92『王宮年越し大舞踏会』
とうとう迎えた、年越しパーティー当日。
学院の馬車寄せからユングクヴィストとともに王宮に向かう。
ユングクヴィストは前世で観た、某指輪の物語に登場する白い魔法使いのような衣装をまとっている。
「素敵です。ユングクヴィスト様」
「これ、先に淑女を褒める機会を奪うものではない」
「うふふ、ご心配なく。
ちゃんと猫を被りますから」
「それが怖いのう……」
「それよりも私の良人が、私にとってはじめてのパーティーに、エスコート出来なかったと拗ねていますのよ。
ちゃんと埋め合わせ、お願いしますね」
そうでないと私の身体が保ちません。
などと、際どい事を言う。
王宮に着いた2人は従僕に案内されて大広間に向かった。
「大賢者ユングクヴィスト様、薬師リーナ様、お着きでございます」
2人の名が紹介され、広間に入っていく。
パーティーに参加するため集まっていた貴族たちの目が2人に……正しくはリーナに注がれた。
それは決して悪意を含んだものではなかった。
彼らは、魔法学院の入学式の日に起こった事を正確に把握していたのだ。
それほど、ロドス伯爵令嬢の件は貴族社会に広がり、その時のリーナの行った処置で、彼らの信頼を得ていた。
あとの2家の事は秘匿されていたが、学院から同時に姿を消したので、その事は生徒経由で生家に知らされていた。
アンナリーナとユングクヴィストは真っ直ぐに王の元に向かう。
最上級のカーテシーで王に挨拶をし、許されて顔を上げた。
社交嫌いの大賢者の名が呼ばれ、続いて女性の名が呼ばれて、大広間に集まった貴族たちの目が一斉にそちらを向いた。
王の座所に向かう2人の、いやアンナリーナの姿を見て、あちらこちらからため息が漏れる。
上級貴族なら誰でもわかるその魔力量。
抑えきれずに溢れるなど、聞いたこともない。
その魔力を髪と瞳に纏い、黄金色に輝く髪が眩しい。
身長は子供のように低いが【薬師】のギフトを持つという事は準成人以上だということであり、この場への出席も可能であるという事だ。
アンナリーナが通りすぎる姿を間近に見た貴族夫人や令嬢たちからは溜息しか出なかった。
光沢のある薄紫色の、シンプルなラインのドレスはアラクネ絹で出来ている。それはよく見ると、今まで見たこともない同色の透けた模様織が重ねられている。
上身頃はゆったりとした襟ぐりでシンプルなまま、だがウエストの切り替えに施されたリボンの下からは、たっぷりと取った襞が、アラクネ絹の細身のスカートを取り巻いている。
そのドレスの上から、まるで霞のように薄い生地で仕立てられたローブを羽織っている。
その裾は、後ろに長く引かれていた。
手袋はレース、靴も共布でクリスタルのビーズで飾られていた。
シンプルな首元を飾るのは【異世界買物】で購入したダイヤモンドのネックレスだ。
これは、デザインはシンプルだがこの世界のものとはカットが違う。
ブリリアントカットされたダイヤモンドの輝きは、この場にいる貴族たちを圧倒した。




