66『凸凹コンビ』
結局テオドールは翌日、王都の外に設置したテントから姿を現した。
「なんか、呆気ないほど便利だな……
だが、これがあれば移動にとられる時間がずいぶん短縮できる」
「うん、行く行くはそうするつもり。
今でも転移点はいくつかあるの。
こないだのデラガルサもそう」
そうこうするうちに門に着く。
出る時はあっさり出れるが、入る時は大層だ。
世間話をしながら順番を待ち、王都に入ってまず宿に行く。
テオドールは数日滞在するつもりなので、普通と同じように部屋をとろうというのだ。
「申し訳ないけど、もうお部屋が空いてないの」
困り顔の女将がアンナリーナとテオドールの顔を交互に見た。
「じゃあ、私の部屋に一緒で。
もちろん宿泊費は通常通り、お支払いします」
「でも……」
「その方が都合がいいんです。
熊さん、何泊する?」
「お前は何泊するんだ?」
「私はあと……6泊かな?」
横で女将が頷いている。
「じゃあ、俺もそれで」
アンナリーナが金貨を6枚取り出して、渡す。
「ではすぐにベッドをもう一台入れますね」
「それは結構です。
どうせ一緒に寝ますし」
女将はどうにか赤面せずにいられた。
この2人、ずいぶんと年の差がありそうだが、そういう関係なのだろう。
少女は夕食も断って、部屋に上がっていった。
……リーナ。
宿の従業員にとって、アンナリーナは捉えどころのない不思議な人物である。
この日から受験まで毎日、王都のあちらこちらで、この凸凹コンビが見受けられた。
主に買い物に、買い食いに。
見た目はまさしく【熊】の大男と見た目可憐な少女。
可憐なのは本当に見た目だけで、彼女と対応した事のあるものは皆、口を揃えて言う。
……中身はなかなか強烈だと。
そして彼らはいつしか王都の名物となっていた。
初めは裕福な家庭の息女とその護衛だと思われていた。
だが、その遣り取りを聞いて考えを改める。
2人はほぼ対等、もしくは少女が押している。
大男はいつも暖かい眼差しを向け、さりげなくエスコートしている。
……そして、少女の金遣いは荒い。
気に入ったものは大量買いも厭わない、極端な人物。
彼らは今、翌日に迫った受験に備えて、魔法学院に見学に来ていた。
今日は、明日試験を受ける受験生のための、校内を解放しての見学日である。
この学院の在校生はもちろん、受験生も圧倒的に貴族が多い。
アンナリーナは見た目で舐められないよう、出で立ちにはいつも以上に気を配った。
アラーニェの手による、アラクネ絹で仕立てられたシンプルな花紺のワンピース。
ブラウス部分はオープンカラーで柔らかなパフスリーブ。
細い腰を強調するリボン結びで、スカートは細いプリーツだ。
その上に、やはりアラクネ糸で厚めに織られた生地を使った、オフホワイトのローブを着ている。
足元は白いハーフブーツだ。
従えているテオドールも、今日は大人しめの皮鎧をつけている。
学院の上級生が無作為で案内役を引き受けているのだが、アンナリーナから溢れ出る魔力に当てられ、顔色が悪い。
もちろん彼は、アンナリーナが薬師だとは知らなかったのだが。




