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第五十五話:長い夜

 夢華と兄達が戻って来るのを待っていた純は、船に向かって来る気配を感じて陸地の方を見ると秀が鳥の女神を横抱きにして走って来るのが見えた。


 そして、秀は一行が待つ船にひょいと軽く跳躍して乗り込むと甲板に彼女を下ろして船室に続く壁に彼女を寄り掛からせる。


「秀! 誰だその美女は!」

「鳥の女神殿ですよ」

「うっひゃ〜! 羽みてぇに睫毛長ぇし、いかにも知的美人って感じだし、何かこうそそるものが……」


 そう告げた瞬間に森は殺気を感じた。その殺気を放っているのは闇の女帝殿である。


「変な気は起こさないことだな。鳳凰に消されるぞ」

「まさかジェラシー……、すみませんでした、自惚れてました」


 危うく二度と朝日を拝むことが出来ないところだったが、運よく闇の女帝はいま力を使い切っているために闇に沈められることはなかった。


 かといって、力を取り戻したときにどうなるかの保障は無いのだが……


「でもさ、龍兄貴が鳳凰を倒しちまったら武の道に反しちまうって理由で自害も選択しかねないんじゃないのか?」

「鷹族の業か……」


 翔の言う通りで、龍に負けた鳳凰は鷹族の使命を全う出来なかったと自害する可能性は捨て切れない。それが彼の道であったことは誰もが理解していること。


 ただし、それを龍が阻止することを沙南は信じていた。人を救うことが龍の道だとわかっているからこそ、その表情は強い信頼が浮かぶ。


「大丈夫よ、龍さんは鳳凰も連れて帰って来る。だけどそのためにも……」

「ええ、啓吾さんと桜姫さんが武帝に勝つことが絶対条件です」


 その時、空が光ったかと思えばいきなり爆風が波を生んで船体を大きく揺らした! これほどの影響を及ぼす力を放つものなど感覚的にも一人だけしかいない!


「桜姫か……!」

「森さん! すぐに船を島から離してください! このままじゃ巻き込まれます!」

「オウ!」

『龍さん……!!』


 島から離れていく中で沙南はずっと崩れかけたホテルを見つめていた。ただ、無事に戻ってくるようにと……



 天が近くにある。ただし龍と違うところはその天は朝と言うより夜、力強いと言うより悍ましいと対比したもの。

 元は同じ龍の秘めていた力なのだが、暴走して龍が封じ込めておけない負の力を桜姫はその身に宿して操る。

 しかし、それはあまりにも巨大過ぎる力なため、諸刃の剣と呼ぶに相応しい力だ。


 そんな力を目の当たりにした武帝は静観な顔付きをして低く呟いた。


「天の負の力か……。何と禍禍しいことよ」


 負の力を解放している時はその身に纏う花びらが光りを帯びていてもただ綺麗という表現が正しいとは言えなくなる。残酷な美しさと例えた方が正確だ。


 禍禍しいと評した武帝の言葉は確かに当たっていると使っている本人でも思うわけだが、それでもこの力が彼女が龍に膝を折る理由だ。


「武の道もろくに進めぬ愚か者はやはり語彙力も乏しいもの。あなたに使うには過ぎた力ですが主のため、一刻も早く消えていただきます」

「ほざくな! その力を寄越せ!!」


 次の瞬間、巨大な力同士がぶつかりそれは大きな衝撃を生んで互いを弾き飛ばす! しかし、啓吾の重力で武帝より先に踏み止まれた桜姫は空を蹴って黄金に光り輝く花びらを放つ!


「散りなさい!!」


 威力は先程の倍。武帝がどれだけ力を上げていようとも天の力を完全に掻き消すことは出来ずその肉体に裂傷が刻まれる! それに武帝は怒りに顔を歪ませて桜姫に突撃していった。


「桜姫!!」

「咲き乱れなさい!!」


 繰り出された拳を無数の花びらの盾が防ぎ、桜姫は宙を舞って武帝の後ろを取りそこからさらに花びらを散らしたが頸動脈に届く前に武帝の力と相殺される。


 しかし、武帝も力を解放しているだけあって、後ろを取られたことと致命傷を負わされそうになったことは彼をさらに激怒させるには充分だった。


 武帝の身体に刻まれた文字が光ると、ホテルの残骸が彼の元まで浮き上がってきて、それを彼の力と組み合わせて桜姫に放つ!


「たかが従者風情がぁ!!」

「桜姫!! そのまま突っ込め!!」


 武帝から繰り出された拳から強烈な爆風がさらに多くの瓦礫を巻き込んで桜姫に叩き付けられようとしたが、啓吾は青き瞳を輝かせると桜姫に当たりそうな障害物を全て重力で操り、さらには武帝をも重力で縛り付けた!


「ぐっ……! 啓星っ!!」


 武帝の身体が赤黒く光りすぐに重力が掻き消されそうになったが、それだけはさせるかと無理矢理力で押し返した!


「くそっ……! 縛られてろ!!」

「うがっ……!!」


 強化したというのに肉体に掛かる重力で武帝の筋肉に痛みが走り、その一瞬に出来た隙を逃すものかと桜姫は武帝の懐に飛び込んで天の力を叩き付けた!


「御覚悟を!!」

「ぐああああっ!!」


 存在そのものを消し去りそうな衝撃が武帝に走りその肉体を破壊していくが、ギリッと奥歯を食いしばって痛み以上に彼の怒りが上回りその手が桜姫の首を絞める!


「桜姫っ!!」

「うぁっ……!!」


 まだ動くのかと脳裏に過ぎるが、首を絞める力が強くなると同時に身体から力が奪い取られていく感覚に桜姫の表情は歪む。

 抵抗したくとも、元々限界の状況で戦っていた桜姫は武帝を一撃で仕留める力をもう持ってはいない!


「貴様のその力! 我が糧と変えてやる!!」

「誰がさせるかぁ!!」

「邪魔するな!!」

「ぐうっ……!!」


 桜姫の元に駆け出そうとした啓吾は武帝の放つ衝撃波の直撃を受けて壁に背中から激突した。


 そして武帝は自分の身体に流れてくる力に血走った目を見開き、歓喜に満ち溢れたような声を張り上げた。


「消してくれる……!! 我が武の道を阻むものを全てだ!!」

「ああっ!!」


 首の骨をへし折ったと同時に武帝はついに天の力を手に入れたかと思いきや、ふわりと花びらが舞い始め、さらには桜姫の身体も花びらとなって散っていく。


 そして、武帝は現実と直面することになった。そう、桜姫と戦う上で警戒しなければならないのは諸刃の剣となる天の力だけではない。


「幻術だと……!!」

「呪術を使う癖して見破れないとは情けねぇもんだな」

「全くです。主のように文武両道はやはり不可能ということ。それで主に挑もうなど愚か者の証拠です」

「このっ……!!」


 武帝は動こうとしたが、武帝が幻術にかかっている間に啓吾が重力の糸を張り巡らせていた上に桜姫の幻術の支配下にあった脳が動くことを阻止していたのだ。


「ですが、そのおかげでこちらは力を溜めることが出来ました。その点のみ感謝致します」


 桜姫は目を閉じると、黄金に輝く花びらを身に纏って武帝に突っ込んでいく。

 最後の抵抗と言わんばかりに武帝も呪術を発動させて啓吾の重力の糸を弾き飛ばして桜姫を迎え撃とうとしたが、時既に遅く、桜姫は天を叩き込んだ!!


「散りなさいっ!!」

「−−−−!!!」


 声すらも花びらは飲み込んで、そのまま武帝を消滅させたのだった。


 そして、戦いが終わって桜姫の目の色から黄金色が消えると天も静けさを取り戻す。とりあえず一段落ついたかと啓吾も力をおさめてホッと溜息を吐き出した。


「さて、あとは龍だが……! 桜姫!!」


 宙に浮いていることすら出来なくなった桜姫は危うく落下しかけたが、啓吾が急いで彼女の重力を操ってそれを止めて身体を支える。天の負の力を解放した性か身体はガタガタだ。


 しかし、それでも桜姫は龍の心配をしてしまうわけで……


「申し訳ござ…ませ……、啓吾さ、ま……だけど、主…を……」

「ああ、だけどこの戦いを止められるのは俺達の主だけだ。分かってんだろ?」


 従者だからこそ感覚で分かっている。龍も天の力を解放しており、すでに自分達が入ることも出来ない戦いになっていることなど……


 ただ、夜がいつもより長く続いているような気がした。




お待たせしました!

やっと武帝撃破ということで長かったなぁ……としみじみ。

うん、お付き合いしていただけてる皆様に感謝です。


あとは龍と鳳凰の戦いを残すのみというところですが、武帝を倒したというのに止められないという……

難儀だなぁと思いながらも戦いは続くのであります。


こっちの番外編はあと残すところ数話というところかなぁと。

一体どんな終わりになることやら……


では、次回もお楽しみに☆




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