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プロローグ 前編

ライトノベルの定義がよく分かっていませんが、台詞が多ければ良いのかな?くらいの感覚で気分転換に書いてゆきます。よろしくお願いします。

サメ映画万歳 オカルト万歳

「まさか、お前がアノホコしたのか!?」


 鮫守凪彦が高校から帰宅したところ、玄関に入る前に誰かに呼ばれたような気がして裏庭の祠に向かった。それは鮫守家が代々祀ってきた祠であり、触れることは禁止されていた。しかし、凪彦は祠が光っていることに気付き、思わず手を伸ばしてしまった。すると、そこから小さな鮫が現れ、「こんにちは! また後でね!」と言いながら空へと飛んでい行った。

 という話を家族に伝えたところ、突如として祖父に怒鳴られて現在に至る。

 凪彦としては、あまりにも荒唐無稽というか、まさしく馬鹿みたいな嘘を吐くなと呆れられると思っていたわけだが、予想に反して厳しい反応が返ってきた。


「えっ、いや、何? アノホコって何?」


 凪彦は聞き馴染みのない言葉に困惑しているが、顔を真っ赤にしながらも、やがて肩を落とした祖父を支える様にして、祖母が続ける。


「あなた、落ち着いてください。アノホコした以上、その時が来たということでしょう。私としても凪ちゃんがアノホコするとは予想外でしたが……」

「ねぇ、アノホコって何?」

「凪彦、まさかお前がアノホコするとはな」


 騒ぎを聞きつけた凪彦の父は二階の仕事部屋から降りてくると、息子の顔を見つめた後、悲哀を誤魔化

すように瞼を閉ざした。


「だからアノホ……」

「どうして凪彦なのかしら。もちろん、他の子供達なら良いというわけではないけれど……アノホコしたからには、もうどうにもならないのね」


 凪彦の母は彼の身体を抱き締め、静かに涙を流す。


「ごめん、感動的なシーンなのかもしれないけれど、温度差から困惑しかない。てか、何で無視するの?」

「凪、落ち着きなさい。私は運命という言葉は好きではないけれど、受け入れるしかないのよ」


 長女の海里は父親に似た鋭い目つきのまま冷静に、それでいてどこか寂しげに言葉を紡いだ。


「海里姉さんも知ってんのかよ。てか、見ての通り、落ち着いてはいるよ。何一つとしてピンって来ていないだけだよ」

「凪兄がアノホコしたって本当!?」


 慌てて帰って来たのだろう。凪彦の妹、美波が居間に駆け込む様にして現れた。


「マジかよ。美波も知ってんのかよ」

「大洋兄さんにもメッセージは送ったけれど、海外ではお別れには間に合わないわね」

「大兄も……逆に長子である長男だけ知らないのは不自然だから別に良いけれど。まぁ、それを言っちゃうと妹が知っていて、次男の俺が置いてきぼりなのは意味分からんけど。てか、お別れって何? えっ、お別れするの?」


 凪彦はその場にいる全員に尋ねたが、誰からも返答はなかった。しかし、すぐにその時は訪れた。

 天上とテーブルの上の空間に渦巻きが生まれ、そこから手のひらに乗るくらいの小さな鮫が現れた。

 水色の肌には蛇のような奇妙な模様が描かれ、腹部は白く、額と身体の一部にサファイアのような青い石が鱗のようについているため、普通の鮫ではないことは一目瞭然だった。


「皆さん、こんにちシャーク! 鮫の精霊ブルースです!」

「……色々と突っ込みたいけれど、その動画配信者みたいな挨拶は何なの?」

「この世界では三百年。フリーベルの時間軸では三千年経過していますが、今日という約束の日まで、英雄と渚ちゃんの血を繋いで頂き、本当にありがとうございました。枝分かれした親戚の方々にもどうか、よろしくお伝えください」


 ブルースと名乗った鮫は小さな体でお辞儀する。


「急に真面目になるじゃん。フリーベルって何? 英雄の血って何? 渚って誰? 何で皆も頭下げてるの? この子鮫は何なの?」

「ブルース殿、この鮫守の家が誓いを果たせることを誇りに思います。しかし……」


 祖父はちらりと凪彦に視線を向ける。


「この子、凪彦は生まれながら、我が家の中では普通の子なのですが……本当に選ばれたのでしょうか? はっきり言ってしまえば、孫を無駄死にさせたくはございません」

「えっ? 俺、死ぬの?」

「確かに凪彦は皆さんの様にフリーベル……分かりやすく言うのであれば、異世界人の血は薄いです。皆さんの様に魔力がありません。しかし、何よりも代えがたい長所を宿しています」


 魔力、それは異世界において魔法を操るための力、もしくは身体強化にも使われるもの。凪彦はファンタジーではお約束の設定なのだろうと、説明されるまでもなく理解した。


「異世界人。あぁ、なるほどね、鮫守家では日常茶飯事だぜ! みたいな異常性の根源なわけだ」


 鮫守家の人間は、はっきりと言ってしまえば怪物や化物が多く、その実力を隠して生きている。

 やろうと思えば拳で岩を砕く程度の事は可能であり、握力は束ねたトランプの一部を引き千切り、脚力は全ての陸上競技においては、現在の、または未来のアスリート達の世界記録更新という目標を不可能としてしまう。そのようなレベルだった。

 しかし、凪彦にはそういった力はなく、どこかコンプレックスのようなものを感じながら生きてきた。


「長所……なるほど。そういうことですか」

「俺の長所って何だ……意外と女子にモテるところとか? なんちゃって」


 凪彦は作り笑いを浮かべたが、誰一人として反応はなく、虚しく響くだけだった。


「だからこそ、彼しかいません。そして、このタイミングで生まれた以上、僕を信じて頂くしかありません」

「……マジで俺に一切説明する気ないんだな、この人達。もう良いよ、今日のログボを貰ってくるから」


 不貞腐れた凪彦は、スマートフォンでソーシャルゲームを起動する。


「分かりました。我らは英雄の系譜なれば、先祖の信じたブルース殿を信じましょう……凪彦よ」

(うおー、新キャラは水着コックリさんかよ! ロリには興味ないが、これはエッ過ぎるわ。三周年記念前に大人バージョンで水着実装とか有り得ん。無料配布の石なんて一瞬で消え去るわ。運営、ここぞとばかりに稼ぐ気満々じゃん)

「凪彦!!」

「ビックリした!! 何だよ!? ずっと無視していたくせにいきなり叫ばないで貰える!?」

「鮫守家の役目を託したぞ」

「その役目を知らないって言ってんだよ!?」

「まぁまぁ、凪彦。後でちゃんと全ての説明をするよ。とりあえず、お別れしよっか? また……会えるからね?」

「何その実家に帰省した先で出来たお友達とバイバイさせようとするお母さんみたいな言い方。それと、またの後の間が気になる」

 凪彦は怪訝そうにブルースを見つめるが、全く視線が合わない。しかし、更に追求しようとしたところで、祖父が言葉を挟む。

「それではまた会える日を楽しみにしているぞ、凪彦。後、おじいちゃん達は怒られたくないと思う一方、真実を黙っているのも後味が悪いから今伝える。何故お前だけが事情を知らないのかというとな、普通にお前が一族内では頑丈さ以外はざぁこだったし、ちょっとその辺りにコンプレックスを感じている節もあったから黙っていた。まぁ、お前みたいなざぁこが選ばれるわけもないだろうという先入観だな。すまなかったな。じゃあ行ってらっしゃい」

「すごい早口で弁明を始めた!? ちょっと待……」


 そして、文句を言う暇もなく、凪彦の身体は渦潮に飲まれた。


「視界がぐるぐるして気持ち悪いんだけど、光の中に消えるとかそういう演出とかは無理だったのか? というか……ここが異世界?」


 凪彦はブルースに文句を言いながら周囲を見渡すと、そこは何もない白い空間だった。


「ううん、違うよ。これから向かうフリーベルという世界では価値観や常識が違うから、その辺りをここでアップデートするんだよ」

「なるほど……そういうのって、自動で何とかならないものなの?」

「あぁ、異世界転生物のライトノベルにありがちなやつね」

「ラノベを知っているのか?」

「もちろん、君が祠から僕を解放した後、しばらく姿を見せなかったのはね、全てというわけではないけれど、地球の歴史を取り込んでいたからなんだよ。君と交流する上で必要な情報も多いからね。比喩表現とかも可能だから安心してね」

「解放したつもりはなかったけどな」


 凪彦は祠に触れただけに過ぎない。その結果、三十分後には訳の分からない鮫と一緒に訳の分からない世界にいる。人生とは儘ならないものだという次元を超えている事態だった。


「まぁ、それはともかく、さてと……じゃあ、始めるよ」


 ブルースがそう宣言すると白い床が渦を巻き、そこから一匹のハエトリグモと一本の鉈のような刃物が現れた。


「じゃあ、この子を殺してみて」

「はっ……何で?」

「価値観と倫理観。身を守るために動物に手を掛けるだけで愛護団体を名乗る暇人が喚き始める世界。その中でも平和で食肉として加工された状態の動物くらいしか生物の死が身近ではない日本に育った子供。奪うことに慣れる必要があるんだ」

「……俺、ハエトリグモ好きなんだけど」

「知っているよ。部屋で見掛けるチャスジハエトリにチャーリーという名前を付けている君だからね。だから、まずはこの子を殺して貰うことにした」

「お前、最悪過ぎない?」


 凪彦は価値観の押し付けはしない。クモが苦手な人が殺虫剤を掛けていても、少し寂しくは思ってもその行動を否定したりはしない。しかし、やは明確なり害虫以外は、例え偽善であっても部屋から外に逃がしてきたため、やはり気分は良くはなかった。


「うん、物が溢れ、平和な国で生まれた子に背負わるには重い業だと思っているよ。でも、だからこそ君には生き抜いて欲しいから最悪の選択もする」


 ブルースからは先までの緩さが消え、凪彦は思わず息を飲んだ。


「可愛いから、自分が好きな生物に似ているから、人間だから……そんな理由で躊躇ったらフリーベルでは何も出来ない」


 多くのファンタジー小説では当然のように人や魔物という存在の命を奪うが、現実ではそう上手くはいかないとブルースは続けた。

 それを聞いた凪彦は、未だ理不尽に巻き込まれた現実への不満はありながらも、ブルースの真剣さを感じ取り、やがて覚悟を決めた。


「……ごめん」


 凪彦はクモを足で踏み潰した。

 そして、それから現れる生物は次々と大きなものになってゆく。

 ネズミ、鳥、犬、猫など馴染み深い生物の命を奪ってゆく。

 それらが本物なのかどうかは凪彦には断定出来なかったが、肌の艶や血液や臓器はとても精巧な作りをしているため、心情に差異はないだろう。


「それじゃあ、最後だね」


 案の定、現れたのは人間だった。

 年齢は三十歳ほどだろうか、口元や手足を縄で拘束された美女だった。


「やっぱり……人間が相手となると何倍も胸に来るものがあるな」


 怯えながら自分を見つめる視線を受けることで、凪彦の身体を吐き気と震えが襲った。


「そうだろうね。申し訳ないと思っているよ。でも一つだけ安心して欲しい」

「何?」

「こいつ、ガチの凶悪犯だから。外見は君達の価値観では美女なんだろうけれど、西暦二三四三年からの十年間で、自分の息子を含めて何の罪もない七人の子供の命を奪っている。ちなみに全て失踪という形になり、二三五七年の現在でも事件としては捜査されていない。だから……えっ?」


 ブルースは少しでも凪彦の痛みを和らげようとしたが、その時には彼は女に鉈を振り下ろしていた。

 神々しいとも言える白い空間の中、肉や骨が砕ける音が響く。


「……ふぅ」


 それからしばらくして、最後の試練を乗り越えた凪彦はそっと息を吐き出した。


「……えっ?」


 ブルースがようやく発することが出来た言葉はそれだけだった。しかし、その戸惑いは凪彦には伝わらないようで、彼は首を傾げる。


「……何だよ?」

「……今の何?」

「……だから何だよ?」

「何って。こっちが何って感じなんだけどね。君、何なの?」

「何が? どうしたんだよ、急に」

「それはこっちの台詞だから。今、普通に人をぶっ殺したよね?」


 ブルースが凪彦の様子を確認したが、心拍も安定している上、他の生物の命を奪った後に起こっていたはずの震えのようなものは確認できなかった。


「いや、ここまでのクズなら良いかなぁって。流石にアレだよ? 相手が平凡に生きている人だったら、流石にもっと躊躇するし、吐いちゃったりすると思う」


 ブルースに引かれていることに気付いた凪彦は慌てて取り繕ったが、子鮫の思考は既に別の場所にあった。


「……なるほどね」


 相手が残虐な犯罪者と言えど、いざ手に掛けるとなると、まともな精神状態の一般人では躊躇は生まれる。現代の刃物などを使った傷害事件や殺人未遂事件などにありがちだ。趣味の範囲でも狩猟を行っているのならともかく、食肉全般を業者頼りにしている人間が、いきなり同族を手に掛けるというのは厳しいものがあり、躊躇いから浅い傷となっている場合も多いという。

 だからこそ、憤怒や憎悪などの衝動の起点がなく、一つの理由があるだけではっきりとスイッチのオンとオフが切り替わるのは、ある意味では異常だと言える。ただの無慈悲なサイコパスなら未だしも、一匹のクモを潰すことを躊躇う言動も、自身に理由があれば無慈悲になる一面も、どちらも嘘ではないところが怖い。


「凪彦、やはり君なんだね」

「……何が?」

「君が選ばれた理由。ご家族が長所と言っていたのは、その心身の強靭さ……というよりも、精神面の複雑さかな。そして、君は魔力はないけれど、特殊な体質をしているよね?」

「まぁ、そうだな。魔力云々は知らないけれど、身体はめちゃくちゃ頑丈。後、仮に怪我や病気とかしてもすぐ治る。ただ……家族がアレだから、そこまで異常には思えなかったな」

 

 幼い頃、凪彦は赤ん坊の妹との接触を禁止されていた。今ならそれが家族からの愛情だと分かるが、妹の誕生を喜んでいた彼にはとても悲しいことだった。そのため、こっそりと近付いて妹の手の平に触れていたら、指を掴まれたと思えばそのまま圧し折られそうになり、何とかそれには耐えたものの、突然の浮遊感と共に天井へ激突し、当然のように床へと叩きつけらた。

 しかし、その後に病院に行った記憶もなければ、その日の夜には普通に食事をしていたことは何となく覚えている。その後も当事者は遊び感覚であっても、一般人なら大怪我は免れないであろう、家族間でのじゃれ合いはもちろん、三年ほど前、正月に帰省した酔った叔父と相撲を取って、地面にめり込まされたこともあったが、その時も無傷だった。


「うん、そんな君だからシャークマンに選ばれたんだね」


 何世代にも渡って異世界の血は薄まり、その中でも戦闘のための才能という面においては他の地球人と大差ない凪彦だが、精神性と魔力とは無関係の頑強さがある。それこそが英雄の血筋から彼が選ばれた理由だと、ブルースは断定した。


「……何か、すごいダサい響きが聞こた気がしたんだけど」

「さてと、次はフリーベルの基礎知識の勉強だね」

「シャークマンの説明をしろよ。今日、皆に無視されて、そろそろ悲しくなってきているんだよ」

「メンタルが強いのか弱いのか、本当に分からない子だね、君は。大丈夫さ。逐一説明していると効率が悪いだもん。どうせ君がごちゃごちゃ言ったところで、異世界でシャークマンをやることが決定しているわけだからさ」

「俺が悪いみたいな言い方するなよ! こっちは理不尽オブザイヤーの金賞候補だぞ!? 配慮をしろ、配慮をよ!!」

「自分が一番不幸だと言わず、ちゃんと候補止まりにしているところに、生来の人の良さを感じるね」


 ブルースは凪彦との旅は楽しくなりそうだと確信し、心から笑って見せたのだった。

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