55『4匹目の仲間』
ポチポチとタッチパネルを叩く音がする。
まず最初に買ったのはその形状が特殊な専用の鍋だった。それを3つ。
「この際だからまとめ買いしとこうか。
まず醤油……5本、上白糖20袋、料理用に使う紙パックの日本酒2パック、玉子10パック、白ネギ20本、白菜10個、しいたけ5パック、しらたき5袋、焼き豆腐5丁、春菊3束、麩2袋。
こんなもんかなあ」
テオドールとイジの鍛錬はそれなりに時間がかかるだろう。
あと、料理に合わせて日本酒を……テオドール用に辛口を調達し【異世界買物】を閉じた。
空いた時間で中級ポーションCを調薬し、またキッチンに戻る。
しらたきを茹でてアク抜きし、麩を水につけて戻す。
野菜を適当な大きさにカットし、バットに並べ、しいたけは石づきを取る。
焼き豆腐も食べやすい大きさに分割した。
あとは肉のカットだ。
ミスリルのナイフでなるべく薄くスライスしてこれもバットに並べておく。
ご飯も炊いて、あとは男たちを待つだけだ。
「主人、今日はまた変わった料理だな」
「まだ料理じゃないよ。
これは作りながら食べるの。
美味しいよ?」
「何か手伝える事は?」
「そうだね……
外に出て滝壺や川底から宝玉を採ってきてもらえるかな」
アンナリーナの結界は、従魔契約しているものなら出入りできる。
そしてセトはドラゴンに進化したことにより、色々な能力を手に入れられていたのだが、潜水もそのひとつだ。
そして手……前足を器用に使うことが出来るようになり、今は椅子に座り、フォークやスプーンを使って食事をしている。
その手に籠を持ち、セトは玄関に向かって行った。
アンナリーナもそれに続き、裏庭に栽培している薬草の様子を見るため、階段を降りていく。
彼女は【防御】をまとい、結界外に出てあたりを散策し始めた。
「主人様、危険ですよ」
「【探索】
これでナビがちゃんと見ていてくれるでしょう?」
「そうですね。
また、何かお探しですか?」
「うん、さっき何か、こうピクっと?」
あたりを見回しながら極々微弱な魔力を探る。
昼間でも暗い森の中は、下草も育ちが悪くその丈も短い。
「ああ、いた!」
30㎝ほどの、瀕死の女郎蜘蛛……いや、空腹なだけか?
丸めた歩脚を上にし、ひっくり返った状態で、わずかに触肢を動かしている。
その、本来なら美しい体色も泥に汚れ見る影もない。
「この子、連れて帰ってみようか」
試しにローストビーフを一枚取り出し、与えてみる。
口許に近づけると上顎を動かして食べ始めた。
「よくこの過酷な魔獣の森で、生きていられましたね」
「ここは生息している魔獣のレベルが格段に高いからね。
まだ仔なんだろうか?」
ひっくり返ったままの蜘蛛を、よいしょと持ち上げ、抱えてツリーハウスへと戻った。
まず、セトに驚かれ、アマルは興味津々、触手で突いている。
「怪我はないみたいだね。
【鑑定】
女郎蜘蛛(雌)
体力値 15
魔力値 34
スキル
糸
「ねえ、蜘蛛さん。
私の言葉、わかるかな?」
上顎と触肢が揺れる。
「ねえ、もしよかったら私の従魔にならない?そうしたら毎日お腹いっぱい食べられるよ?」
つぶらな8個の黒い目がアンナリーナを見つめている。
と、突然ぴょんぴょんとジャンプし始めくるくる回る。
「これは了承してくれたって事でいいのかな?」
ぴょんぴょん跳ねまわる蜘蛛と、アンナリーナはこの場で従魔契約を結び【アラーニェ】と名付けた。
「【体力値供与】【魔力値供与】
【スキル供与】鑑定
そして【鑑定】
アラーニェ(女郎蜘蛛、雌)
体力値 30
魔力値 65
取得スキル
糸
鑑定
また、アンナリーナに新たな家族が増えた。




