追憶〈Side Subaru〉~ 魂の中の死1
「南条」
嫌な胸のざわめき。
そして。
「いつも『彼女』がお世話になってまーす」
「清瀬くんっ!」
彼の胸に寄り添う君。
眼に映る全てのものが凍てつくような感覚─
(南条…!)
* * *
『先生私のこと…
好きですか…?』
『当たり前だろ。
教え子好きじゃない教師とかダメでしょ?』
『そっか。良かった』
言ってしまった言葉に後悔した。
教師としては優等生の応え。
でもそれは俺の本意じゃない。
分かってる。
今の俺に本当の気持ちは言えない。言える立場じゃない。
でも、一縷の望みでもあるのなら…
『あのさ、実は帰りにちょっと話したいことあるんだ』
適当な口実で君を準備室に呼び出して、そう言った。
何て言おうかなんてはっきりしたものもなかった。気持ちだけが先走ってた。
でももしもできることなら。
君がこの想いに気付いてくれているなら、万が一にも少しでも俺のことを意識してくれるなら…
『卒業まで待っててくれないか?』
君と俺の関係が『教師と生徒』でなくなった時には、真っ直ぐな気持ちを君に伝えるから。
いや、きっと伝えずにはいられないだろうから。
それまで待っててくれないか、ただそう思った。
たった一言の言葉が口に出来ないポジションでそんなことを言うのは正しくないと分かっていたけれど、だけどそれだけに、俺にしてみれば大きな決意─例えば今あるものを全部失っても構わないから君が欲しい、というような─だったつもりだ。
でも君は…
君は彼の腕の中にいて…
出来ることなら彼から君を奪い取りたかった。
でも堂々と君を『彼女』と呼べる彼に対して、俺はたった一言の気持ちさえ口に出来ないただの『教師』で…
あの時、適当な理由を付けて君を彼から引き離すことは出来ただろう。
けれど結局俺に出来たことは…
『俺明日使うプリント、コピーしてかなきゃならなかったから、先帰って。じゃ、また明日』
精一杯の強がり。
焦がれる身、とか、引き裂かれる胸、とかきっとこういうことを言うんだろう。
どうしようもなく胸が苦しく、広大な宇宙に突如放り出された小動物のように喘ぎ、もがくしか出来ない。
職員玄関を抜け、誰もいなくなった黄昏のグラウンド脇の欅の大樹の影に辿り着き、俺は我が身を抱える。
(南条、君が…好きだ…)
言葉に出来ない言葉が胸を渦巻く。
溢れる想いをただ君に伝えたいだけなのに、それはこんなにも苦しく、こんなにも険しい、と改めて想い知らされる。
もっと早いうちに、もっと鮮明に想いを伝えておけば良かったんだ。
中途半端に教師ぶって、核心に触れる言葉は言わない、とか、でも思わせ振りな態度で想いに気付かせたい、俺のことを意識させたい、とか。
おこがましいにも程がある。
『まぁな。だって少しは意識してもらわなきゃいけないからな』
君を振り向かせたいと思ったあの時、既に俺は間違ったやり方を選んでいたんだろう。
純真な君に、大人の狡さは通用しないなんて、そんな当たり前なことにさえ俺は気付いていなかったんだ─
* * *
『先生私のこと…
好きですか…?』
『当たり前だろ。
教え子好きじゃない教師とかダメでしょ?』
『そっか。良かった』
言ってしまった言葉に後悔した。
教師としては優等生の応え。
でもそれは俺の本意じゃない。
分かってる。
今の俺に本当の気持ちは言えない。言える立場じゃない。
でも、一縷の望みでもあるのなら…
『あのさ、実は帰りにちょっと話したいことあるんだ』
適当な口実で君を準備室に呼び出して、そう言った。
何て言おうかなんてはっきりしたものもなかった。気持ちだけが先走ってた。
でももしもできることなら。
君がこの想いに気付いてくれているなら、万が一にも少しでも俺のことを意識してくれるなら…
『卒業まで待っててくれないか?』
君と俺の関係が『教師と生徒』でなくなった時には、真っ直ぐな気持ちを君に伝えるから。
いや、きっと伝えずにはいられないだろうから。
それまで待っててくれないか、ただそう思った。
たった一言の言葉が口に出来ないポジションでそんなことを言うのは正しくないと分かっていたけれど、だけどそれだけに、俺にしてみれば大きな決意─例えば今あるものを全部失っても構わないから君が欲しい、というような─だったつもりだ。
でも君は…
君は彼の腕の中にいて…
出来ることなら彼から君を奪い取りたかった。
でも堂々と君を『彼女』と呼べる彼に対して、俺はたった一言の気持ちさえ口に出来ないただの『教師』で…
あの時、適当な理由を付けて君を彼から引き離すことは出来ただろう。
けれど結局俺に出来たことは…
『俺明日使うプリント、コピーしてかなきゃならなかったから、先帰って。じゃ、また明日』
精一杯の強がり。
焦がれる身、とか、引き裂かれる胸、とかきっとこういうことを言うんだろう。
どうしようもなく胸が苦しく、広大な宇宙に突如放り出された小動物のように喘ぎ、もがくしか出来ない。
職員玄関を抜け、誰もいなくなった黄昏のグラウンド脇の欅の大樹の影に辿り着き、俺は我が身を抱える。
(南条、君が…好きだ…)
言葉に出来ない言葉が胸を渦巻く。
溢れる想いをただ君に伝えたいだけなのに、それはこんなにも苦しく、こんなにも険しい、と改めて想い知らされる。
もっと早いうちに、もっと鮮明に想いを伝えておけば良かったんだ。
中途半端に教師ぶって、核心に触れる言葉は言わない、とか、でも思わせ振りな態度で想いに気付かせたい、俺のことを意識させたい、とか。
おこがましいにも程がある。
『まぁな。だって少しは意識してもらわなきゃいけないからな』
君を振り向かせたいと思ったあの時、既に俺は間違ったやり方を選んでいたんだろう。
純真な君に、大人の狡さは通用しないなんて、そんな当たり前なことにさえ俺は気付いていなかったんだ─
* * *




