84『新たな仲間』
ジャマーやキンキにジンガが唖然とする中、アンナリーナは街道とは反対側の深い森に足を踏み入れた。
森の深い緑がその姿を隠してくれるようになった頃、アンナリーナは【飛行】を発動した。
木々の間を縫うように飛んでどんどん奥に進んでいく。
アンナリーナのフードの中、彼女の肩に取り付いたセトが、肩口から頭を覗かせた。
「アルジ、モウズイブントンデイル。
イチドヤスンダホウガイイ」
「そうです、主人様。
ちょうどこの先に少し開けた場所があるようです。もし何ならここにツリーハウスを出されたらいかがです?」
もう一時間以上飛んでいたが、アンナリーナとしてはもう少し進んでおきたかった。
「そうね、ちょっと休憩しようか」
そこは木漏れ日は差し込むが、ツリーハウスを出せるような開けた場所ではなかった。だがゆっくりと凭れられるほどの大木があり、アンナリーナはそこに腰掛けた。
「お茶とお菓子で休憩しましょう。
セトもお菓子でいい?」
「ノドガカワイタ。ヨケレバミズガホシイ」
アイテムバッグから取り出したセト専用の水飲み用の器に【ウォーター】で水を注ぐ。
自分にはサー○スのポットで紅茶を注いだ。
お茶請けのお菓子は、今まで作り置いたクッキーの類をほとんどフランクに持たせた為、今回は【異世界買物】で購入した、有名メーカーのソフトクッキーだ。
アンナリーナ、実は最近他の者がいないところではあちらのお菓子を食べることがまま、ある。
「やっぱり手作りのと比べると食感が違うよね。
セトも食べてごらん?美味しいでしょ?」
セトの好みはやはりアンナリーナの作った、甘さ控え目の方がいい。
しかし、一枚丸ごともらったクッキーをシャクシャクと齧りながら目を細めていた。
昼食を済ませてから出発して来たので、すでに陽は傾き始めている。
しばしの休憩で活力の湧いてきたアンナリーナはセトを肩に乗せ、下草を踏みしめ歩いていた。
【探索】で素材を探し、採取する。
このあたりは木々の葉がよく茂り、主に日陰を好む薬草を数種類採取することが出来た。
「そろそろ先を急ごうか?
ツリーハウスが出せる場所を探さなきゃ……ん?」
【探索】に現れた、今まで見たことのない光点に向かって進んでいく。
弱々しいそれはかすかに点滅しているが、今にも消えそうに見える。
だが、一体何なのか見当もつかない。
「ナビ……何だと思う?」
「生物のようですが、小さそうですね」
ゆっくりと歩み、目的の地点に着いたようなのだが、何も見当たらない。
アンナリーナはあたりを見回して、しゃがんでみた。
「……何これ?」
手のひらほどもない、何か見覚えのあるべちゃりとした物体。
それが地面に落ちているのだが……これはアレだ。
半透明でプルプルしているのだが、これはこんなところに生息しているものではない。
「あら珍しい!
主人様、これは “ ジェリーフィッシュ ”ですよ!!」
「クラゲ?」
わずかに触手を動かしているクラゲは最早死にかけているようだ。
「【ヒール】
応急処置が間に合えばいいのだけど……
それに水につけてやらなきゃ」
立ち上がるアンナリーナを、ナビが慌てて止める。
「主人様っ! 水につけたりしたら死んでしまいますよ」
「嘘っ?!
クラゲって水中に住むものでしょ?」
「どこの世界の話ですか?!
水に入れたりしたら窒息して死にます!」
びっくりである。
この世界のクラゲは空中を浮遊するもののようだ。
そして、森林の奥深くにしか生息しないので、こうして人の目に触れるのはとても珍しいという。
「とりあえず……生きてるよね?
何で死にかけていたのかな?
……何を食べるんだろう」
周りを見回し、やっと見つけた平坦な地面に敷物を敷き、アンナリーナは菓子やソーセージ、シチューや果物、生肉まで出して並べてみた。
クラゲはズルズルと這ってソーセージに向かう。
アンナリーナがまたまた驚いたのは、小さな体のくせにソーセージを丸呑みした事だ。
そのあと生肉以外のすべてを平らげ、満足そうに蹲っている。
ツンツンと指先で突いても機嫌を悪くする事もなく、やっと元気になってきたのか、わずかに浮き上がって浮遊し始めた。
「お水は飲む?」
【ウォーター】でチョロチョロと出してやると器の中に入り込むようにして飲んでいる。
「のど?が乾いていたんだね。
元気になってよかった……じゃあ、行くね」
別れの挨拶の代わりに、ツンツンとつつくと立ち上がり【飛行】しようとすると、ローブの裾にわずかな違和感を感じる。
振り返って足元を見てみると、長く触手を伸ばしたクラゲがローブを掴んでいた。
「あれ? どうしちゃったかな?」
今度はクラゲがローブをツンツンと引っ張る。
アンナリーナが手を差し伸べると、また一本触手を伸ばしてきて、そっと指に触れてきた。
「クラゲくん、どうしたの?」
「アルジ……コレハ、アルジトイッショニイタイラシイ」
「そうなの? でも私の従魔にならなきゃ駄目なんだよ? いいの?」
プルプルの体がふるふると揺れる。
どうやら了承しているようだ。
「では、えーっと汝はこの私アンナリーナと契約し、従魔となることを誓うか?」
触手がしっかりと、アンナリーナの指を握り返してくる。
セトの時と同じように淡く光り、契約は終了した。
「あなたのお名前はアマル。
これからよろしくね」




