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天使のチョーカー  作者: 福森 月乃
つばさおれる
10/19

ターンオーバー・ア・ニューリーフ

翌日は晴天だった。

窓から朝日がダブルベットで寄り添うキメラとクーに差し込んだ。

眩しさに顔をしかめキメラは体を起こした。腰まである髪が肩を流れ背中に波打つ。視線を落とすと心地良さげにクーが寝返りを打った。

一晩中語り合った二人は疲れていつの間にか寝たらしい。

キメラはベッドから足を投げ出し大きく伸びをした。

ストラスアイラの捕り物劇はこの種族の生みの母により幕を閉じ、一連の騒ぎは落ち着きを取り戻していた。キメラとクー以外は日常と変わらない一日を送っている。

洗面所に移動し鏡を覗くとキメラは肩の力が抜けた。

泣きはらした赤い目。そのまわりは腫れぼったく、情けないことに隈もできている。

酷い顔だ。

生みの母バースが寛大な処置を取ってくれなかったら今頃どうなっていたのだろう。

バースはこの種族を唯一生み出すことが出来る存在だ。女性の生殖器は彼女にしか存在せず体の老化と共に2500年を周期に自分を産んで生まれ変わる。彼女以外の平均寿命が500年前後なので異常な長さだ。男女共に産めるが男性の数が圧倒的に多く繁殖期には年間平均388をも数を生む。交尾を終えた男はそこで寿命を終える。

バースに不慮の事態が起こり生まれ変わりを産むことなく亡くなった場合、産んだ子女の中から只一人突然変異し、また新たなバースとしてこの種を存続していくことになる。

生ける者の魂を読み取る際に特殊な物質を体に取り込み、それを彼らは糧としていた。

もちろん日常において人間のように飲食するが、この糧なくしては生きてはいけないのだ。

 一見穏やかな彼らだが、生命力、戦闘力が高く知識も高度で厳しい生活を好む。

その為自ら階級制度を立てそれぞれの役割をはっきり分けており、縦割りだけでなく横の関係もそれに例外はなかった。

階級の頂点に立つ二階級インペラは必ず女性で法を生み廃棄するのも彼女次第だ。しかし、それを施行するにはバースの了承が必ず必要になる。独裁にならないよう世界地域単位で統治するニスタの面々と会議を重ね最終的に決定する。その下に国家単位で御魂の発生状況と捕獲率を管理するトゥクス。その下が国の地方ごとにあるソロルで仕事に関する改善や労働基準の改訂など実働部隊の指揮、衛生管理を行う役職だ。その下に実際に御魂を送る実働部隊、ファリアがある。

ミツバチに似た特異な社会性で、ほかの生き物と交わることはほとんどなく平和な生活を送っている。

その中で当たり前に暮らしていたキメラは、自由と便利さを追求する人間の暮らしを好きではなかった。

島で過ごしている間は必要なものは全て自分で材料を探し自らの手で作り出していた。

 誰もがそれが当たり前で必要とするもの以外は無駄がない。


「まだ、悩んでいるの?」


 背後からクーの声がする。キメラは濡れた顔をタオルで拭きながら答えた。


「人生の分岐点よ。そう簡単に結論は出せないわ」


ひたひたと素足の音が近づきクーはキメラの横に肩を並べた。キメラより身長が十センチほど低く頭の天辺しか見えない。

 鏡越しに二人は見つめ合った。


「答えは至極簡単だと思うけど。自分が人だろうと別の生き物だろうと、本心に従えば間違いはないとわたしだったら考えるよ」


クーは言いながら洗面台に用意されていたコップに水を並々と注ぐとうがいを始めた。

 タオルを籠に入れるとキメラは彼女を盗み見て素早くその場を離れる。


「簡単に言わないで、私、一人の問題じゃないから悩んでいるんじゃない」


寝室のクローゼットを開きキメラは中を物色しながら口を尖らせた。

クーも後から寝室に入るとスプリングの効いたベッドに座り、クルミ材を曲線に加工し大胆な花模様の 彫刻が施された寝台を撫でながらきっぱりと言った。


「なあに、皆に迷惑かけたくないとか思っているの?」


 目の前に掲げた空色のワンピースをゆっくり下ろすとキメラは呟いた。


「わたし、戻ったほうがいいよね。人間の世界に、人間なんだから」


クーはベッドの上に紙袋を放り投げると中身を取り出し始める。洋服、アクセサリー、靴がシーツの上に並ぶ。彼女の桜色で柔らかいカールした髪が肩の上で綿毛のようにふわふわと揺れた。

 驚いてキメラはクーによって厳選された服や小物を呆然と見つめた。どれも人間の流行りの衣装だ。


「取り敢えずコレ着て!私も着替えるから。その後メイクもね」


 クーは有無を言わさずキメラの服を脱がし始める。

「ちょっ、ちょっと待って、自分で脱げるから」


体を捩り自分から服を脱ぐ。その横でクーも着替え始めた。

 数時間後、ドタバタと準備を終わらせアパートを出た二人はまるで別人のようだった。


「こ、この格好は」


キメラは恥ずかしさのあまり引き返そうとした。しかし、クーに腕を掴まれて引き戻された。キメラは生まれて初めて人間の洋服を着ている。

黒いバックル付きアニマル柄オフショルワンピースに黒のロングブーツ。金髪のセミロングウィッグにタレ目に整形した盛り睫毛。カラコンは鮮やかなグリーンだ。

このワンピースは肩の露出が目立つ。そう、肩がむき出しになっている。

 クーは花柄のミニスカレースワンピにGジャンをラフに着こなし黒いトレンカで足元を締めている。足元はレースワンピとお揃いの大きい白い花のコサージュがあしらってあるパンプスだ。

勿論、メイクはキメラと同じくタレ目メイクだがタレ目が増々垂れて見える。ライトブラウンのウィッグに目は青いカラコンできらきら輝いている。

彼女のスカートは、ちょっと捲れたら中身が見えそうだ。

「これぞ、渋谷ギャルでしょ!人間社会に戻りたかったら社会科見学に行かなきゃ」

元気に拳を高く上げるとクーは足取り軽く住宅街を歩いて行く。がっくり肩を落としたキメラがその後に続いた。


 渋谷はいつものように人と車でごった返していた。

スペイン坂の上がりきったところにある白いコンクリートビルに赤いロゴマークが目立つカジュアル服を扱うユニクロ、道に挟まれた三角地の角に経つ円柱形のビル109は最新のファッションを提供している。

ヤマダ電機を左に道玄坂下に出ると全面ガラス張りのビルが目に入る。アメリカ資本のフォエーバー21は衣類だけでなく多数のアクセサリーを取り扱っている店だ。

赤レンガに黄色い目立つ玄関口の西武LOFT館は文具点数渋谷最大で、インテリア雑貨も多く取り揃えてある。

毎日公演が行われているよしもと∞ホールへと続くセンター街を抜け井の頭通りへ出るとNHK放送センターに突き当たる。そして渋谷区役所を介して線路沿いにUターンして小売店を巡り、渋谷新南郵便局を過ぎ、ファッションのみならず多彩なエンターテイメントを提供するパルコと男性ファッション、アイテムを取り扱うルミネマンへと続く。

 熱帯魚が泳ぎ珊瑚があしらえた水槽を携えたダイニングキッチンで食事をしたり、デパート内のスイーツ食べ放題で嫌というほどケーキを食べたりフルーツパーラーで果物盛り沢山のパフェを二人でつついたり、デパートを隅々まで探索し流行のファッションに触れ、ひしめく飲食店やブティックや雑貨店に至るまで気が済むまで見て回った。

一巡する頃にはすっかり日が暮れていた。

クーにクラブに誘われたが、散々歩きまわって人に酔ったキメラはきっぱり断った。

今日は死んだように眠れるに違いない。

アパートに帰ると窮屈なブーツを脱ぎ捨て、派手な洋服からラフな普段着に着替えた時、安堵の溜息が漏れた。

お風呂を準備してゆっくり浸かりこのゴテゴテメイクを剥がしたい。

つけ睫毛と化粧を落とした後、帰りにクーとテイクアウトしたファストフードという食べ物を口にする。

薄味で素材の味を活かした料理に慣れていたせいか味が濃くて後味が諄かった。

食べている間にお風呂が沸き食事の後入浴し、予想通りベッドに横になると夢も見ないで眠りについた。

 翌日、昨日のデジャブを見ているかの展開が待っていた。

意味ありげな笑みを浮かべるクーの手には紙袋がある。

例のごとく時間をかけてメイクしおめかしすると二人はアパートを飛び出した。

「今日は原宿青山よ」

おさげにしたクーはビエラパネル柄のチュールギャザースカートをひらひらさせながら言う。

今日のファッションは昨日より幾分マシだ。

ベージュのトレンチ帽にブラウン色の鍵付きボストンバック。

綿のレースピンタックブラウスにテンセル綿の4つボタン付きツイルショートトレンチを羽織っている。

アウターは淡いピンクベージュ色だ。薄い生地のスカートの下からダイヤ柄のトレンカに包まれた健康的な太さの足が地面に伸び、コートと同じ色のインナー付きレースアップショートブーツが足元飾っている。

 キメラはお洒落な彼女にしばしば見とれてしまう。背は自分の肩よりも少し低く小柄なのにグラマーな体型だ。人を惹きつける大きな深緑の瞳シミひとつない白い肌。薄い眉は小さく弧を描いており、鼻もそんなに高くなくお飾り程度にちょこんと付いている。口も小さいが魅力的な厚みがある唇がピンクのグロスで潤んでいる。

 それに比べてキメラは痩せすぎで腕も足も細く長く、胸も服の上からではあるのかないのかよくわからない。

そんな体型をカバーしてかセーラーテイストのTシャツに体のラインを隠す赤と青のボーダーラインのパイルパーカー、大きいサイズで古着のオーバーオールを履き黒のビンテージスニーカーで足元を飾る。

背中にはピンクのラメ入りリュックを背負っていた。

目深に被っていたキメラの帽子の鍔をクーは親指で押し上げる。

「帽子はそんなに深く被らない」

明るい調子で声を上げるとウインクしてみせる。

二人は原宿方面へと駆け出した。

 賑やかで派手なお店が多かった渋谷に比べて、桜や銀杏並木の街路樹に彩られた原宿、青山は北西に新宿御苑、北東に赤坂御苑、東に青山公園に囲まれた緑多い地域だ。

南から北へ伸びる二本の道はかつて路面電車が走っていた。今では7車線の広い道路の青山通り、場所によって名前を変える明治通りは三十キロ以上の長さを誇る。その二つの道路を跨ぐように表参道が横切り、六本木通りと青山通りを繋ぐのが骨董通りだ。

そもそも原宿とは明治通りに囲われて原宿駅を介し、その通りを横切る竹下通りその先の原宿通り周辺のことである。

 キメラとクーは人でごった返し狭い路地にひしめき合い並んでいる店舗がある竹下通りを歩いた。十代女性向けのショップが多くアイドル雑貨の店もある。

順番待ちして噂のクレープにやっとありついた二人はブラームスの小径と呼ばれる小さな石畳が敷いてある場所へ抜けだした。

表通りと一変してヨーロッパ風の建物が並びシックで洗礼された裏路地の風景が広がった。

カフェやレストランの建物を眺めるだけでも十分楽しめ、二人はあっという今に明治通りに出た。

ポップでキュートなソラド原宿の建物が左手に見える。

 原宿通りはセレクトショップや古着屋さんなどが並び個性的なお店が続く。この辺りはキャットストリートと原宿とんちゃん通りになり、今流行りのパンケーキは人ごみと行列にウンザリした二人はあっさり行くのを諦めた。

表参道に抜け同潤会青山アパートの跡地に建てられたショッピング施設表参道ヒルズを左手に見ながら高級ブティックや副商業施設を眺め青山通りに出た。

通り沿いのレストランで食事をし、ウィンドウショッピングを楽しみながら骨董通り、六本木を散策しぐるりと周辺を一周してワタリウム美術館で現代芸術を堪能して帰路についた。

 キメラとクーはアパートへ戻りスーパーで買ってきた夕飯の材料をキッチンで広げると、手際よく仕事を分担して調理にかかる。彼女たちの会話は途切れることなく可愛すぎるショップが並ぶ原宿と美術館での作品の話に花を咲かせた。

キッチンはダイニングキッチンになっておりキッチンとダイニングは対面式だ。

壁とキッチン回りの六人がけダイニングテーブルはホワイトアッシュ材で施された淡い白色。床はアジアンウォールナット材で、梁と柱は黒飴色の松古材をリサイクルした品だ。部屋の雑貨や照明に至るまで白と黒で統一されておりショールームのようだ。

 二人だけでは広すぎるテーブルに向い合って座りテーブルの上に並べられた色鮮やかな料理にキメラとクーは舌鼓を打った。

まるで二人は姉妹のように他愛無い話に夢中になり夜はあっという間に更けていく。

帰るクーを見送った時キメラは寂しさえ感じた。


会話が少ない分短めにあげました。

うーん、小題の発音はあってるのかいまいち自信有りません。

間違っていたらすみませんw

英語では「turn over a new leaf」てな感じです

間違っていたらご指摘お願いします。


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