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19『アンナリーナの始まりの森』

【魔獣の森】はアンナリーナにとって宝の山だ。

 魔獣はもちろん、その森に芽吹く植物や苔類、菌類に至るまで、すべてが素材となる。

 今まで知らなかった、貴重な植物を手に入れた時など、震えさえ走る。


【マップ】に記された魔獣を表す赤い点を追って、森の中を飛び回る姿はとてもここに来るまで臥せっていたようには見えない。

 やはり生まれ育った森の魔力が肌に合うのだろう。

 顔色良く、その動きも機敏になって生き生きと【飛行】した。


 そうしてさらに、蛇型魔獣の最下位種【森大蛇】(全長5mほどだが胴の太い蛇。白身で脂が乗っていて美味)やその上位種で、以前狩ったクリムゾンバイパーと同位の蛇魔獣【ティタノアダー】の蛇団子を見つけた時は狂喜した。

 サクッとサファケイトで必殺!

 上位蛇魔獣は体液だけでなく、全身が買い取りの対象なのでアンナリーナはホクホク顔だ。


「ねえ、ナビ。

 私たちが通って来たところ……目についた魔獣は狩って来たはずなのに、また湧いてるよ?」


「表示は出ませんが、ダンジョン化が進んでいるのか、それともデラガルサのダンジョンと繋がっているのか。

 どちらにしても主人様、狩り放題ですよ! よかったですね!!」


「よし! もうひと回りしてから領都に戻ろうか」


 それが、出会いの始まりだった。



 やたら固まった赤い点をめがけて、アンナリーナは木立ちをすり抜けるように飛んでいた。

 その地点に近づくにつれてギャアギャアと煩いくらいの話し声?が聞こえてくる。

 そして耐え難い悪臭と、それに混じる血臭にアンナリーナは足を止めた。


「なに? ゴブリン?」



 そこではゴブリンの集団が、たったひとりのゴブリンに対して暴力を振るっていた。

 下卑た声を上げて笑う個体もいる。

 アンナリーナはこの光景を見て、気分が悪くなってしまう。

 こんな魔獣の世界でも虐めがある事に愕然として、つい数ヶ月前の自分を思い出し、唇を噛みしめる。

 露骨に殴られたりした事は少ないが、村の子供たちから虐められた自分と、重なり……感情が爆発した。



 虐めの対象だった、今は地面に横たわるゴブリン以外の加害者ゴブリンたちがアンナリーナの【血抜き】を受けて、音もなく倒れていく。

 ちなみにゴブリンは大した値段にならないので放置だ。


 血だらけで、片目は潰され、鼻骨も折れている。

 あちこち殴られ、粗末な剣で刺されたと思われる傷がある。

 被害者ゴブリンは瀕死の状態で虫の息だった。


「ゴブリンさん、あなた……生きたい?

 生きたいのなら私が助けてあげる。

 でも対価として、私と従魔契約をしてもらうわ。 どうする?」


 もう話すことも、身体を動かすことも出来ないのだろう。

 ゴブリンは残ったたったひとつの目を、その瞳を動かした。


「本当に良いのね?」


 瞳が揺れる。

 アンナリーナは彼の意思を確認すると、全身を包み込むように【回復】をかけた。


「【回復】【回復】」


 とりあえずの応急処置を終え、周りに【結界】を張るとたっぷりと魔力を籠めた【ウォーター】で血を洗い流していく。

 傷に沁みたゴブリンが、その痛みに呻くのを見て、アンナリーナは少し安心する。

 体が生きることを求めている。

 このゴブリンの体は生を放棄していない。

 アンナリーナは慎重に傷を確かめながら内部を【解析】する。


「よかった。セトの時と違って中身が潰れたりはしてない。

 なまくら剣だったおかげで深部まで傷はいってないわ」


 血や土や枯葉など全身に付いたものをきれいに洗い流し、清潔なシーツにくるんでツリーハウスに転移すると、本格的な治療を始めた。


 まずは【異空間魔法】で部屋を増設する。

 そこに【異世界買物】でベッドと寝具を購入してゴブリンを、そこに寝かせた。


「【回復】」


 酷い傷から【回復】させていって、夕方には治療を完了させた。

 ギリギリまで減っていた体力値は回復薬を飲ませて回復させ、着衣は子供用のスウェットを着せた。


「さて、ゴブリンさん。

 さっきの約束、覚えている?」


 アンナリーナに【洗浄】できれいにしてもらったゴブリンは、少し怯えながらソファに腰掛けている。


「ギャギャ」


 そして何度も頷く。


「私の従魔になっても良いのね?」


「ギュ」


 特別なポーションを必要とするため、未だ隻眼のゴブリンが深く頷いた。


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