ間に数十体のゴブリンとそれからオーガに囲まれて襲われたと申しておりました」
「そうですか・・・。ちなみに襲われた方の怪我の具合はどうでしょうか?」
サレンが心苦しそうに聞くと、村長は顔をしかめて答える。
「ひどい切り傷に打撲、それにゴブリンから毒矢を受けておりました。解毒は済んで一命は取り留めておりますが、まだひどい外傷と・・・それから心にも大きな傷を負いまして・・・」
ああ、そうだよな。いつも通りに村の仲間達四人で森に行って、魔物にちょっかいを出したけど、知らない間に大勢に囲まれて襲われた挙句、大怪我を負い、自分以外の仲間達は殺されたのだ。そんな体験をしたら、トラウマにならないのが不思議なくらいだ。
「その方の元に案内していただいてもよろしいですか? 私は回復魔法を使えるので、心の傷は無理ですが、体の怪我は治癒できます。少しでもお力になるかと・・・」
「いや、そんな・・・確かにありがたい申し出ですが、この村はただの農村です。依頼料だけで手一杯ですので、怪我の治癒までの代金はさすがに・・・」
サレンの申し出に、村長は申し訳なさそうな顔でたじろぐ。
「お代なんてとんでもない! 怪我の治癒は私個人の行いなので、そちらに関してのお金は一切いりません!」
「おお・・・なんと慈悲深いお方だ。分かりました、あとでその者の家までご案内いたします」
村長は感激のあまりに涙を流しそうになっていた。
そんな彼女の行いに俺も思わず感心してしまう。
おっと、本題を忘れるな。俺達はこの村にけが人の治療をしに来たんじゃなくて、魔物を討伐しに来たんだった。
「サレンが治療をしている間、俺は村の道具屋で必要な物を揃えてくるよ。三十分後くらいに村の正門に待ち合わせでいいか?」
「わかりました。では後ほど」
「それでは村長さん。俺はお先に失礼します。奥様にお茶美味しかったですとお伝えください」
村長さんに一言挨拶を告げ、俺は一足先に家を出ることにした。
空き時間が出来てしまったが、馬車を探すのを優先して、街で旅に必要な道具類の購入を忘れていたからちょうどいい。
道中に見つけていた村の道具屋に早速向かい、ベルト用のポーチ、金属製の水筒、治癒用と解毒用ポーション、ナイフやはさみ、マッチなどの旅の道中に必要な道具が揃ったツールボックスを購入した。
買い物を終え、まだ時間があるので村の中を適当に歩いて時間をつぶす。
サレンの方はどうだろうか。大怪我した村の人、傷が治って少しは立ち直ってくれればいいが・・・。
同情はしてあげられるが、心の傷を癒してあげることは出来ない。せめて俺が出来ることはこの依頼を完遂させて、彼と村の人々が安全に暮らしていけるようにすることだ。
村唯一の時計がある教会に目をやると、そろそろ集合時間が迫っている。
さて、いよいよ仕事の時間だ。
正門に向かうと、既にサレンと―――村長さんではなく、知らない男性が一緒に待っていた。
「すまない、待たせた!」
「いえ、ちょうど時間どおりでしたよ」
「それならよかった。んで・・・そちらのお方はどちら様で?」
サレンの隣にいる男性に目を向ける。
歳は俺より少し上だろうか、茶色い短髪の髪で、俺より身長が高くガタイもいい。
「俺はロニだ。怪我した弟がサレンさんに世話になったから、何か力になれればと思って、森の道案内をさせてもらうことになった。職業はレンジャーだから、少しは役に立てると思う。よろしくな」
「おお、それは助かります。俺は遊星って言います」
「ユーセイか。俺のことは気軽にロニって呼び捨てで呼んでくれ。それにかしこまった口調じゃなくて構わないさ。その方がお互い接しやすいだろ?」
なんか名前を伸ばされてるけど、その方が呼びやすそうだしいいか。
「わかりまっ・・・分かったよ。よろしく、ロニ」
お互いに自己紹介をし、軽く握手を交わす。
「それで、弟さんの具合はどうなった?」
「彼女の治癒魔法のおかげで体の怪我は元通りに治ったよ。怪我が治ったからか、心の具合も少し良くなったと思う。今は村長が一緒に付いてくれているよ。二人の見送りが出来ずに申し訳ないって言っていた」
ニカっと歯を見せ、ロニは嬉しそうに言う。
その隣でサレンは少し気恥ずかしそうにしていた。
「弟さん、お元気になってよかったです。サレンもお疲れさま・・・と言っても仕事はこれからだな」
「はい! それではルルの森に向かいましょうか。ロニさん、道中の案内お願いしますね」
「おう、任せてくれ!」
俺達はいよいよ魔物が住む森へと出発した。
次回、ようやく魔物との戦闘になります。