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(9)

 ⒐


「危うく酸欠になるかと思った……」

「……何のことを仰っているのか私にはわかりません」


 工房からの帰り道。

 隣を歩くララの表情はデフォルトのポーカーフェイスに戻っているけど、受け答えはまだ若干怪しかったりする。

 大丈夫なのか、あの魔術兵装とかいうの。

 ララの思考系統に何か影響出てたりするんじゃないのか。

 あれを工房に残した若かりし日の婆ちゃんに向けて内心の不安を愚痴っていると、ララが僕の手元に視線を移した。


「昇さん、それは?」

「ああ、これ。積んであった中から見つけてさ」


 手にした冊子をララに見せる。


「……私の運用マニュアル、ですか?」

「そうみたい。さっきの宝石込みでの通常運用とか、緊急時の補助術式とか。……まあ理解しきれるか読んでみないとわかんないけど」

「そうですか。昇さんが少なからずこの件に関与するのであれば、マニュアルは理解していた方が良いでしょう。是非熟読する事を推奨します」

「あ、あはは……そうさせてもらうよ」

「……おや、もう一冊何かお持ちなのですか?」

「ん? ああ、こっちはララの整備マニュアルみたい」

「……整備……マニュアル?」

「うん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()書いてくれてあるっぽいよ。まあこのあたりは戦いだとかそういうのを抜きにしても、今後のためにも必要な事だろうから――ってちょっと⁉」


 話を終えるより先に、手の中の整備マニュアルが取り上げられてしまった。


「ど、どうかしたの?」

「だめです」

「……は?」

「だめです」


 何だかよくわからないけれど、がっしり抱え込んでしまっている。

 どうやら渡す気が無いらしい。


「緊急時以外には、これは私が預かります」

「いや、預かるって……今さっき熟読しとけっていったばっかりじゃないか」

「それは運用マニュアルの方です」

「いやでも、ララの身体の状態を把握したり、修繕とかが必要な個所を見つけて対応したりできるようになっておいた方が……」

「だ め で す」


 ドアップで凄まれてしまった。

 ……って、この感じ……ひょっとして……?


「あの、ララ」

「……ですから、整備マニュアルは緊急時以外には渡しませんよ」

「いや、ていうかさ。……ララ、何か顔赤くなってる気がするんだけど」

「そんな機能は備わっていません!」

「めちゃめちゃムキになってるじゃないか……」


 感情と言うものが殆ど見える事が無かったララが、顔を真っ赤にしながらムキになって自分の身体構造が詳細に記されている解説書を僕に見せまいとしている。

 これは即ち、彼女の中では『恥ずかしい』に似た感情のようなものが発露し始めているという事なんじゃないだろうか。

 それもあの五種類の魔術兵装をララにセットした時を境に顕著に現れ始めているのだから、何某か因果関係があると考えるのが当然だろう。

 あの宝石が司る五つの属性とか言うものが、ララの感情にまで影響を与えている。

 それが果たしてかつての宮原静――若かりし頃の婆ちゃんの意図した挙動なのかそうでないのか。

 考えても現状結論の出ない疑問がグルグルと頭の中を駆けまわる。


「今後整備マニュアルを勝手に閲覧しようとした場合、昇さんの事は『助兵衛』と呼称します」

「そりゃいくらなんでも酷くない……?」


 僕思わず、苦笑するのが精一杯だった。


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