表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/577

58『トラブル』

 朝から森で狩りをするテオドールとイジを見送り、出掛ける支度を始めた。


 クラン本部のテオドールの部屋に間借りさしてもらっているアンナリーナは、普段は足首までのロングワンピースを着ているが、今日は久々にチュニックとレギンスを着込み、ブーツを履く。

 クリーム色の、襟から前立て、裾に至る一回りを薄い緑の蔦の模様の刺繍を施したローブに袖を通した。

 街中では武器を持たないのでベルトはしない。


「じゃあ、お留守番頼むね〜」


 セトとアマルにそう言って、テントに向かう扉を開けた。

 ちなみにアラーニェは、新たに増設したアトリエで布を織っている。

 先日からずっと織り続けていて、今はそういう気分らしい。

 今着ているチュニックも彼女の作品だ。


 らんらんと聞こえてきそうなご機嫌のアンナリーナが階段を降りてくる。

 最近、すっかり馴染になったその光景に、クランのものはもう何も言わない。


「いってきまーす」



 いつもより多いポーションを渡しながら、ドミニクスとは雑談を交わす。

 それはもう間近に迫った魔法学院の受験に対するものである。


「試験のお勉強は進んでいますか?」


 一般常識と国語と計算。

 アンナリーナの弱点は歴史だが、ナビがいる。

 参考書を何冊か、王都から取り寄せて、ナビとともにすべて覚えたつもりだ。


「多分大丈夫。

 それから、王都に慣れたいので少し早めに立つつもり」


「寂しくなりますね……」


 ドミニクスが力なく笑う。


「ちょくちょく、戻ってくるつもりでいるし?

 ポーションやお薬も【疾風の凶刃】経由で届けてもらうように、話をつけときましたから」


 嘘も方便である。

 テントの扉を増やして、ツリーハウスとともにテオドールの部屋とも繋ぐつもりでいる。

 そうでなければ、とてもテオドールを説得出来なかっただろう。

 彼の心配する様子は、アンナリーナから見ると異常に思えるほどだ。


「とにかく、まずは無事合格を祈っていますよ。

 まあ……心配するだけ無駄だとはわかっているのですけどね」


「うふふ、ありがとう」


 出発までにもう一度納品できるだろう。今日からの代金はすべてギルドカードに納金してもらう事にして、鑑定室から出てきた。

 そこに。


「あのっ……」


 冒険者ギルドには不釣り合いな女の子が走り寄ってきて、アンナリーナのローブを掴む。


「ん? なに?」


 見たところ10才ぐらいだろうか。

 アンナリーナの身長が低めなので、さほど小さくは見えない。


「あんたは薬師なんでしょう?

 うちのお母さんを助けて!」


 ぞんざいな口のききかたは家庭環境によるものかもしれないが、なぜここで自分に言ってくるのか、アンナリーナには理解出来ない。

 困惑しながらも口を開いた。


「助けて……って、診てみないとどんな病気かわからないわ。

 ねえ、お家はどこ?」


 ローブを握りしめられたままなので、迷惑そうなアンナリーナだが、薬師らしく聞いてみる。

 すると見るからに狼狽した女の子がローブから手を離して後退った。


「いいの、家に来なくてもいいの!」


「そんなこと言っても、様子を診て症状に合ったお薬を出さなきゃ、効かないのよ」


「そんなのどうでもいいのよ。

 ポーションならどんな病気も治るって!」


「ポーションで病気は治らないわよ?

 第一、最低ランクのポーションでも金貨3枚するのよ。

 あなたに払えるの?」


「そんなお金なんてあるわけないでしょう?

 早くポーションをちょうだいよ!」


 アンナリーナはカチンときた。


「薬師なんだから、それくらいくれたらいいじゃないの!」


「ちょっと待って。

 あなた、薬を買うつもりじゃないの?」


「ここに来たのは、薬師が来るって話を聞いたから。

 早くポーションをちょうだい」


 呆れ果てて言葉も出ない。


「話にならないわね。

 あっちに行って」


 さすがに腹を立てたアンナリーナが突き放すように言うと、踵を返す。

 そこに口を挟んできたのは、ある意味予想できた人物だった。


「そんなこと言わないで、ポーションくらいやったらいいじゃないの。

 たっぷり稼いでいるくせにケチね」


 カウンターの向こうでミルシュカがこちらを睨んでいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ