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79『入学式のそのあとに』

 魔法学院の入学式には、親や後見人が出席する。

 今回、アンナリーナの場合は、ギィ辺境伯の名代としてテオドールが、冒険者ギルドからはギルドマスターが後見人として貴賓席に座っていた。


 ラノベなどではよく、魔法学院を舞台に物語が描かれるがその場合、生徒数がかなりの大人数である事が多い。

 だが現実のこの世界では、魔法学院に入学出来るほどの魔力と、財力や後見を持つものは多くない。

 貴族ですら全員が高魔力というわけではないのだ。

 現に今年の入学生の人数は50人に満たず、それでも例年と比べると多いと言える。


 魔法学院の制服は濃い水色で、男子は騎士服風、女子はロールカラーのブラウスと細身のロングスカートにブーツ……いわゆるロッテンマイヤーさんルックである。

 アンナリーナはこの上に薬師のローブを羽織ることを許されている。

 このローブも普段着ている、フード付きの身体をすっぽり覆うものではなく、ジャケットのように羽織るものである。その長さは裾まで。

 高めのスタンドカラーと前立てには銀糸で刺繍されており、オフホワイトのアラクネ絹で仕立てられている。

 それを見たアナベラはさらにアンナリーナに興味を覚えた。


 式典の時だけはローブを脱ぎ、教室に移る時はまた着る。

 ひとりだけ特別扱いのアンナリーナを周りの生徒は良く思っていなかった。


「ちょっと、あなた」


 きた、きた、きたーー!

 今回はどうやって凹ませてやろうと、アンナリーナが意地悪く思っていると、声をかけてきた少女の取り巻きがいきなり怒鳴りつけてくる。


「一体どういうつもりなの、この平民風情が!

 こちらはエレアント公爵令嬢サリア様よ」


「それが?」


「サリア様は学院を卒業後、国王陛下の元に入内する事が決まっているの。

 あなたなんかが、その視界に入るのもおこがましいわ」


 おかしい……

 この国の国王は、隣国の王女を正妃に迎えているはずだ。

 その元に入内とは?


「側室?」


 アンナリーナの呟きが気にいらなかったようだ。

 げんなりするアンナリーナの前で取り巻きの少女、ロドス伯爵令嬢リリスが掴みかかろうとする。

 アンナリーナは素早く避けてリリスを睥睨する。


「……あなた、咳止めを飲んでいるでしょう? それもかなり強い。

 ちょっと、このかたの従者か護衛の方、いらっしゃいません?」


「はい、ここにおります」


 アンナリーナの着ているローブで、彼女の職種を理解している彼らはすぐに姿を現した。


「すぐに保護者の方をお呼びして。

 そして学院長とユングクヴィスト様も」


 今なら急げば間に合うだろう。

 事は火急の要件なのだ。

 そして思い出したようにリリスを結界で囲むと、この場にいる生徒全員に【解析】をかけた。


『あらあら、何か面白いことになってるじゃないの』


 アンナリーナはほくそ笑む。



「リーナよ。一体どうした?」


 まず一番にやって来たのはユングクヴィストだった。

 アンナリーナは素早く近づくと結界を張り、説明し始める。


「あの令嬢……今は結界で他と隔離していますが【ツベルクローシス】に罹っていますね」


「何と!! それはまことか?!」


 アンナリーナと同じく【解析】を使えるユングクヴィストが、一時的に結界を解かれたリリスをスキャンし、頷いた」


「これは由々しき事態じゃ……」


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