53『大人への階段?』
「リーナ、さっきはあいつの前だからしつこく聞かなかったが、一体どこに行ってたんだ?」
あれからソースを変えたステーキを5枚食べた熊男が、皿を押しやって聞いてくる。
「うう〜 ダンジョンだって言ったでしょ」
「だからどこの?」
アンナリーナは唇を噛み締めて逡巡する。
「リーナ?」
大きな手に腕を取られ、逃げ場を失ったアンナリーナは目線を逸らしてためらっていた。
「これを聞いたら熊さん、本当に私と一連托生よ? その覚悟、ある?」
「もうとっくに逃げられないんじゃないのか?」
アンナリーナがふふふ……と嗤う。
その貌はとても14才の少女とは思えないほど、﨟たけている。
「これから苦労するよ?」
「覚悟している」
ぐいと顔を近づけてきたアンナリーナの、焦げ茶ベースの不思議な色合いの瞳がテオドールを捉え、彼はその瞳に吸い込まれそうな気になる。
「デラガルサ」
「何?」
テオドールは聞き間違えたのかと思った。だがアンナリーナはもう一度繰り返してテオドールを叩きのめす。
「メンデルエタ国のデラガルサ。
つい最近発現したダンジョンって知ってるでしょ?」
絶句……
これほど衝撃的な応えを想像しただろうか。
「デラガルサって……おまえ」
「ここに来る前に知り合った人たちがいて、薬やポーション卸してるの」
「待て待て、待てーっ。
デラガルサって、どれだけ離れてるかわかってるのか……おまえ、転移魔法持ちか?」
百戦錬磨の熊男、テオドールの背中に悪寒が走る。
「そうだよ。
……ほら、そんな顔をする。
でもこの事を知ったからには……わかるよね?」
転移魔法持ちなど各国に一人いるかどうか。
もしいたとしても国に取り込まれる事が必至だ。
「熊さん」
いつの間にか腕を振り払ったアンナリーナが、テオドールの膝の上に乗り上げて身体を密着させる。
細い腕がゴワゴワの髪を掻き分けて太い首に回され、耳許に囁いた。
「裏切らないでね」
手の甲まで毛むくじゃらな大きな手が、アンナリーナの腰と頭の後ろを捉える。
近づいてきた唇から逃れるように腕を突っ張って、アンナリーナは嫌々をした。
「お髭がチクチクするからいや」
ぐう、と唸ったテオドールはそのままアンナリーナを抱き上げて、寝室に消えていく。
『ああ……昨夜はみんなのステータス供与、出来なかった』
翌朝目覚めたアンナリーナは窮屈ななか、少しだけ伸びをした。
……昨夜は結局のところ、最後の一線は越えていない。
だがまた一つ、大人への階段を登ったのだ。
「ん〜 起きたのか?」
身長差が60cm以上ある熊男が、その太い腕でガッチリと抱きしめているアンナリーナは裸だ。
『なんとなく、好奇心とでこうなっちゃったけど、結局致せなかったのね』
前世アラフォーの処女だったアンナリーナは、そちらの好奇心がかなり強い。知識だけはあるのだ。
だが、第ニ次性徴期前に成長が止まってしまった身体は幼すぎて、テオドールは断念した。
だが、彼はもう……アンナリーナに夢中だ。
昨夜、繋がることは出来なかったが、他の方法で処理してくれたアンナリーナはもう、彼にとっては女神に等しい。
「リーナ、まだ早いだろう。
こっちに、また……」
「うん、もう起きるよ」
さっさと起き上がると、スルリと腕から抜け出して浴室に向かう。
「今日は朝から忙しいから。
もう……スケベ親父」




