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3月~冬の終わり1


(どうしよう…)



 さっきからそればっかりが頭の中を巡る。

 答えは出ない。



(どうしよう…)


           *


「行ってきます」


 朝7時頃に家を出て駅に向かった。いつも学校に行く時と同じ道をいつもと同じように歩く。


 そう。通い慣れた道だったはずなんだ。



 なのに─



 少し大きな通りの歩道をもうすぐ駅が見える辺りまで来て左に入る脇道を横切っていた時、


キィィィィィーッ!!


「!!」


間近にブレーキ音を聞いた。


 後ろから来た車が減速せずに脇道へと左折してきたようだった。振り向いた時は既に時遅く─



 右脚から腰に痛みを感じた次の瞬間、私は地面に倒れ込んだ。


(痛…!)


 咄嗟に頭だけは庇ったけれど、容赦なく叩きつけられた左半身に電気が走るような衝撃と共に激しい痛みを受ける。突然のことにしばらくは左肩と腕、背中や膝の激痛と、次第にアスファルトから全身にじわじわと伝わる凍るような冷たさを感じるだけで、ただ呆然とする。


 遠くでバタバタと音がして、「大丈夫ですか!?」と誰かの声がした。



 あ…ぁ、こんなところで寝転がってる場合じゃない。国大に行かなきゃ。


 ようやく頭が働き出す。



「大丈夫ですか?聞こえますか?」



 誰に言ってるの?私?私は大丈夫。

 それより早く行かせて。大切な試験なの。これに受からないと私、先生との夢を叶えられない。



「誰か、誰か救急車!それと…AEDを!」



 誰か怪我したんだろうか?でもごめん、私行かなきゃだから、どうしよう、助けるのあんまり手伝えないよ?



「大丈夫ですか!?」


 肩を揺すられ眼を開けた。眼を開けて初めて自分が眼を閉じていたことに気付く。



「…はい」


 掠れる声で答えたけれど身体が動かない。



「私…行かなくちゃ、行けないんで…」


「もうすぐ救急車来ますからね!」


「あの…」



 救急車じゃ試験に行けないんだよ。


 私は身体を起こそうとする。でもやっぱり身体は動かない。



(え…何で…?)



 動かない身体に焦る。焦っても脚に腕に力が入らない。


 何で動かないの!?しっかりして私の身体!

 あぁ!どうしてもっと丈夫に出来てないんだろう!!


 思い通りにならない身体が悔しくて涙が込み上げた。それが頬をぽろりと伝う。



「どこが痛いですか!?」


 そんなのどうだっていい。試験に、試験に行かせて!



 サイレンの音が近付いてくる。


 ねぇ!動いて!動いて!動いて!


 止めどなく涙が溢れてくる。



 こんな時思い浮かべる顔は、ただ一人─


(先生…先生!)



 ごめんなさい。あんなに私のこと応援してくれたのに応えられなくてごめんなさい…



 けたたましいサイレンが私の直ぐ足元で止まった。涙の向こうに白と赤のユニフォームが滲んで見えた。


「もう大丈夫ですよ」

 救急隊の人が優しく声を掛けてくれる。でも…



(全然大丈夫じゃないよ!試験に行かれないもの!夢が…先生と私の夢が叶えられないもの!!)



 私は背中を震わせて泣くことしかできなかった。


           *

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