第五十四話:二人の従者
船に戻ったテロリスト一行はホテルで繰り広げられているであろう戦いに僅かながらの不安を覚える。負けるはずはないと信じてはいるのだが、きっとここに戻って来るときはボロボロなのだろう。
そして、先程桜姫を回復させるために殆ど力を使い切った紗枝の下に仕事はここまでと宮岡はやって来た。
「紗枝ちゃん、桜姫は大丈夫なのか?」
「ええ、覚醒している状態だから傷は全て塞がってるんだけど、力は完全に回復しているとは言い難いわ」
もともとかなりの力を持つ桜姫だ。それを全快させるとなれば紗枝を倒れさせてしまうほどにはなる。
しかし、それ以上に心配していることは彼女の体の負担だ。ただ、彼女が戦うと決めた以上、誰も止めることは出来ないのだが……
「それで天の力を解放したら……」
「ええ、当然体はガタガタになるわ。出来れば使って欲しくないけど、桜姫が出なければならない強さを武帝が持ってるなら止められないしね」
海風が髪を揺らして通り過ぎていく。紗枝は力が激しくぶつかっているであろうホテルの上空を見上げて、桜姫とともに戦っている啓吾の事も思った。
どうか、無事で自分達のもとに戻って来るようにと……
幾度か武帝との攻防を繰り広げた後、フワリと花びらを纏った桜姫は啓吾の隣に立てば、やはり医者なのか彼はすぐに桜姫が本調子じゃないことを見抜いた。
「……無茶させてるな」
「お気にせず。後のことは皆様にお任せ致しますから」
「そうか、だったら頼りにさせてもらう」
そんな短い会話をした後、二人の視線は再び武帝に向けられた。二人掛かりで何とか勝機を掴める程度という感触は先ほどの攻防で覚えたが、おそらくまだ隠し玉を持っているであろうことは容易く予測できる。
なんせ、この程度で苦戦してくれるのなら鳳凰がとっくに返り討ちにしているはずなのだから……
「啓星、桜姫、まずはお前達から消させてもらう」
「バーカ、誰が消されるかってんだ」
「全くです。武帝の称号のみを手にするだけに留まっておけば良いものを」
「黙れ!!」
拳を突き出し爆風が二人を叩き付けるが、啓吾も桜姫も軽くガードするだけに留めて表情一つ動かさなかった。
しかし、武帝にとってはかなりカンに障ったらしく怒りに満ちた真っ赤な闘気がオーラとなって揺らめきはじめる。
「あの男の存在が私の全てを霞ませた! 天下一の強さを手にするのはこの私だ!!」
「天下どころかお前は奈落の底に叩き落とす!」
「天に立つのは主のみ! 貴方などではございません!」
啓吾と桜姫はカッと青き目を見開いて武帝に突っ込んで行き、重力と花びらを同時に叩き付けた!
「掻き消してくれる!!」
「ちっ……!!」
覇気と腕を振っただけで重力を掻き消された上に桜姫の花びらも弾き返される。
一体、今度は何を仕込んで力を無効化させてくれてるのかと思うが、剥き出しの腕には鍛え上げられた筋肉のみが目を引くだけで、特に何かを付けているわけでもなかった。
そして、自分のもとに花びらを返されたとしてもそれは桜姫を傷つけることはなく、また新たに桜姫が繰り出そうとしていた花びらと合流して一つの力となれば、彼女は青き瞳に更なる強き光を宿してそれを武帝に放つ!
「舞い散りなさい!!」
花びらが武帝に襲い掛かり彼を切り裂こうと縦横無尽に舞い散るが、それを面倒だと言わんばかりに気迫で弾き飛ばした!
「生意気な!!」
武帝に弾かれた花びらは完全に力を失って地上へと舞落ちていったが、だからといって桜姫が攻撃を止めるはずもなく彼女は武帝の懐に飛び込んだ!
「これで!!」
「させん!!」
武帝の鳩尾に花びらを纏った手を叩き込もうとしたがその腕を武帝は掴み、もう片方の手は桜姫の喉輪を掴んで高く持ち上げる。
「桜姫! まずは貴様から始末してくれる!」
「誰がっ……!」
首を閉める力がさらに強くなる。しかし、そこで彼女は啓吾に助けを求めるほど弱くはなかった。
力を一片の花びらに込めると、桜姫は両手で武帝の手首を掴んだ!
「くっ……! 切り裂け!!」
「ぐうっ……!!」
手首を花びらで切り力が緩んだところを桜姫は抜け出す! 若干の返り血を浴びたが彼女はそれすら気にせずすぐに力を溜めた。
「桜姫!!」
「くらえっ!!」
重力を増したホテルの調度品の数々が武帝を叩き付けようと横殴りに放たれると、さすがに気を取られたのだろう武帝はそれを避けざるを得ない状況に追いやられる。
しかし、その一瞬の隙に桜姫は逃げることをせず花びらを鋭く武帝に切り付けた!
「舞い散りなさい!!」
「ぐっ……!!」
今度は両方の足を切り付けられて武帝がバランスを崩せば、好機と二人は武帝に飛び込んだ!
「もらった!!」
「御覚悟を!!」
「……ふざけるな!!」
ガラリと空気が変わった瞬時にまずいと察知した二人は左右に飛び散り上空で踏み止まる。それから不気味に武帝の体が赤黒い輝きに包まれたかと思えば、体に古代文字が浮かび上がってきてそれは魔法陣だと悟った。
啓吾はどこかで見たことがある気がしたが、もっともな感想を口にした。
「何だよあのタトゥーは……」
「呪術の陣です。おそらく力をより高めるための」
「ドーピングみたいなもんか……」
「ええ、その程度を願いたいところですが完全にものにしているみたいですね」
「ちっ、面倒な奴だ」
啓吾は舌打ちしてどうしてやるかと武帝を見据える。呪術を打ち破るとなると、こちらの力もリミッターぐらい外さなければおそらく対峙することもままならなくなる。
しかし、自分はともかく桜姫の力は完全ではないのだ。出来ればあまり負担を掛けたくはないが……
「啓吾様、天の力を解放します」
「……やれんのか?」
「やります。そうしなければあの男を葬り去ることは出来ません。それに主の前に立つことなく消えていただいた方がより屈辱的ですから」
「本当、こういう時でも辛口だよな……」
「恐れ入ります」
綺麗な微笑を浮かべる相方にやれやれと思いながらも、確かにそうしたいと思うのは啓吾も同じだった。
そして、啓吾はもう一度武帝を見据えると、やはりやるしかないかと彼も腹を括る。
「桜姫、フォローするからお前は武帝を消し去ることだけに集中しろ。ただし、攻撃は外すな」
「かしこまりました」
そう答えた桜姫は一旦目を閉じ、そしてふわりと纏う空気が変わったかと思えば、いきなり武帝の体に激しい力が叩き付けられる!
「ぐうっ……!!」
天の力を解放してきたかと武帝は桜姫を睨めば、そこには黄金の瞳を持つ天空王の従者がただこちらを滅ぼそうとしているのだった……
お待たせいたしました☆
また何日待たせてんだよ!とのツッコミがきそうですが……
ノクターンの方も更新ゆっくりにしてますからねぇ……
ということで、今回は啓吾兄さんと桜姫に頑張ってもらった回でした。
このSコンビ、敵と見なしたものには本当に容赦ないですね。
ただ、バトルより口の方が達者なのは天空記ならでは(笑)
う〜ん、一回短編でどこまで天空記のメンバーが口が達者なのか書いてみようかな。
いや、ちょっとまずいかも??
はい、そんなこんなで次回もお楽しみに〜☆




