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26『量産型中級体力ポーションC』

 約束通りギルドを訪れたアンナリーナは、目を見張った。


 おそらくギルド職員は徹夜だったのだろう。

 もうすでに、昨日発表したばかりの情報を、イラスト付きで印刷した紙が用意され、カウンターに積まれている。

 そして一斉に向けられた視線にたじろいだ。


「えーっと、おはようございます?」


 今朝は寝坊したので、もうすぐ昼だ。


「おはようございます。もう大丈夫なのですか?」


 ドミニクスが集まっている冒険者をかき分け、やってくる。


「まだ少し辛いけど……約束したから」


 この一言に胸をキュンとさせた冒険者たちが一斉にアンナリーナに近づいてきた。

 そのうちの一人は昨日の最後に担当した彼だ。


「薬師の嬢ちゃん、来てくれてありがとう。本当にもう、休んでくれ」


 見るからに顔色の良くないアンナリーナに椅子が用意され、ドミニクスが紅茶を渡してくる。


「あとは私たちでもやっていけます。

 ゆっくり休んで下さい、ね?」


「私、ドミニクスさんに相談したいことがあったんですけど……」


 アンナリーナが珍しく、困った顔をしている。

 これは只事ではないと、ドミニクスは鑑定室にアンナリーナを誘った。

 アンナリーナは入室して、ドアを閉めて結界を張り、座りもせずに話し始める。


「私が最近【疾風の凶刃】の方々と交流しているの、ご存知でしょう?」


「ええ、大熊のテオドールたちですね」


「彼らにいくつか……融通することにしたんですけど、あのどのくらいの値をつけたらいいか、わからなくて」


 アイテムバッグから取り出した瓶を机に置く。

 それを見てドミニクスは腰を抜かさんばかりに驚いた。


 もう、これ以上驚くことはないだろう。この領都では滅多にお目にかかれないその品……中級体力ポーションC、回復値2700。

 あり得ない数値だ。

 だが、それよりも。


「あなたは……練金薬師だったのですね」


「今まで黙っていてごめんなさい。

 成り行きであの人たちに売ることになって……クランに招待されてるの」


 ドミニクスの身体がビシリと固まる。


「あー、そのクラン?ってのに所属するつもりはないですから。

 ただ、色々考慮してもらうことはあると思いますが」


 ドミニクスが難しい顔をしてアンナリーナを見ている。


「これは量産型で、数量をたくさん作れるように改良しました。

【疾風の凶刃】に卸したあと、こちらにも置いてもらえるよう、お願いしたいと思っています」


 アンナリーナは居住まいを正して、ドミニクスを見つめ返した。


「これほどの回復値は、正直言って私も初めて見ました。

 いいですか、リーナさん。

 これは確実に騒動になりますよ?」


「鬱陶しくなったらトンズラしちゃいますから」


 ペロリと舌を出して、悪戯っ子っぽく笑むアンナリーナ。


 だがその言葉に震撼したドミニクスは、アンナリーナにかかるトラブルを全力で回避しようと決心する。


「それでですね、一体どのくらいのお値段で譲ればいいですか?」


 回復値2700と言えば、それを使用するのは高位冒険者だろう。

 この領都でもそれほど人数がいるわけではない。


「最低、金貨10枚。

 これ以下だと他のバランスが崩れますのでくれぐれも」


「わかりました。ありがとう、ドミニクスさん」


 これで【疾風の凶刃】の本拠地、クランハウスに行くことが出来そうだ。


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