73『別離』
アンナリーナが入学する事によってポーション類の搬入が滞らないように、従魔たち全員に空間魔法(転移)を供与していた。
デラガルサにはイジに搬入してもらうため、旧ベルネット・プルルスが経営している店舗に一室設けてもらう必要がある。
アンナリーナはイジを連れていつもの転移点に飛ぶ。
そして、先日もやってきた店舗で、マチルダたちに迎えられたのだが、何か雰囲気がおかしい。
その様子が気にはなったが、まずは用を済ましてしまう。
マチルダは一階の奥に一室確保してくれ、そこに転移点を設置した。
試しにイジが一度行き来して、確認する。
ついでだからと手持ちのポーション類を卸し、清算を終え、誘われるままお茶と軽食をいただいていると、珍しくジャマーが現れた。
そしてザルバとゲルトが続き、アンナリーナはとても嫌な感じがする。
「……何か、あったのですか?」
喉が乾いて、嫌な汗が流れる。
息が出来ない……鼓動が早鐘のように響き、頭に血が昇る。
「ごめん、もう一度……言ってくれる、かな?」
「フランクがベルネット・プルルスを抜けた。
……あいつは俺らと離れて、冒険者レベルを上げるために単独で動いていた。
そこで、懇ろになった女と所帯を……」
「やめてっ!!」
踵を返して駆け出すアンナリーナを、イジが追う。
アンナリーナはそのままデラガルサの町から出て森に入っていった。
今まで、その存在を確かめて心を潤していたマップの上に現れた、フランクを表す点。
そこに行こうと何度思った事だろう。
だがその度に、春の再会の約束を思い出し、我慢していたのに。
アンナリーナは、考える前に身体が動いていた。
「【転移】フランク!」
共に転移しようとしていたイジを振り払って、1人で飛んでいってしまったアンナリーナは、デラガルサ鉱山のある山岳地の向こう側の小さな町に来ていた。
あたりを見回し、アンナリーナだけに見えるマップの光点を探す。
そして、再会はなされた。
「リーナ?!」
フランクの顔が驚愕から、徐々に歪んでいく。
「どうしてここに?」
彼はアンナリーナが、自分の居場所を特定出来るとは知らない。
だから、卑怯な事だがこのまま行方をくらませて自然消滅を狙っていた感がある。
「それより……
何か私に言う事があるんじゃない?」
こんな時でもアンナリーナは、フランクの口から、デラガルサで聞いて来たことは嘘だと否定してくれる事を願っていた。
だが、その望みは木っ端微塵に砕かれる。
「リーナ……すまない。
俺のことはもう、何も聞かず忘れてくれ」
「ザルバさんたちに聞いた」
「そうか……」
そして、次の言葉がアンナリーナを打ちのめす。
「本当に、本当にすまない。
あいつの腹には今、俺の子がいるんだ。だから」
フランクの言葉がアンナリーナの頭の中を空滑りする。
初めて聞いた事実に頭の中が真っ白になった。
「……だからリーナからもらったこれも返す」
この時、フランクの中ではアンナリーナが、返すと言っても受け取らないだろう、という打算もあったのだろう。
だが、あまりの衝撃に物事の理解が出来なくなっている彼女は、言われるままに受け取り……インフェルノの黒い炎で燃やした。
同時に、自分が渡した品々すべてを燃やし、付与していた守護もすべてキャンセルする。
唖然とするフランクを置いて、一暼することもなく姿を消すアンナリーナ。
その頃、フランクの家では彼の持ち物のいくつかが、黒い炎をあげて燃え上がり、妻が悲鳴をあげていた。




