81『それぞれのこれから』
飲み会用の天幕には敷物が敷かれ、皆は思い思いに腰を下ろしていた。
アンナリーナとマチルダには特大のクッション。これでお尻は痛くない。
男たちも杯を配ったり、自分たちが用意した酒を運んだり、皆忙しそうに動いている。
中でもキンキとジンガが自分たちの毛布を持ち込んでいて、酔いつぶれて寝入ってしまう事が織り込み済みなのが可笑しい。
「嬢ちゃん、何か手伝うことはないか?」
大急ぎで仕上げをしているアンナリーナたちにザルバが声をかけた。
すでに数品、マチルダが盛り付けを終えて運ぶばかりになっている。
それは今までも目にしたことのある照り焼きやローストビーフなど、アンナリーナが作り置きしていたものだ。
見るからにウキウキしているザルバにマチルダが次々と皿を指し示していく。
「それじゃあ、乾杯ー」
何を、とは言わなかった。
この先、何がどうなるか、まだ見通せないのだ。
だが皆、それは明るいものだと信じている。
「えーっと、今日は新作の料理も用意してみました。
じゃじゃ〜ん!」
アイテムバッグから出されたのは、まずはフライドポテト。
素早くフランクの手が伸びて、ひとつかみする。
「めちゃくちゃ美味いんだよ!
ただのジャガイモなんだけど、油で揚げて、塩を振っただけなのに、だぜ?」
「油で揚げた?」
意味がわからないザルバたちが恐る恐る手にとって、口にする。
「!!なんだこれ!?本当に芋なのか」
「まだまだだよ〜
次はこれ、トサカ鳥のから揚げだよ」
地味な色合いの、大人の男なら一口でも食べられるくらいの大きさの塊。
それが山になって積み上げられている。今度もザルバが訝しげに一口、囓った。
カリカリの食感から溢れる肉汁。
それが絶妙な味付けと油の風味が相まって……虜になる味だ。
「これと一緒に食べると、一段と美味しいんだよ!!」
アンナリーナは瓶ビールを取り出し栓を抜く。
エールよりもずっと辛口で、炭酸の効いた飲み物を一口飲んで、一番に喜びの声を上げたのはキンキだった。
「美味い! これは一体なんだ?
凄い酒だよ、嬢ちゃん」
「これも師匠の遺したものなの。
私はお酒って飲まないからね。
どんどんいっちゃって」
酒と肴がどんどん進む。
そうして始まったのは皆のこれからの事だ。
「私はここに、いえマリアさんの元に残ろうと思うの」
もう、ジャマーさんには言ったわ。とマチルダが笑う。
「ここ数日お世話していて……ずっと心に閉じ込めていた、亡くした娘の事を思いだしていたの。
もうこの年だし、そんなに長くは一緒にいられないけど、少しでも力になりたくて。それにほら、女同士じゃないとし難い話もできるわ」
アンナリーナはその話を聞いて、ある意味ホッとした。
ザルバたちから、そこそこの資産家だろうと聞いていて、奴隷商人に売られることはない、という話だったが身寄りがないとも聞いていたので心配していたのだ。
「嬢ちゃん、俺らはここで雇ってもらう事になった」
身代金が払えず、奴隷確定だった2人だが、これから商売する予定のデラガルサの、特に鉱山に詳しい事が有利に働いた。
ジャマーたちはポーション販売だけでなく、独自にダンジョン探索もするようで、それに彼らは役立つだろう。
「俺たちは今までと同じように乗り合い馬車を運行する事になるんだが、違う点は領都からデラガルサに冒険者を送るという事だ」
ザルバの話ではもう第一陣が馬で峠を越え、デラガルサに到着したそうだ。
そのほとんどは領主の私軍で冒険者たちも続々と集まってきていると言う。
「その連中を輸送するのに乗り合い馬車の組合に依頼が入った。
俺らもそこに紛れ込んで情報を仕入れてくるんだ」
「出発は?」
「明日の朝だ」
その言葉を聞いたアンナリーナは瞬時にツリーハウスに駆け込んだ。




