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42『冒険者、個々の思い』

 ぐったりとしている盗賊以外の者が唖然と、その姿を見ていた。


 テントから出て、自分たちに声をかけて来たのは “ 少女 ”いや “ 女の子 ”と言っても良いほどの歳で、これほどこの場にそぐわない者はいない。


「あんたは……」


 仕立ての良さそうなチュニックにレギンス、柔らかそうな皮のフラットシューズ。

 手入れの行き届いた髪に白い肌……

 どこを取ってみても、こんなダンジョンにいる存在ではない。

 ここはもう8階層なのだ。

 ただ、彼女が連れている魔獣を見て魔術師が真っ青になって震えだす。

 魔法騎士や治癒師も顔色を変えた。

 3mを超えるブラック・リザード。

 6人パーティ全員が束になってかかっても歯が立たない存在の魔獣。


「あんた、どうやってこんな所まで……いや、そのブラック・リザードがいたら軽いものか」


 アンナリーナは否定も肯定もしない。


「そんな事より、その人怪我してますよね?」


 次の瞬間、魔術師が目を見開いてあたりを見回した。

 見るからに、今までとは空気が違う。


「私の結界の外側にもう一つ、結界を張りました。

 これで今夜はゆっくり眠れるでしょう?」


 アンナリーナはにっこりと笑った。


「すぐそこにまでミノタウロスが来ています。このままでは危ないですからね……明朝10刻くらいまで保ちますけど、一度外に出るともう入れないですから気をつけて下さいね」


「済まない、感謝する」


 リーダーが頭を下げる。

 その様子に重戦士などは眉をひそめたが、頭を下げるだけで命が保証されるなら安いものだ。


「この結界の中で火を焚いても大丈夫ですよ。

 あ、そうそう……よかったらこれ、召し上がって下さい」


 フワフワとテントから出てきたジェリーフィッシュが、寸胴鍋を持っている。


「2食分くらいはあるでしょう。

 お鍋は返して下さいね」


 柔らかな物言いと愛想の良い物腰、だがその目が笑っていない事にリーダーは気づいていた。

 見た目は少女ながら中身は達観した老女のような、言い知れない恐ろしさを感じる。

 決して侮ってはならない相手だ。


「ああ、本当にありがとう」


「いいえ、どういたしまして。

 じゃ、おやすみなさい」


 アンナリーナは踵を返し、セトとアマルを引き連れテントに戻っていった。



 アンナリーナの姿が見えなくなって、長い長い溜め息を吐き出したのは魔術師の男だった。


「いつもは浅慮なあなたが黙っていたのを褒めて差し上げますよ」


 重戦士の男に対しての言葉も辛辣だ。


「何言ってるんだよ。

 あんなガキ、身ぐるみ剥いじまおうぜ」


「しぃっ、何言ってるんですか。

 きっと聞かれていますよ。

 いい加減にして下さい」


 重戦士の男はアンナリーナのテントを睥睨した。


「とにかく、厚意はいただこう。

 サフラの様子はどうだ?

 それからロビン、回復系の備品の在庫はどうなってる?」


 ロビンと呼ばれた治癒師の男が腰のポシェットに手を差し入れた。

 実は彼、ロビンは治癒師としては壊滅的に魔力値が低い。

 だが貴重な治癒師の為、大手クランに加入を許された。

 現在はポーションと併用してパーティで活躍している。


「ポーションがあと10本しかありません。そろそろ引き返した方がいいと思います」


「待てよ! このもやし野郎!!

 お前がしっかりすればもっと下まで潜れるんだ」


「しかしサフラさんだってまだ回復してない」


「それもお前が役立たずだからじゃないか」



 外で始まった醜い諍いに、アンナリーナは顔を歪めた。


「……今夜は不測の事態に備えて、こっちで寝るかな。

 しかし最低だね……」


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